シンさんのDTM入門講座
宿舎では夕食後の自由時間を少し挟んで、21時から23時くらいまで各々自主レッスン時間にしている。
高校生組は勉強したり……はなくて、今は主にダンスレッスンをしている。
ユウトがそれに付き合っている感じ。
シンは録音スタジオにこもって曲を作っている事が多い。
プレデビューの話が社内的に進められそうなので、シンに報告するため地下のスタジオへ。
録音スタジオを覗くと、部屋の片隅に作った作業スペースでヘッドフォンをしたシンがいる。鍵盤を叩きながらパソコンのキーボードも操作するという、器用な事をやっていた。
私が入ってもまったく気づかない。
そんなに広い部屋でもないのに、凄い集中力。
邪魔しちゃ悪いかな、また出直すか。
「奏さん?」
退出しようとドアノブに手をかけたときに、呼び止められる。
「ごめん、邪魔しちゃった?」
シンはヘッドフォンを外し、私を怪訝そうに見ている。
「いえ、大丈夫です。用があったから来たんでしょう?」
「ええと、まぁそうなんだけど」
「そんなに邪魔するなオーラ出てましたか?」
「うーん、そだね。かなり」
「そんなつもりはないんですけど。集中すると何も聞こえなくなっちゃって、すみません。感じ悪いですね」
「いやぁ、そんな謝らなくても……全然こちらは」
すぐに隣の椅子をクルっと回してすすめてくれる。
「どうぞ座ってください」
シンは背もたれに背中を預け天井を仰いだ。そして、何度か瞬きをする。
「進行状況はどんな?」
私はPCの画面を覗く。
波形みたいなカラフルな色が上から下の方まで並んでいる。
「もうすぐ、ファーストソングが出来そうです」
「え、早いね。凄い」
「何曲かためないと……奏さんのオーダーも難しいんですよ」
「ん、そう?」
「耳に残る簡単なサビ、誰でも口ずさめるような単純なメロディライン、あと」
シン、スマホをいじってメモを見る。
「飽きのこない反転とドラマ性、季節ごとの情緒とイベントを考慮したもの? それから……ライブで盛り上がる明るいノリと楽しくなるリズム……」
「そうそう、で? それが?」
「……」
シンがじっと私を見つめる。
「奏さんも、やってみますか?」
「何を?」
「これ」
シンがPCを指差す。
「作曲」
曲作るってこと?? いやぁまさか。
「無理でしょ」
「以外に簡単ですよ。今はこういう作曲ソフトがあるから、小学生だって作れます」
シンがその、ソフトというやつを操作すると、波形が消えて新しい画面に切り替わった。
「今、新規作成画面にしました。見てて下さい」
「うん」
「まず、テンポと曲の長さを決めちゃって、まぁ、32小節くらいにしときましょうか。そしたらここで楽器選択して、ピアノとかギターとか、ストリングスもありますから、壮大に作りたければオケ風にも出来るんです」
「へぇ」
「で、最初にリズム入れてもいいし、サビのメロディから入れてもいいんですけど」
「うん」
「まずはリズムから入れましょうか、バスドラム、スネア、タムタム類をひとつずつ手打ちするのは面倒だから」
シン、カチカチとキーボードを叩いてマウスを動かす。
「既に出来てるサンプルってのがあるんですよ。試しに8ビートで。これをこっちにペーストすると」
横軸に波の点が並んだ。
シンが再生すると、ほんとだ8ビートのリズムが32小節分再生された。
「へぇー、凄い簡単」
「で、次ベースも同じように、好きなの選ぶと、ベースラインが重なります」
ドラムとベースのリズムがもう出来上がってる。
「最後にメロディライン、これも実はサンプルがあるんで、どこら辺がいいですか?」
シンが順番にサンプルのメロディを再生していく。
「あ、それが良くない? レゲエっぽいやつ」
「いいですね、じゃあこれ」
縦軸にまた波形が追加された。
波形が全部で3つ、縦ラインに三段並んだ。
そうか、右側へ小節が動いていって、縦軸には楽器が重なっていく。
音の表なんだこれ。
楽器ごとに色が違うから分かりやすい。
「じゃあ、再生してみますね」
「わー、ぽいね。すごいもう出来ちゃった」
「ちゃんと、それっぽい曲出来るでしょう?」
「うん、簡単じゃん」
「でも、まぁ。流石にサンプル多用はダサイんで、ちゃんと打ち込んでますけど」
「そうか、これだと1人で完全に完結出来るわけか。キーボードが出来なくてもドラムが叩けなくても……、ねぇ、もしかして、音符さえも読めなくていいのでは?」
「いらないかもしれないです」
「へぇー、すごい!!」
「DTMって言って、デスクトップミュージックの略です。無料のソフトもあるし普通に誰でも出来ちゃうから。トモキもラップのビート音源、自作してましたしね」
「奏さん、鍵盤で何か弾いてくれません?」
え?!
「今のリズムの上にのせる感じで」
メロディ……鍵盤か。
+++*+++*+++




