裏原と今さら
「あ、もちろん。セルフお上手ですねぇ、さすが」
「じゃ、お店の名前と、裏原宿、お洒落コーデ、ファッション、ロングコート、秋冬コーデ、古着コーデ、ハッシュタグは他に……」
「ハッシュタグってなに?」
「これです、こういうの入れると興味のある人に届きやすいんですよ」
「ん、なんだシャープか」
「や、よく見てください、楽譜の記号とは違いますから」
「ん、違うの?」
「(シャープだと半音ずつあがっちゃいますね)」
ヒナタがボソっと言って通りすぎた。
音楽記号♯、ハッシュタグ#、あ、似てるけど違った。
「あと、他には……」
ショウゴが私の顔を見て謎に微笑む。
「#teamFrederick」
というハッシュタグが最後に追加される。
その後、ヒナタ、トモキも試着して何パターンか撮影して終了。
ガラス越しに店内を覗いていく女の子達が時々目に留まる。
撮影している様子が気になるのかな?
立ち止まって見る、まではないからビジュアルで呼ぶところまでは、まだいってないか……。
「では来週、事務所の方でお待ちしてますね。スタジオやカメラマンなどの手配もさせて頂きますので、遠慮なくご相談ください」
「ありがとうございます。早速、撮影のコンセプトなんか、具体的にまとめておくようにします」
佐野さんが、店の外まで見送ってくれた。
お姉さん二人組が店の前にいて、絶妙な距離間で私達を見ている。
「うっそ、LXBめっちゃくそ、かっこよい」
「やっば!!」
そんな声が聞こえた。
え、IGGってそんな波求力あんの?
ほんの数十分前に上げたばっかりだよね、LXB (謎のダンサー)なのに、そんな知名度あんの??
「それでは、よろしくお願いします。失礼します」
私達は佐野さんへ会釈して別れた。
☆☆☆☆☆
「奏先輩、竹下通りからよくこんな所まで来ましたね」
「こんなとこ?」
「この辺りは、裏原宿っていって、知ってる人しかあまり来ないところです」
「個性的な店が多くて、確かに入りにくい雰囲気があるかも」
トモキは興味深そうにお店のウィンドウを眺めていく。
「奏さん、ただ迷子になっていたわけじゃなかったんですねぇ、こういうのなんて言うんだっけ、けがのこうみょう?」
「けがのこ、うみょうっ?」
ショウゴ、ヒナタのことわざを変なところで区切ってる。なんでそうなるのか。
「あー、んー、結果オーライ? ってこと」
ヒナタ、説明するのめんどくさくなったね、絶体。
「さて、君たちの初仕事が決まったし、めでたいから、クレープ私が奢る!!」
「そうだ、クレープっ」
「奏先輩が消えたから、まだ何も食べてない」
「お腹すいたね、早く行こう!!」
歩いていると、なにやら行列が出来ているお店の前を通りすぎた。
なんだろう、賑わっているけど。
お、あれはもしかして。
「あのさ、あ、あれ飲んでみたいんだけど……」
私は先を歩くショウゴの袖を引っ張った。
「え」
ショウゴが振り返り、私の目線を追う。
「今さらタピオカ? まさか、飲んだことないんですか? 奏先輩」
「……うん」
☆☆☆☆☆
宿舎に戻り、皆は15時からダンスレッスンに行った。
私は会社webの非公開プロフィールに、4人の最新情報を載せる。
基本は身長、体重、胸囲、頭囲、靴のサイズ。
そこではたと気づく。
大事なものを忘れているじゃないか!
写真!!
プロフィール用の写真撮るの、しっかり忘れていた。
ヒナタのビジュアルが出来上がったら、と延ばしていたんだっけ。
カメラマンとスタジオに予約……
いや、待てよ?
当のヒナタのくるくる癖毛スタイルが思い浮かんだ。
まずは、みんなを美容室に連れていかねばならないのか。
契約上、外見に関わる部分は全て会社が負担することになっている。
それは、裏を返せば髪型ひとつ許可なく変えちゃいけない、という意味合いでもある。
会社が提携している美容室に予約、その前に美容師さんと仕上がりイメージを決めなきゃいけないから……
とりあえず現状のスナップでも撮ってくるか。
PCを閉じ地下の練習スタジオに下りる。
練習スタジオからテンポ早めの洋楽曲が微かに漏れ聞こえてくる。
そういえば、ユウトのレッスンが始まってから、一度も見に来た事がなかったな。
もう10日くらい経つか。
どうだろう、みんな上手くなった?
ヒナタとトモキは初心者だし。
防音扉の丸くくり貫かれた窓から室内の様子を伺う。
練習室は長方形で長辺の壁一面が鏡になっている。
四人が並んで鏡を見ながら踊っていた。
練習用にユウトが振り入れしたのかな。
曲のサビ部分だけを何度も繰り返している。
ユウトは鏡の前にしゃがみ、組んだ両手を口元に当て皆をじっと見ている。
目元しか見えず、その視線の恐ろしいたるや……。
そして終始無言。
キッズに教えていたときのあの和やかさは、どこにもない、微塵もない。影もカタチもない。
緊張感と圧で見ているこちらがやられそう。
そこから五回繰り返して、ようやく曲がとまった。
+++*+++*++++
作業用BGM
マイデーモン
TRUE / YOARI




