突然の撮影会
「来年春に、グループでのデビューを予定しています」
「すごい。グループデビュー?! アイドルのたまご??」
「こんにちは」
最初にトモキが空気を察して挨拶をする。続けて後の二人も。
「こんにちは」に爽やかな笑顔をぬかりなく添える。
「身長高いですね、どのくらいですか?」
佐野さんが、ショウゴを見上げて訊ねた。
「182です、今のところ」
「そんなにあるのね、スタイルも良くて……え、何等身?!」
「どうでしょう? ウェブのモデルに」
「そうですね」
佐野さん、三人を順繰り眺めていく。
「あの、ちょっとスナップ撮らせて貰ってもいいですか? 何か試着して」
「もちろんです!!」
何かしらのイメージが湧いたのだろうか?
これはもしかして……、決まるんじゃないでしょうか?!
佐野さんは、バックヤードらしき場所へ入っていった。
「(俺らモデルするんですか?)」
トモキが小声で聞いてきた。
私は皆を手招きし近くに集める。
「これが、初仕事になるかも。ウェブモデルなんだけど」
「ほんと?!」
「すげぇ」
「すみませーん、お待たせしちゃって」
両手に、たくさんの洋服を抱えた佐野さんが、笑顔で戻ってきた。
「ちょうど今、A/Wのサンプルを作ってるんです。来月末に発表予定なんですけど」
「秋冬物ですか? まだ夏なのに」
「そうなんです、だいたい1年から半年前までに次期の準備をするので」
佐野さん、ソファの上に持ってきた洋服を置くと、その中から黒いロングコートを1着持ち上げた。
「しかもサンプルは自分で作らないと気がすまない質なんで」
革風な素材で、襟と袖口にオフホワイトの毛足長めなファーがくっついている。
きっと、これもヴィーガン素材っていうやつなんだろうな。
「ロングの丈をどのくらいの幅で展開するか悩んでいたんです、ちょうど」
佐野さんは、コートを私にあてがう。
「ちょっと、桑山さん着てもらっていいですか?」
「私ですか?!」
「はい、ユニセックスサイズがいまいち掴めなくて」
私が参考になるんだろうか?
促されるまま袖を通す。
「なるほど……こういう感じか」
佐野さんがメジャーをスルルーっと伸ばして、肩幅やら袖口やらを測りメモをする。
「ありがとうございました。ちょっと写真も?」
「どうぞ」
佐野さんはスマホを私に向ける。
「すみません、後ろも」
あ、後ろ姿ね。
くるりと後ろを向く。
ちょうどそこに鏡があって、私の全身が映っていた。
へぇ、ちょっと似合ってるじゃん?
「ありがとうございました。そしたら、次は彼……」
「ショウゴです」
「ショウゴさんも、同じものを着てみて貰っていいですか?」
「はい」
ショウゴがコートの襟元を持ってくれたので、スルっと腕が抜ける。
今度はショウゴがコートを着る。
さすがLXBボーイ、洋服が映えるな。
「そうか、180越えると、そうだよね」
佐野さん、メジャー片手にぶつぶつ言いながらメモをとる。
「SからXLとFREEで展開してるんですけど、下が158で上が178設定にしていて。だから180の方だと少しあれだなぁ」
「メンズ、180以上がゆったり着れる服ってあんまりないですよ。お洒落追求したら10代が着られるものなんて皆無」
ショウゴ、鏡を見ながらコートをチェックする。
「だから、海外ブランドが多くなっちゃうんですよね」
わかる。
私もレディースではサイズないから、メンズか海外ブランド多い。
「需要がないから、しょうがないんでしょうけど……」
ショウゴ、佐野さんに撮影されつつ、何故か自分でも自撮りを始める。
「そうなんです、どうしてもボリューム層で考えるんで」
佐野さん、ショウゴからコートを受け取る。
「私、本当はどんな体型の方でも着られる服を作りたいんです。でも、それやってしまうとビジネスにならない。モデルさんも本当は多様なサイズの方に頼みたいところなんですよね……」
「将来的な展望として、すごく素敵ですね!!」
トモキが、目をキラキラさせて高校生らしい純粋さを放った。
「あ、ありがとう……」
佐野さん、トモキの純粋さにやられて照れている。
「服に身体を合わせるんじゃなくて、自分に合ったものを選べるってことか、セミオーダー的な」
ヒナタは、ぶつぶつ言いながら店内の回遊を始める。
自撮りを終えたショウゴが、佐野さんへスマホの画面を見せている。
「すみません、IGGにこれ載せていいですか?」
顔が映らないような、しかし抜群の画角で撮られた絶妙な自撮りだ。
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