はじめての協賛パートナー
私には好きなことも、やりたいこともなにもない。
「凄いですね、もう夢を叶えているなんて」
私の夢って、なんだろう。
この先もずっとやっていきたいこと?
何かになりたいとか? 目指すもの?
それがないから、進学先も決めかねている。
「いいえ、叶えているだなんて、まだまだ全然です。運良くやっとここに立っている、ってだけですよ」
佐野さんは首を横に振り、運だけです、と繰り返した。
「運ですか?」
「私の場合は人との出会いですかね、デザイン学校のコンクールで賞を頂いて、商社の繊維部門の方から、ちょうど新しい素材を開発中だから、やってみませんか、とお誘いを受けました」
「新しい繊維?」
「SDGsって、ご存じですか?」
ああ、持続可能な目標ってやつね。
「確か、地球環境に配慮して、持続可能な世界を作っていこう、みたいな?」
「そうです、Sustainable Development Goals、持続可能な開発目標、ここのお洋服は、それが柱なんです」
「えっ、そうなんですか? それって、リサイクル……ペットボトルから作る繊維使っているとか?」
「そういうのもあります、将来的には微生物の働きで土へ還る天然繊維だとか、廃棄する植物の葉っぱを利用して作るアニマルフリーで、完全ヴィーガンな擬似皮革製品だとか」
ヴィーガンて、動物性のものを食べない、って、だけじゃないのか。
知らなかった。
「環境に配慮した材料を使うことや、古いものを大事に使っていくっていうことだったり……」
ソファや絨毯、ディスプレイで使われているアンティークな小物は、そういう観点からで、なんかちょっとお洒落だから~、っていう軽いノリとは違って、ちゃんと意味があったのか。
「私としてはお洋服が好き、でも究極を言っちゃえば、洋服なんて贅沢品だし、作るまでの工程で資源を浪費するし、要らなくなれば大量のゴミになっちゃう」
年に洋服を何着も買わない、もしくはまったく買わない私は、もしかして知らず知らずのうちに、SDGsに貢献していたのかも?
「でも、そういう物だからこそ、積極的に取り組まなきゃいけないのじゃないかと、それがこのグラスホッパーというブランドの理念です」
「バッタ……」
「アハハ、そうです。バッタです」
「バッタは農作物を食べ尽くして荒らす、みたいな人からしたら悪いイメージありますけど、私としてはそれも自然の一部で、何かしらの理由があったり、利点があったりするんじゃないかという環視点から……」
ピロロロロー
ピロロロロー
佐野さんの話の途中でスマホが鳴った。
「あっ、どうぞ」
「すみません」
ショウゴからだ。
「もしもし」
「どこに行っちゃったんですかっ!!」
うっさいな。
耳からスマホを離す。
「そっちが、どっか行ったんでしょう」
「はい?! ……じゃあ、迎えに行きますから、どこですか?」
「どこかって……今送る」
「そこから動かないで、わかりましたか!」
「はいはい」
私は子供かっ。
佐野さんの名刺を撮ってショウゴへ送る。
「お連れさんですか?」
ボリューム大きすぎて、丸聞こえだったよね。恥ずかしい。
「すみません、うるさい奴で。ちょっとそういうのが後2人、合わせて3人来ると思います……て、そうだ」
私は佐野さんに向き合い改めてお願いする。
「うちのタレントに、こちらのブランドのイメージキャラクターを務めさせて頂けませんでしょうか? デザインはもちろん、そういったブランド理念にとても共感しました」
「あの、そういうお話は初めてで……。今のところは、スタイリストさん達とのやり取りぐらいしかないので」
「あれですよね? カタログとか作りますよね? シーズンごとに」
「紙は作ってなくてWebで」
「もちろん、ウェブです、よね。サステナブルですもんね。そこのモデルさんてどうなってますか?」
「モデルさんは使ってないんです」
「えっ?! そこもサステナブルですか?」
佐野さんが、クスリと笑う。
「違います、単純に予算がないからで。ここ、まだ1シーズンしか経ってないんです」
「え、新しい。まだ、誰の手垢もついていない……」
「手垢……」
あ、まずい。
私の心の声オープンになっていた。
そこで自動扉が開いて、外の雑音が入ってくる。
「いらっしゃいま……」
佐野さんが言葉を飲み固まっている。
「奏先輩!」
「探しましたよ!」
「うわ……涼しい」
ドカドカと喧しく3人が入って来た。
「うちのタレント達です。いかがでしょうか?」
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