倒産の危機?!
「誠に無念ですが、このままでは倒産は避けられません」
私と叔母さんは山口さんの顔を暫く黙って見つめていた。
驚いたのと、何をどう言ったらいいのかわからなかった。
「次の支払いが迫ってまして、この決済が出来るかどうか……、率直に申し上げますと不渡りを出す可能性のほうが高いです」
いつもにこやかな経理の山口さんが、苦悩の表情で机上に並んだ書類に目をやっている。
「社長はここ数日金策に走り回っていたようですが……きっと疲労と心労にやられたんでしょう」
「いつから……いつからそんなことに?!」
「一年前、所属タレントの移籍がありまして、その子がうちの一本柱的というか、つまり稼ぎ頭というところでした……その後も離籍者が続きまして、収入が激減したんですよ、そこへこのパンデミックです」
「つぶれるってこと? パパの会社」
「あんなことさえなければ……」
「どういうことですか?」
叔母さんが山口さんの言葉の後を促した。
「最初に移籍した子を引っ張ったのは、社長の元同僚です。あの子をあそこまで育てたのは社長なのに。他の子だってそうです、社長は本当に皆の面倒をよく見ていたんです。学校やレッスン、地方の子には衣食住の世話もしていました。レッスン料や登録料といった名目でお金をとる事務所もありますが、社長はそんなことはしませんでした」
山口さんは壁に並んだタレント達のポートフォリオを眺めた。
「社長がよく言ってました。彼らは消費される商品なんかじゃない、その将来も見据えてちゃんとした人間として育てなきゃいけない」
「事務所が傾き始めたと噂が広まると、沈没する船から逃げるように、みんないなくなりました」
「今時の子は義理や人情なんてものは持ち合わせてないんでしょうね、社員までいなくなりましたよ」
パパの会社は小さな芸能事務所で、最初の所属者はママだった。
ママがいた頃、事務所は華やかでいつも人が出入りする楽しい場所だったのに。
今は私達3人だけ。
静かすぎて、本当に海の底に沈んでいるみたい。
「それは、パパの育て方が悪かったんだよ」
「そんなことは……」
「ちゃんと育てていたら、義理を欠いて逃げたりなんかしない」
「奏ちゃん……私達は何も知らないから」
「最初に引き抜かれた子って、ナギでしょう?CM契約数が女性タレントNO.1て言われてる」
「よくご存じで」
パパは仕事のことは話さないけど、それくらいのことは私でも知ってる。
「それで、その、不渡りを出さないようにするには方法が? この自社ビルはすでに担保に?」
「そうなんです、後はご自宅を、という話になるかと……」
「潰しちゃえばいいじゃん。私は家が無くなるのは絶対にイヤ」
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