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星(スター)をつくろう / スタートライン


さて、やること盛りだくさんの夏休みがやってまいりました。


スケジュールをぎっちぎちに詰め込んだので、寝ている余裕なんかありません。睡眠時間は6時間設定(食事とシャワーと自由時間含む)で40日を走り抜きます!!


メンバーは、週2回のボイストレーニング。ダンス練習は午後から毎日ユウトが担当。作詞作曲、演技、語学(英語)、メンタル、セクハラ、コンプライアンス講習などもその合間を縫って受けてもらう予定でいる。


ダンス以外は、全て専門の先生に来てもらい教わることで、移動時間さえ短縮。


私はといえば、午前中は会社に出社。

山口さんに、これからデビューまでに必要なことを教わり、事業計画というやつを立てなくちゃならないし、準備しなければならないことがたくさんあって、何からやったらいいか、わからないほど。


午後は週2回、叔母さんと交代でパパのリハビリに付き合うことになっていた。これはパパの頑張り次第で早めに終わる可能性があるのでぜひ頑張って頂きたい。


それに一応、受験生なので勉強もしないと、いけない(ごにょごにょ)。


デビューまではもう1年を切っている。


なのに、計画は大幅にズレこんでいる。大きな問題は、メインダンサーがまだ決まっていないってこと。


このまま、ユウトの気が変わって入ってくれないかなぁ、なんて淡い期待も残しつつ、この間のオーディションなようなことを続けていくかどうか。


次に、グループの方向性とコンセプト。これも大事な課題。

この先ずっとブレることなく、それでやっていくという柱のようなものだ。


これが迷走すると、糸の切れた凧のようにふんわり飛んで、やがて落ちてしまう。


グループ名は『チームフレデリック』と、とりあえずの仮名で呼び、名前が決定次第変更する予定。


チーム名は後でメンバーで話し合って決めるそうだ。


ちなみに私が決めようか? 

と言ったら、何故かだいぶ強く拒絶され、なんだか仲間外れになった気分で面白くなかった。


投票かなんかになったら、絶対に参加させてくれよ、と一応はお願いをしておいたけど。



☆☆☆☆☆


「古い機材だけど、使えそう?」


レコーディング室を覗くと、シンがPCのセッティングをしていた。


本格的な録音設備と録音ブースを備えたこの部屋は、もう使われなくなって、だいぶ時間が経っている。


「ああ。全然大丈夫そうですよ」


「そう、良かった。こういう機械って全然わからない」


「社長、ここでは仕事、しなかったんですね」


「会社にあるからね。そっちの方がずっと新しいし。会社のも、ここのも、あなた達が自由に使っていいから」


「住居も設備も整い過ぎていて、崖っぷちということを忘れますね」


部屋の端には古いシンセサイザーやギターが無造作に置いてある。


壁際の棚には名前も分からない、どんな音がするのか想像もつかないような民族楽器がずらっと並んでいた。


「整っている? なんか骨董品しかないし、倉庫みたいだけど」


鼓みたいな小さい太鼓を叩いたら、渇いた音と一緒に埃が舞った。

これは大掃除をしないとだめだな。


「ところでさ、前に言ってた……シンが一緒にデビューするはずだった相方って」


「はい」


「今、どうしてるの?」


「デビューしましたよ一人で。今年の3月に」


「え……そうなんだ。で、売れてんの?」


「そうですねぇ、まぁ、まぁ?」


「まぁ、まぁ?」


「ええ、まぁまぁ売れたんじゃないかな」


「シンが曲、作ってたんでしょう?」


「はい。なんならMVまで撮ってました」


「ちょっ、何それ! 損害賠償もんじゃない。パパ、よく許したな」


まぁ、そうやって甘い顔していたから、舐められてこんな現状になってるわけよ。


「もう、気にしてません。過ぎたことなんで」


「ええ、すっごい大人だね。私は悔しいよ! なんらかの策をねって足を引っ張りたいっ! 一発屋で終わることを願って、なんなら呪おうか?」


「……人を呪わば穴二つ、奏さんが穴に入ってくれるんだ」


え、いや、それは。


「わかった、その人より売れよう!」


「ちなみに、SNSでバズらせたんで、軽く20~30万枚は売ってますよ」


「えっ、……そんなに? 」


ソロだし10万いかないかぐらいかと思ったのに。誰だろう、そいつ。


「だとすれば、僕らはハーフミリオン目指さなきゃだめですね」


シンは天井を見上げてから私に向き直る。


「そ、そ(そんなに?!)……そだね」


ハーフミリオンて、50万枚だよ?!

一応目標としては10万枚を目標値にして計算してたんですけど。


「目標は高く持たないと」


そう、シンの言うとうりだ。目標は高くしないと駄目。円盤の売り上げは明確なその指標だから。


だけど、無名新人グループのデビューアルバムがいきなりそんな枚数売れるわけがない。そこにはやっぱりプロモーション戦略が必須で、いかに露出を多くして話題をつくるか、つまり先行投資をどれくらいするのか、なのである。


つまり、50万枚売るには、予定よりもずっと規模の大きなプロモーションが必要だし、つまりそれは金、金なのだよ。


シンは穏やかな菩薩像のように、ふんわり微笑んでいる。


シンも、もちろんそれは知っているはずで。


お金がないのは最初からわかっていた、ないから出来ない、売れなかった、は理由にならない。

わかりました、腹を括ります。



目標は『ハーフミリオン!!』



(よっしゃ、俄然やる気!! )



+++*+++*+++


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