KISSXX
「そんなわけ……おまえなんで」
ユウトは言葉を詰まらせハニタロウを撫でる。
ハニタロウは今まで私が見たこともないような、キラキラに輝いた丸い瞳をユウトに向けている。
全力で尻尾を振り、とび跳ね、前肢をユウトの手に何度もピョコピョコとのせる。
ハニタロウの全身から喜びが溢れていた。
「嬉しい、大好き、会いたかった」
ユウトがヒナタを見上げる。
「って、言ってます」
「え?」
ユウトは顔めがけてジャンプを繰り返しているハニタロウを抱き上げた。
「メル、本当にお前なんだな……」
ハニタロウはユウトの顔を必死に舐め、ユウトはハニタロウを抱いたまま項垂れた。
「メルっていうんですね。ハニタロウの本当の名前は」
ヒナタが納得したように頷いた。
「どういうこと?」
話が見えないんだけど。
「ハニタロウは、リリアさんが飼っていた犬みたいです」
シンがようやく答えをくれる。
リリアさんのワンコだったって? ハニタロウが?
「どうして、リリアさんのワンコがうちに……?」
「そうだったのか、社長が」
シンは私の問いかけには答えてくれず、誰に言うでもなく呟いた。
「メルが、どうしてここにいるんだ?」
ユウトはスッと手の甲で目の端を拭い顔を上げた。
「わからないけど、父が連れて来たんです」
「たぶん、社長がリリアの母親から預かったんだ。急なことでいろいろ大変だったし、メルの世話までは無理だったんだろう」
「桑山社長って、リリアとどういう?」
ユウトはハニタロウ……改め、メルを抱いて立ち上がり、今度はシンに尋ねる。
「さぁ……」
シンも知らなかったのか。
ハニタロウがメルだって。そりゃ、ポメラニアンなんてみんな同じ顔に見えるかもしれないけど。
「ここで会えるなんて……」
ユウトはメルの頭を撫でキスをした。
「動物と話せる少年、名前は?」
ユウトがヒナタへ歩み寄る。
「斎藤ヒナタです。よろしくお願いします、あの動物とは、別に話せはしないです」
「よろしく」
ユウトはヒナタの手を取り硬い握手をかわした。
「で、LXB君」
今度はショウゴの手を握り握手。
「ショウゴです」
「よろしく」
ニコニコニコニコ、目を無くした可愛いお兄さんは、抱きかかえたメルに甘い顔で再びキス。
「ええと、部屋割りは決まってる?」
「はい、僕ら高校生が3人部屋を使うことにしました。もう荷物の移動もしたので」
ヒナタもメルの背中をナデる。
「シンさんと、ユウトさんは2人部屋を使って下さい」
ショウゴが、シンとユウトを二人部屋の方へ案内した。
「あ、すみません。誰か炭に火を着けるの手伝ってもらえませんか?」
トモキが階段を上がってきて言った。
「あ、僕行く」
ヒナタが手を上げる。
「俺も手伝う」
ヒナタとトモキが一緒に下りて行くとその後をショウゴも追った。
「ユウト、荷物運ぶぞ」
シンは部屋に荷物を運び入れ、階段を下りていった。
「ああ、わかった。メル、ちょっと待ってろ」
ユウトはメルを床へ下ろし、同じように荷物を置いて階下へ。
メルは尻尾をふりながら、ユウトの後をついていった。
中庭へ行くと、ヒナタ、トモキ、ショウゴの高校生組が、汗だくで火をおこしていた。
トモキとショウゴがウチワで炭を扇ぐと、勢いよく炎が立ち上がった。
「もう、いいんじゃない?」
ヒナタがトング片手に火の側から離れる。
「あっちぃー!」
ショウゴはうちわで自分を扇ぐ。
「後は、火が落ち着けば大丈夫かな」
頭にタオルをまいたトモキが、少し離れたところで座り込んでいた。
あっ、トモキがしおれている。
私は倉庫からクーラーボックスを持ち出し、庭の水栓まで転がしていく。
綺麗に洗い、氷と飲み物をドーンと放り込んだ。
「飲み物用意したよ! お茶、ジュース、好きなもの飲んでいいから」
声をかけると、三人がワァーと勢いよく走ってきた。
早速みんな氷水に手を突っ込んで涼をとる。
「冷たい!!」
「生き返る……」
「ありがとうございます!」
「奏先輩、また俺だけ話しがわかんないのかな、さっきの犬の話」
「犬って、ハニタロウ?」
その場にいなかったトモキがキョトンとする。
「ハニタロウの本当の名前はメルで、リリアが飼っていたワンコだったんだ。それに、ユウトさんとリリアさんは知り合い? みたいで」
「えっ、情報量が多すぎる。リリアってあの? リリア?」
トモキが目を丸くしてヒナタを見る。
「うん、そうみたい」
「……」
みんな、なんとなく黙る。
「ハニタロウって、奏先輩のネーミングセンス……」
ショウゴがブハっと笑うと、他の二人も笑う。
「え? ダメ? メルの方が良い?」
「だいたい、長過ぎません? 呼ぶとき。奏先輩て、生き物、そんなに好きじゃないでしょう? 」
ショウゴ、好き放題言ってるな。
かわいいじゃんか、ハニタロウだって。まぁ、本人が気に入ってなかったのは、すみませんでした、しかない。
「もう、寂しくないんだね。ハニタロウは」
「メルだって、奏先輩」
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