ハニタロウの秘密
「え、そうなの? ユウト、シンの家に居たの? 一緒に住んでたってこと?!」
そんな話、全然聞いてないし?!
「あれ? シンから聞いてなかった?」
「聞いてないと思う」
「言いましたよ? ほら、ODやらかして救急車呼んだって」
救急車呼んだも聞いてない。それに救急車呼んだら、どうして一緒に住んでることがわかる、になるんですか?
「それは誤解、ちょっと量を間違えただけでさ」
「ちょっとの量で心臓とまるか? 胃洗浄までやるか?」
「うん。あれは……もう二度と嫌」
ユウトはニッと笑って荷台の段ボールをひとつ運んでいった。
え、心臓とまったの? 一度死んだの??
「奏さん、炭は4箱で良かったですかね?」
なんか、重要そうな説明事項が、光の速さですっ飛んでいったような気がするけど。
「うん。え、炭?」
そうそう、バーベキュー用の炭をシンに頼んでいたんだっけ。
シンは炭の箱を重ねてエントランスへ運んでいった。
「いや、足りるの? わかんない、バーベーキューやったことないし」
私はシンの後を追ってエントランスの中へ戻る。
「やったことないんですか? 人生で一度も?」
「うん、ない」
今夜のBBQパーティーは、ヒナタとトモキがうちの中庭にある倉庫で、アメリカンサイズのBBQコンロを見つけたことが発端。
大昔、パパが所属タレントを呼んでBBQをよくやっていたから、テーブルや椅子なんかは揃っていた。
その集まりに私は呼ばれたことがないから、バーベキューは今日が初めてだ。
お互いを知り合うのに、ワーワー肉を焼きながら、っていうのもいいかもね、と思ったから私はすぐにその提案にのった。イメージ的には楽しそうな気がしたし。
「じゃあ、もし足りなくなったら買い足しに行きますよ」
「そう? 車は? 車は返さなくていいの?」
炭の箱をエントランスの端に置いたシンは、また外へ出ていく。
私はその後を追いかける。
「一泊で借りてるので大丈夫です。駐車場に入れていいですか?」
「うん、ゲスト用が空いてる」
シンとユウトは、軽トラの荷台からどんどん荷物を下ろしていく。
そして荷台の荷物はあっという間に片付いた。
「wow !!」
ユウトがエントランスの吹き抜けを見上げ声を洩らした。
「あ、じゃあ部屋に案内するね」
シンとユウトは段ボールをひとつずつ持って、私の後をついてくる。
「トモキ、シンとユウト先生来たよ」
2階へ行く前にキッチンにいるトモキへ声をかける。
「シンさん! お疲れ様です!!」
トモキが早足でやってきた。
「ユウト、こちらトモキ」
シンが紹介する。
「はじめまして、波多野トモキです」
「ども」
ユウトは荷物を置いて、トモキに手を差し出した。
「あ、よろしくお願いします」
トモキはユウトの手を握ると、なんともいえないぎこちない笑顔を見せた。
そうだよね、この人初めて見たらちょっとあれだよね、わかる。今日もバチバチにイカツいもんね……髪真っ青だし。プラチナブロンドのときよりもさらにそれが増してる。
「すげぇ、かっけぇ」
おっと、そうなんだ。
「シン君、来たの? あら……」
キッチンから出てきた姫ちゃんも、パタリと足を止めて、ユウトを見上げる。
「お世話になります」
ユウト、キャップを外し深いお辞儀をする。
「なんていうか……教祖様的なカリスマ性があるわね」
「こちら、私達のお手伝いを……」
「姫ちゃんて呼んでね、よろしく」
姫ちゃんがまた私の紹介にかぶせてくる。
「よろしくお願いします」
ユウト、にこっと目を無くし手を差し出した。
姫ちゃんはすぐにその手を取って、ブンブン上下させた。
「あらあらあら、なんなのかしらこのギャップの振り幅」
2階に上がると、部屋の扉の向こう側からハニタロウの鳴き声が聞こえた。
「ハニたん、どうしたの?」
ヒナタの声も聞こえる。
私が扉をノックすると、開いた扉の向こうにショウゴが、その奥にハニタロウを抱いたヒナタが立っていた。
クぅクぅクぅキューンキューン、とハニタロウがヒナタの腕の中で暴れている。
こんな鳴き声は聞いたことがない。
「あっ、ハニたん!」
ハニタロウがヒナタの腕から抜け出して、廊下に飛び出て来た。
ハニタロウは興奮した様子で、キュンキュンと鳴きながらユウトの周りを飛び跳ねている。
「ヒナタ、ハニタロウどうしたの?」
「わかりません、急にテンションあがって」
ユウトは荷物を床に置くと、落ち着きなく走り回るハニタロウをじっと目で追っていた。
「うそだろ……」
ユウトがしゃがむと、ハニタロウは迷わずユウトの胸へ飛び込んでいった。
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作業用BGM
Blueprint / Stray Kids




