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ステージで映えるか映えないか



「名前と年齢をお願いします」


シンはにこやかに言うと、指の上でペンをクルっと回した。


彼はメモを取るわけでもないのに、何故かシャープペンだけを持っている。

メモする紙やメモ帳の用意はないのにだ。


「岩崎ショウゴ、17歳、高校2年生です」


とくに緊張している様子もなく、いつもと変わらない落ち着いた口調でショウゴは答えた。


けれど、あの子犬のような無邪気な笑顔はない。


オーバーサイズの白Tシャツに、ラインが入った黒いジャージ姿。


いつもの私服より、だいぶ地味な装いである。


「はい、では始めてください」


ショウゴはスマホをスタジオのスピーカーに繋いで戻ってくる。


音が必要な人は、この辺はセルフでやってもらっている。


ショウゴの好きそうなミディアムテンポの曲が流れてくる。


8カウントを置いて、ショウゴは踊り出す。


高身長と長い手足が存分に生かされている振りは、迫力があって華やかだ。


スタイルの良い人は、舞台で映える、というのを強烈に感じる。


身長が10センチ違う、手足の長さが数センチ違う、その差が本当に大きい。


隣でシンがフフっと笑った。

これはきっと素で笑っている。

そしてまたペンを回す、くるり、くるりと、リズムをとっている。


ダンスの後にしたラップは、まぁ初心者、といったところで特別感想を持つことはなかったみたい、シンは通常の営業スマイルに戻っていた。


「ありがとうございました」


ペコリと頭を下げ、ショウゴはスマホを取りに行く。


そして、すぐにまたシンの前に戻ってくる。


「岩崎ショウゴさん」


「はい」


「ダンス歴はどのくらいですか?」


「2年くらいです」


「レッスンを受けていますか?」


「いいえ、独学です」


え、独学でこのレベルまで踊れるようになってんの? それも2年で?


「オーディションを受けた理由を教えて下さい」


「そうですね……ひとつは大きなステージに立ちたいっていうのがあります」


「なるほど、例えば?」


「そうですね、グラミー賞とか?」


おっと、ものすごく大きな夢をかかげたね。


「それが夢ですか?」


「いいえ、夢ではなく目標のひとつでしかありません」


夢じゃなくて、目標だった、か。


くるん、シンがペンをまわす。


「他にもなにかありますか?」


「これからは、自分らしく生きていきたいと思いまして」


オーディションでこんなこと言っちゃう人、多分いないだろうな。

目立ちたいとか、狙ってとかじゃなくて、これはショウゴの本当の気持ちなんだろうって感じる。


ちなみに、こんなに堂々とシンを見て答える生徒さんはこれまでにいなかった。


「……なるほど。ありがとうございました」


ペコリと頭を下げてショウゴは下がる。


「次の方、お願いします」


オーディションが全て終わり、スイ先生が練習室へ入ってきた。


「お疲れ様でした。どうでしたか? うちの生徒達」


「とても、レベルが高くて驚きました」


シンが答えている間に私はビデオカメラをケースにしまい、三脚を片付けた。


「最近はKPOPアイドルの活躍で、韓国の事務所に入ってデビューしたいって子達が多いんですよ」


「韓国事務所のオーディションもされているんですか?」


私が尋ねると、スイ先生は大きく頷いた。


「はい、むしろそちらがメインです。そのためのオーディションコースなので、おもに韓国式でレッスンをしています」


「そうなんですか?!」


「今は、世界で活躍したいって考えの子が多いです。韓国系の事務所は常に世界を見据えていますし、実績もありますから。世界へ行くならKPOPの方が道が近いと思えるのでしょう。実際、そうですしね」


「なるほど。じゃあ、うちのような日本の小さな事務所は人気ないですよねぇ」


「そんなこともないんですよ、わざわざ韓国まで行かなくても……と考える子達は当然いますから。男の子は特に難しいんじゃないですか? 向こうの事務所に所属して、じゃあ、学校は行かせてもらえるのか、とか。中卒、高卒、今は通信の高校、通信制の専門学校、と選択肢は幅広くあるにはありますけど……」


「毎月ある評価試験で落とされたり、デビュー組に入れなくて帰らされる子たちもたくさんいるって聞きます」


シンが言うとスイ先生の顔が若干曇った。


「デビューできる子なんて、本当に一握り。努力だけじゃなくて、運も大きく作用しますしね……メンタルが弱くてはやっていけない世界ですよ。それで今回、運を掴めそうな子はいましたか?」


「すみません、一度持ち帰って後日ご連絡させて頂きます」


シンはスイ先生へ丁寧に頭を下げた。

私も慌てて同じように下げる。


「今日はありがとうございました」


☆☆☆☆☆


「ショウゴ、どうだった?」


駅までの道すがら、ショウゴの事が気になっていた私は、早速シンに尋ねた。



「ショウゴ君ですか……?」




+++*+++*+++


ショウゴのオーディション曲


Choreographer / YELL

Song / J.Tajor - Like I Do


https://youtu.be/AUnwAmSzPs0?si=VP8-zruZL19dAdsR

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