非公開オーディション
「俺が知ってるだけでも、さっきのシンさん、ユウトさん、電話で話してたトモキって人、最小に見積もっても、3人は囲ってますよね?」
「あははは、囲ってるって表現がちょっと、言い方おかしいよ?」
「何のためにですか?」
「ええと、それは、まぁ、仕事かな」
「仕事?」
「言ってなかったと思うけど、私の父親芸能プロダクションやってるの」
「芸能プロダクション」
「あの日突然倒れて、ショウゴに病院まで連れてってもらった日ね、その後いろいろあって」
「はい」
「暫く仕事復帰が難しいから、代わりに私があるプロジェクトを任されてやってるんだ」
「プロジェクト?」
「詳しいことは言えないんだけど……」
「Vチューバー? いや、顔がいいんだからアバター使う必要ないし……メタバースアイドル」
「Vチューバー……あ、なるほどそれいいかも。ん、メタ? アイドル?」
ちょっと待って、スマホにメモっとこ。
「他には? なんだと思う?」
「他ですか? 2.5次元ミュージカル」
「お、いいね。でもお芝居か……無理だね」
「グループ作って」
「グループ作って?」
「バーチャルアイドル……」
「あ、おしい、バーチャルではなくて、アイド……(ハっ!)」
ショウゴがニヤリと笑う。
「そうか……それですね」
「あ、いや? それは……そっ、そういえば、ショウゴ、あなた外出禁止じゃなかったぁ?」
「キャスティング中なんですね? 奏さんが」
「それは」
「あ、奏さん。まだいてくれて良かった」
声のした方を見れば、シンが中庭を長い脚で闊歩してくるところだった。
オーバーサイズのダメージ風ジーパンに、白シャツ、デニムのハット姿っていう超シンプルコーデなのに、大きめ白シャツのスソ、ヒラつかせながら歩いてくるの画面が強すぎる。
ここはパリコレランウェイなの? て錯覚するくらい。
ほんとに凄いなうちのシンさんて。
だって、もう周りのギャラリー(患者さん、スタッフ)がみんな振り返るんだから。
そういえばパパが、シンがお見舞いにくると、やけに看護師さんが頻繁に部屋へ来るって言ってたっけ。
「はっ、ムダにオーラ出しやがって」
えっ?
なんか今まで見たことも聞いたこともないような、ショウゴの悪態に驚いてしまう。
「スタイルなら俺の方がいいっつうの」
確かに、身長はショウゴの方が数センチ高い。
「しかも、こっちは現役DK」
年齢をいうか……若い方がいいっていう価値観ならそりゃショウゴさんの勝ちよ。
ショウゴは仁王立ちになって、腕組んで待ち構えている。
「ちょっと、話があって……」
「あ、そう。なにかな」
シン、ショウゴを見てニコっと笑う。
「君、高校生だったんだね」
「17歳です、現役の高校生ですね。奏さんの後輩です」
マウントになっているようで、実はただの自己紹介になってしまっているという。
「そう若くていいね。私服もハイブランドなの、すごいね。高校生なりに上手く着こなしてる」
ええと、褒めてないでしょう、嫌みだよね。だって、笑顔だけど目が笑ってないもの。シンもなかなかの負けず嫌いだな。
「ありがとうございます、イケメンの年上お兄さんに褒められて光栄です」
「ブランド公式からフォローされてるからステマかと思ってた。今日はヴェル○○チ? へぇ、もう自撮りした? 仕事すんだ?」
二人はしばらく黙ってお互いを見合う。
ええい、二人とも、もう止めんか!
「フォロワー、5万いるんでそりゃステマ案件も来ますよ」
5万人?! この前まで3万人じゃなかった? いつのまにか増えてるぞ。
この間、ユウトが8万人て聞いて、凄いって話だったじゃん?
えっ、ショウゴって、LXBってそんな人気者なの?!
「親のお金で買ってもらった? その服とフォロワー」
もう、ホントにやめて下さい。
「はーい。シンさん、なんの話? あっちで聞きましょうか。ショウゴ、また学校でね」
「待って、奏先輩」
ショウゴに肘を掴まれた。
「そのグループに俺も入れて下さい!!」
「は?」
「そのアイドルグループに」
「アイドルグループ、だよ?」
「そうですよ、ダンスなら自信あります!」
そりゃ、上手かったよ? ダンス。
でも、今、衝動的に言ってるだけでしょう。
シンにカウンターくらってさ。
「それならオーディションに来たら?」
オーディション? て? ん??
「ちょうど今、話そうと思ってたんです。ユウトのダンススタジオにオーディションクラスがあって、そこの生徒達を非公開オーディションで見せて貰うことになったんです」
「非公開オーディション? て?」
「そこの生徒か、許可された人間しか受けられない、一般には非公開という意味のオーディションです」
「へぇ、オーディションクラスの……」
「時間と場所は後で奏さんに貰って、あっ、あと。君は未成年だからエントリーシートに親のサイン貰ってくるの忘れないで」
攻撃の手を緩めないな。
ショウゴの手が私の肘から外れた。
「親のサイン……」
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