責任を取ってください
「責任を取って、ひとつ教えて下さい」
「教えるって、何を?」
「前に言ったじゃないですか、芸能界がクソだからって」
「ああ、それか」
「はい、何があったのかと……」
ユウトがクスッと笑って目をなくす。
「びっくりした。結婚でも迫られるのかと思った」
「今は笑えない冗談」
「……そうでした、すみません」
ユウト髪をかきあげ、スっと立ち上がった。
ロッカーまで行くと、救急箱をロッカーの上に置き、ロッカーの扉を開いた。
中から何かを取り出すと、バタンと音をさせ扉を閉じた。
向かい側のソファへ浅く座り、ソファテーブルへ名刺の束を置いた。
私の名刺だ。
差し入れの中に一枚ずつ忍ばせていたやつ。
「あんたが本気だっていうのは、よく分かった」
「そう? なら通ったかいがあった」
「昔、お祭りの日に、ダンススタジオのステージを見たんだ。衝撃だった、鳥肌がたって。すぐ親にこれやりたいって言ったんだ」
「何歳のとき?」
「5歳」
「5歳で、自分のやりたいこと見つかったの? 凄い」
「別にダンスがやりたかった訳じゃなくて、本当の動機は不純もいいとこ」
「あ、可愛い子がいたとか?」
「実はそう」
「それは、不純だわ」
クスっと笑いまた目をなくす。
「スタジオに通って1年が過ぎたころ、その子に初めて話しかけられた」
「うん」
「下手くそって」
「えっ」
「初めて言われたのが下手くそって、もうショックで、ダンス辞めようと思ったんだ」
「下手だったの?」
「まぁ……自分でいうのも何だけど、下手だったよね」
「そりゃ、そうなんだ。動機がその子に会いたくて通ってただけだから、ダンスはオマケみたいな感じでしょう」
ユウトが下手だった?
最初からキレキレに踊ってそうだけど。
「恥ずかしくて辞めるってなったとき、その子が来て言ったわけ」
「うん」
「辞めんの? せっかく才能あるのに、残念だよって。えっ、待て、俺才能あるって褒められたよね?! ってなって、辞めるの止めた」
「それから練習ちゃんとして、猛特訓して、どうしてもその子のレベルに追い付こうと毎日頑張ったんだ」
「そしたら、コンテスト出るメンバーに選ばれて、その子とペアになれた。しかも優勝した」
「すごい」
「そこからは純粋に踊ることが楽しくなった、もっと上手くなりたいって思った」
「うん」
「けど、彼女がスタジオを突然やめた。スカウトされて歌手になったんだ」
「最初のうちは、よく連絡とってたんだけど、そのうち彼女が忙しくなって、連絡も少なくなって、ほとんど会うこともなくなっちゃって。俺が海外に居たって事もあるんだけど」
「うん」
「ある日、ネットのニュースで知ったんだ」
「彼女が死んだって」
「!!」
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作業用BGM
In The Stars / Benson Boone




