表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

40/183

ヤバイやつのヤバイやつ①



AZTOKYOの前に立って、ポンタさんが来るのを待っている。

今日も紙袋に差し入れ詰めてやってきた。


シンにはああ言われたけど、ただこれを渡すだけなのに煩わせたくなくて連絡はしていない。


それにしても、もうお店がオープンしてお客さんが入りはじめているけど、ポンタさんがやって来ない。


HPを開いてみると、今日は金曜日でイベント開催日ってなっていた。


「HIPHOP&ラップバトル」


オープンが1時間早い18時か。


もしかしてもう、お店の中なのかな。




「あなた、だったんだ」


スマホの画面から顔を上げると、どこかで見たことのある人が立っていた。


誰だっけ。

私は記憶をたどる。


彼女さん、ではなくて、お友達の……

ふわふわ巻き毛の茶髪女子だ。


私服だったからすぐにわからなかった。

ピタっとした黒Tシャツ、お腹丸出しで白いタイトスカート。

厚底のサンダル。


「それ」


茶髪女子が私の小さい紙袋を凝視する。



「はい?」


「ユウトへの差し入れでしょ?」


「まぁ、そうですけど」


「預かろうか?」


なんとなく、何故か、敵対心が生まれる。


「ポンタさんを待っています」


「ポンタさん? 来ないと思うけど」


茶髪女子は下を向いて、クルクルクルと指先に髪の毛を巻きつける。


「今日はお休みですか?」


髪の束からスルーっと指を抜く。


「じゃあ、直接渡す?」


「あ、いいえ」


ポンタさんが来ないなら、怒られるし一旦帰ろうと思う。


「いいよ、おいでよ。裏から入れてあげる」


「あ」


茶髪女子に腕を掴まれ引っ張られる。


ビルの裏側へまわり、非常用の扉の前に立たされた。

茶髪女子が扉の暗証番号をスラスラと押す。


私の手首はとても強く掴まれていて痛いくらいだった。


「手を放してもらえませんか?」


「ああ、ごめんねぇ」


と言葉面だけの謝罪をする茶髪女子。


彼女は扉をあけたまま私が入るのを待っている。仕方なく中へ入ると、そこは一度来たことがある場所で、化粧室へと続く狭い廊下だった。


LXB(エルビー)、つまりショウゴと会った場所だ。


ヒップホップのリズムとお客さんの談笑が聞こえてくる。


「こっち」


またもや、手を掴まれたまま引っ張られる。


「ここに座ってて」


フロアの壁際にいくつかある三人掛けの丸テーブルに案内される。


「予約席」という札があるけどいいのかな。


「待ってて、ユウト呼んでくる」


そう言い残して茶髪女子は人混みに消えた。


脚の長いハイスツールに座りフロアーを一通り眺める。


ドリンクコーナーを見ると、ユウトの姿はなく違う男の人が飲み物を作っていた。

男の人は白シャツに黒いベスト姿だ。

茶髪女子がこの前、着ていたのと同じ制服。


フロアは、この間のダンスバトルの時とは、またガラッと違った客層で埋まっている。


服装、髪型、ヒップホップ好き、が全面に出ている。


個性の強い人が多くて、私は居心地の悪さを覚える。


「はい、飲み物どうぞ」


右隣に、黒色スーツ姿の見も知らない男が、突然何の前触れもなく座った。


目の前に炭酸ぽい液体の入ったグラスが雑に置かれる。グラスの縁には櫛切りのライムが刺さっていた。


お酒だよな、これ。


「1人?」


左隣にも、やっぱりまったく知らないグレースーツ姿の男が座る。


完全に挟まれ逃げ場がなくなった。


「人を待っています」


「待ち合わせ?」


黒スーツの男が身体を寄せてくる。


「まぁ」


「お姉さん綺麗だよね、スタイルいいし」


黒スーツの男、瓶に入った外国産のビールを一口飲み、前かがみで下から私の顔を覗く。


「モデルさんとかやってる?」


「いいえ」


「そうなんだ、絶対どっかに所属してると思ったんだけど、ダメ元で声かけてラッキーだな」


グイっとまた身体を寄せてくる。


もう、ほぼ腕はくっついている。


「僕はこういう者なんだけど、もしかして芸能界とか興味ない?」


グレースーツの方が、テーブルに名刺を滑らせてきた。


「君だったらすぐに映画とかドラマとかに出られると思うよ」


同業者? 名刺には「マシュマロプランニング企画」と記されていて、住所は麻布のタワーマンションになっている。


「あの、すみませんちょっと、どいてもらえますか?」


まっとうなスカウトなら、こんな場所でこんなふうに声はかけない。


「えっ、どこ行くの?」


黒もグレーも、まったくどこうとしない。


「おごりだよ? 飲んでからいきなよ」


「お酒は飲めないんで」


「えっ、お酒? 違うよ、アルコールは入ってないよ」


黒いやつが私の肩に腕をまわしてきた。


気持ち悪い。


……殴っていいかな。


でも、変に騒いでお店に迷惑かかるの嫌だな。


「飲めばどいてもらえますか?」


とにかく、この気持ちの悪い人たちから離れたい。


「ん? ああ、飲んで飲んで!」


飲んで終わるなら……一口だけ。


私はグラスに手をかけた。




「すみません、お客様」


グラスの上を覆うように誰かの手がのった。



+++*+++*+++


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ