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パパを連れていかないで



ナースステーションでも、ショウゴが先回りして話をしてくれる。


「では、叔母様がいらしたらお父様のご容態について説明いたしますので、いらっしゃったら声をかけてくださいね」


「あの、会えないんですか? 父に」


「今日は難しいですね、外からのご面会になるかと思います」


「そうなんですね……」


「奏ちゃん!」


叔母さんが廊下を走ってやってきた。


「叔母さん……パパが……」


「ごめんね遅くなって、大丈夫、パパは大丈夫!」


叔母さんが私の肩をぎゅっと掴んで

抱いてくれた。


「うん」


ほっとして、泣きそうになる。




「脳梗塞」


お医者さんの説明は、全然頭に入ってこなかった。


ガラス越しに見えたパパは、たくさんの管に繋がれて、まるで別人のようで……、パパの身に何が起きているのかまだよく理解出来ない。


「入院の手続きに必要なものを、兄さんの家に行って持ってくるんだけど、奏ちゃんも一度おウチに帰る?」


叔母さんに尋ねられたけど、半分も頭に入って来なくて、返事は曖昧だ。


「じゃあ、叔母さんちょっと行ってくるね」


「うん」




ICUの待合室で、私は何をしているんだろう。


看護師さんたちが忙しく行ったり来たりしているのをただ眺めているしかない。


一定のリズムを刻む機械音。


ICUの扉が開き、看護師さんがひとり入っていった。


看護師さんはパパのベッドの脇でパパを見下ろしている。


見ているだけで動かない。


なんだろう……胸騒ぎがする。



窓の側まで行き看護師さんの様子を伺う。


突然、看護師さんが私に顔を向けた。


ドンっと頭の中で音が鳴る。


自分の鼓動の音だ。


まるで身体全部が心臓になったかのように、視界も脈打つ。


ドンっ、ドンっ、ドンっ、ドンっ……


あの人は看護師さんなんかじゃない。


あれは……


「ママ……?」


白いドレスをまとった髪の長い人。


冷たい眼差しで私を凝視し続けている。


「ごめんなさい……」


言いかけると、ママはすっと目を逸らしパパの顔を見下ろした。


パパの顔を見下ろし白い指でそっと頬を撫でた。


「ママ、寂しい……の?」


ママがまた私を見た。

とても冷ややかに。

その視線に耐えられず瞼を閉じた。


「でも、お願い……連れていかないで、私を嫌いでも、パパを連れていかないで」


目を閉じたまま懇願する。


「お願い……」


「先輩?」


「イヤっ!!」


叫ぶのと同時に目が覚めた。


ショウゴが頬を押さえながら、ごにょごにょと何か言った。


「大丈夫です、夢だから」


ショウゴ……か?


夢って? 今のが?


やけにリアルな夢だったんだけど。


首筋に流れた汗を手の甲でぬぐう。


あれ? ショウゴ、帰ったんじゃなかったっけ。


「何か食べますか? いろいろ買ってきました、サンドイッチとかおにぎりとか」


彼は手に持ったレジ袋からおにぎりを取り出して、私に見せた。


「食欲ない」


ショウゴから小さなため息が漏れ聞こえる。


「じゃあ、これ。先輩これ好きでしょ。じゃーんイチゴ牛乳!」


パックの口を開いてストローを挿したイチゴ牛乳を目の前に差し出された。


仕方なくそれを受けとると、満足そうに微笑むショウゴ。


制服姿の彼を見て思い出す。


「そういえば、あなた学校は?!」

「今日は休みまーす!!」

「ふざけない、今からでも行きなよ」

「イヤですね」


「……私が呼んだからだね、ごめん。もっと考えれば良かった」


「……謝らないで欲しいな。いつもみたいによく考えてる先輩だったら、俺なんかを頼ってくれないじゃないですか」


「あっ、うんまぁ。それはそう」


「そんな、はっきり。……俺、もっと頑張ります!」


「私なんかのために頑張らなくていいよ」


「もっと、もっと、頑張ります!」


「だからさ……」




私は、ショウゴの笑うと少し下がる目尻を見つめながら、彼と初めて出会った日のことを思い出していた。



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