雨の日とチョコバー
「ショウゴ、行くぞー」
「ショウゴの友達らしき男3人、カラのお皿がのったトレーを持って通りすぎていく。
「待って、一緒に行くから」
私の目の前にチョコバーをスっと置いて、ショウゴは立ち上がった。
「早く浮上しないと溺れますよ」
彼はニッと笑い手を振りながら去っていった。
「生意気なやつ」
なにがラグジュアリーボーイだよ、どこぞのボンボンなだけじゃん。
あんな、全身ハイブランドずくめで、普通の人がやっていたら、嫌味でイタくてダサいやつだからね?
ショウゴは……まぁ、顔とスタイルで成立しているようなもんよ。
そういや、うちの学校、お坊っちゃまお嬢様の集まりだったっけ。
親は旧財閥系だの、政治一家だの不動産経営者だの、ゆくゆくは親の後を継ぐ方々で……。
まぁ、私も客観的にみれば、だいぶ下層の片足セレブみたいなもんか。
チョコバーを噛りながら、また水が這う硝子を眺める。
ん、美味しいな、これ。
ショウゴはコンビニ限定の新商品とか、コラボ菓子とかよくくれるんだよね。
そうかなるほど、私は知らず知らずのうちに、こうやってショウゴに餌付けされていたわけか。
あれが好きだのこれが美味しかっただのと、そんな他愛のないことを、少しずつ話すようになっていたような気がする。
まさに、上級テクニック。
知らぬ間に何か買わされていても気づかないよ、きっと。お守りとか、数珠とか。
焦らず時間をかけろ、か。
時間をかけてわかってもらうのが、一番いいに決まってる。
でも、そんなに時間もない。
硝子を這う一粒の水滴が、いつのまにか筋になり、集まって流れをつくっていく。
人も雨粒だ。
ある日突然、どこからか振り落とされて、否応なしに流される。
いったい何処へ流されるのか、わからないまま。
そんな小さな雨粒のひとつだった私達が、力を合わせて船をつくろうとしている。
雨粒だって意思を持てば、雨粒のまま流されず、この先にある大きな海へ出られるような船をつくれる。
嵐が待っていようと、沈没しようと、もうその船は出航した。
出来ることは全部しなくちゃ。
☆☆☆☆☆
「ねぇ、ねぇ。ユウトって何が好きかな?」
「あー? 」
「だから、甘いのが好き、とかアイスが好きとか?」
「んーー……」
「もしもーし!! シンてば!! おーい! 聞いてる? 聞いてるんだけど!」
「えーーー?……今、何時……?」
電話の向こうからモゴモゴとシンの寝ぼけ声が聞こえる。
「もう、6時だけど!」
「あさ、の……?」
「朝の! そりゃ、そう」
「まだ6時……? 俺、さっき寝たばっかり……」
「ユウトの好きなものだってば!!」
「はぁーーー。ゆうとぉ?? あいつは、なんかこうフワフワしたもんとか……モフモフしたもんとか……」
「なにそれ、食べ物の好み?! 綿菓子?? 」
「たべもの……甘いものは好き……でも、トレーニングにはまってるからー、あー……」
「そうなんだ、じゃあ鶏むね肉とか! 高たんぱく質とかの方がいいのかな!!」
「…………」
おや、もう返事がない。また、寝ちゃったのかな。
まぁ、いいや。さしあたってリサーチは出来た。
「……おやすみー、ごゆっくり。いい夢見てねー」
ふ、いつもの敬語のシンじゃなくて、おもしろかったな。また突電してあげよっと。
☆☆☆☆☆☆
放課後、私はAZTOKYOが入っているビルの、少し離れた場所にいる。
こうなったらショウゴ方式で行くしかない。
19時少し前にMCポンタがビルの階段を下りていくのが見えた。
「ポンタさん!」
私は自動扉の前で、ポンタさんへ声をかけた。
「あれ、社長さん」
「あの、すみませんがこれをユウトさんへ渡していただけますか?」
私は紙袋を差し出す。
「差し入れです」
「え? ユウトに差し入れ?」
「あ、これはポンタさんへ」
と、チョコバーをひとつ差し出す。
「よろしくお願いします」
「あ、ユウトに。直接渡せば? 」
「いえ、いいんです、お時間とらせたくないので」
「そうなの? まぁ、なんかよくわからないけど、わかったよ」
ポンタさんに紙袋を預けて一礼する。
直接より、人を通しての方が受け取るかもしれない、そう思ったから。
今日出来ることはここまで、おしまい。焦らず、少しずつ、亀の歩みで、急がばまわれの精神で。
「くれぐれも、よろしく、前向きにご検討ください、とお伝えください。お願いします」
+++*+++*+++
作業用BGM
'0x1=Lovesong / TXT
https://youtu.be/d5bbqKYu51w?si=hWQStr35OM6VIai0




