好感の持てる距離感とは?
月曜日、ブルーマンデー。
やらなきゃいけない事はたくさんあるのに、何もかもが滞っていた。
やりかけのパズルのピースがいくつか見つからない、完成形が見えない、全部投げ出したい気分だった。
スッキリしない頭と、
モヤモヤした気持ち。
これは高い湿度と
曇天のせいかな。
学校のカフェテリアで窓の外を見ている。
4時限めの終わりから雨が降り始めた。
ざわざわと重なるたくさんの人の声。
人の多いところは苦手。
なのに、雨が降れば行き場がない。
テーブルに頬をついて、硝子を不規則に伝う水滴を見ていると、時間も溶けて流れる。
「何か食べました?」
私に話しかけてくる人間は、学校じゃほぼショウゴと先生だけ。
と、たまに、お掃除のおばちゃん。
「食べてないですよね?」
ああ、だるい。
「頭、重くて捨てたい」
「捨てたら、僕が拾います」
「キモっ」
ショウゴ、向かいの席に座る。
「先輩、なんであそこにいたんです?」
「あなたこそ」
「もしかして見てました?」
「ん、見た、最後まで。……ユウトには敵わないね、誰も」
「あの、僕は奏先輩に告白しなきゃならないことがあるんです。聞いてもらえます?」
「うん、聞いてる」
「実は僕には2人、尊敬する人物がいるんですけど、そのうちの1人は奏先輩、でももっと先に僕のロールモデルになった人がいるんです!すみません!!」
ショウゴ、テーブルに額をぶつけそうな勢いで頭を下げた。
「ふーん。私はセカンドだったんだ」
顎をテーブルにのせてショウゴを見上げる。
「ええと、すみません。気持ち的にはまぁ、そうですね、いえ、うーん」
「そこで悩むんじゃないよ」
「ハハっ」
「私だって、ユウトが欲しいんだから」
「は、い?! どうして、ユウトさんだってわかりました?」
「誰だって手に入れたいって思うはず、あのダンス神を」
「あの、何の話ですか?僕はただ、あんな風に踊りたいからあの店に通ってるんです。ユウトさん人に教えてないから」
「え、教えてるよ? あっ、でもキッズだけにか。確かに大人には教えてないんだ……」
「そうなんですよ! キッズが羨ましい。直接教えて貰って、振り付けまでしてくれるんだから」
「ユウトのIGGってフォローしてる?」
「もちろんですよ」
ショウゴはスマホの画面を私に見せる。
確かにフォロワーの数が凄い。
「でも、最近は更新されてなくて」
「どのくらい?」
「1年ちょっとくらいですかね」
そうなんだ。
もしかしたら、その辺りで何かあったのかもな。シンのあの言葉が、ずっと気になってる。
「人生において一生消せないものってなんだろう」
「ん? なんですか? 突然」
「いいから、なんかある?」
そうですねぇ、とショウゴは顎に手を当てて考えてる。
「あ、前科とか?」
「えっ?!」
「え?!」
「なに言ってるの??」
「いや、あ、すみません。単に思っただけで……」
「そんなわけ……」
「……」
気づくとショウゴが訝しげに私を見ている。
「あ、いいの。なんでもないから。ところで、ショウゴはやってるの? こういうの」
「ああ、僕も恥ずかしいですけど……」
と、画面を変えて見せてくれた。
「LXB じゃん」
「顔は出してないんですけど、ね。ダンスの練習動画とか、カバーダンスとか。後、ダンスバトルのやつとかも」
フォローワー数が3万人にぐらいだけど、一般人としたら多い方なんだろうか?
「あのさ、私はどうやってショウゴと話すようになったんだっけ?」
「それは僕の努力以外に何もないですね、奏先輩は本当に酷かった、ここまで来るのにどれだけ僕が血の涙を流し続けたか……」
ショウゴが胸を押さえ、さめざめと泣く。
そうだよ!
ここに、いつのまにか人の懐にすっと入ってくる、やり手営業猫みたいなのがいたじゃないか!
「ねぇ、教えてくれない?」
「何をですか?」
「不快じゃない距離感? いいや、むしろ好感が持てる距離感ていうやつ」
「好感が持てる距離感? ですか?」
「そう。嫌われない程度で、でも存在感は出したいわけよ」
「軽めのトークと短い時間とか?」
「軽めのトークって?」
「例えば天気の話とか、当たり障りのない話題で挨拶して、食べ物とかの差し入れですかね」
そういえば、お母さん達からの差し入れは受け取ってたな。
「で、毎日会いに行くんです」
「それは、完全にストー」
「違いますって、それはファンなんです! 遠いところから、ちょっとずつそうやって近づいてですね、ファンとして認知されるわけです」
「それはもしや、成功したオタクを目指すということ?!」
「そう、そうゆうことです!! ……それから」
ショウゴは指ハートをつくり私へ向ける。
「なに?」
「ハートです、ハート」
と指ハートを作れと促される。
私がショウゴの真似をして指ハートをつくると、彼は自分の指ハートを乾杯するように当てた。
「ほら、意外に簡単でしょ?」
「このくらい出来るよ、こうやって親指と人差し指ずらせばいいだけなんだから」
「ハートを現すカタチって、いろいろあるってことですよー」
+++*+++*+++
☆ここまでお越しくださいまして、ありがとうございます。よろしければ、下のお星さまをポチポチして輝かせていただけると、幸いにございます
作業用BGM
Hopeless Romantic / BIG Naughty · feet.LEE SUHYUN




