かわいげのない私
「大きいのね、何cm?」
生徒の母親が、私の足元から頭の先までを見上げる。
たいてい足元を見てから、底上げしてない(厚底)リアルな身長なんだと確認される。
「173です」
「うわー。スタイルよくて羨ましい!」
ひとつもそんなこと思ってなさそうだし、初対面で挨拶すっ飛ばして、いきなり身長尋ねるとかデリカシーないよな、おばさんて。
じゃ、あなたの体重は?
股下は?足のサイズは?
とか、初対面で聞くもの?
身長は別にいい?
じゃあ、小さい人にも聞く?
いや、このての好奇心剥き出しで生きてる人だったら、聞くかもな。
あなた小さいわね?身長何㎝なの?
って。無自覚な差別意識、マイクロアグレッション。
なんなら、どうしたら大きくなれる?
から、なに食べたら身長のびる?
ご両親も大きいの?
そこまでセットで聞かれることもある。
「キッズクラスで体験しても、意味がないんじゃないの?」
「はぁ、まぁ」
「この後、大人の初心者クラスがあるわよ?」
「別にダンスをやりたくて来たわけじゃないので」
私は靴をはいて、お母さん達から離れた。
小窓から子供達のダンスを眺める。
みんな楽しそう。
ユウトもずっと笑顔だ。
先生らしく、ちゃんと一人一人に目を配ってるのがわかる。
90分のレッスンがあっという間に終わった。
汗だくの子供たちが次々扉から出てきた。
最後にユウトが出てくる。
「先生、さようならー」
「さよならー」
「せんせい、これあげる」
「ん?」
ショウタがユウトの手を引っ張った。
ユウトはしゃがんで、ショウタと同じ目線になる。
ユウトの手の甲にピタっとシールをつけた。
「先生に似てるネコにゃんだよー」
「似てる?」
手をグーにして、顔の横に並べる。
「おんなじー!」
へへへへへへへ。
ふふふふふふふ。
なんだ、このやりとり。
かわいいがすぎる!
「バイバーイ」
「バイバーイ」
みんなが帰って急に静かになった。
ユウトはモップで床を拭いている。
几帳面に端から端まで真っ直ぐに。
行ったり来たり。
私はソファに座って、なんとなくそれを目で追う。
スタジオの電気を消してユウトが出てきた。
「で、いつまでいんの?」
笑顔も店じまいしたみたい。真顔だと本当に威圧感が凄い。
オンとオフがはっきりしすぎてやしませんかね?
それとも、私が嫌われてるのか。
まぁ、そうか。やってることはストーカーと同じだもんね。
「ええと、お腹すいてませんか? ご飯でも食べながら、お話とか」
「昨日、断ったよね?」
「はい、まぁ。でも、今日は今日で気持ちが変わること……」
スタジオのロビーを追い出され、ユウトが自動扉に鍵をかけた。
「あっ、あのー」
ユウト、トントントンと階段をかけ上っていく。
私も慌てて追いかけた。
地上階に出ると、夜の町の匂いを漂よわせる、弱い微風が吹いていた。
「ラーメンとか?」
「焼き肉とか?」
「えーと、お寿司とか?」
そんな夜の風を切ってユウトは歩き始めた。
「中華? パスタ?」
「カフェでコーヒーでも? 甘いものは??」
ユウトは耳にイヤホンをはめ、完全に私を無視して歩いていく。
私はユウトを追うのをやめた。
嫌だという人に、無理矢理やらせることは出来ない。
それは、わかってるんだ。
とても良く。
+++*+++*+++
キッズの練習曲
ママたちは歌詞の意味を知らない……
rock witchu / PRETTYMUCH
ダンス動画参考↓
好きすぎるコレオグラファー
Woomin Jang
https://youtu.be/FGu8Ic0c8TI