楽しっ!!キッズクラス
拷問のような開脚前屈が終わった。
次は両足を合わせて足のつま先を両手で持つ。
太ももの裏からふくらはぎの裏が伸びる。
適度に気持ちがいい。
そうだよ、この位がストレッチっていうんだよ。さっきのは違うぞ。
立ち上がって足を交差、そのまま上体を曲げて床に手をつく。
ま、ま、これもまぁ、なんとかクリア。
お尻から太ももが伸びてなかなか良い。
足を入れ替えてもう一度16カウント。
音楽が女性ボーカルの曲に変わる。
上体のストレッチも一曲分やリ終えた。
「はーい、じゃあいったん、お水飲んできてー」
そう言ってから、ユウトはスタジオから出ていった。
子供達のお母さんかな?
3人がソファに座ってこちらを見ながらしゃべっているのが小窓から見えた。
ひとりのお母さんが立ち上がり、ユウトにアイスコーヒーを差し出した。
差し入れか、一緒にコンビニの袋も渡されている。
ユウトはキャップを外し一礼すると、髪をかき上げ、またキャップを被った。
昨日はパーマがかかったようなツイストヘアーだったのが、今日は真っ直ぐのさらさらストレートになっている。
アイスコーヒーとコンビニの袋を持って、ユウトが戻ってきた。
アイスコーヒーを飲みながら、水のペットボトルを私に突き出した。
「どうぞ、後半はもっと喉が渇くから」
「ありがとうございます」
そういえば、ストレッチしただけなのに、
うっすら汗をかいてるかも。
最近は体育の授業以外、まともに運動してないもんな。
ていうか、私はTシャツにジーパンていう普段着なんだから。
普通に動きにくいし、暑いんだわ。
「はい、2人組向き合って」
パッと子供達が動く。
「ショウタくん、こっちに来て」
この中で一番小さい男のがニコニコしながら走ってくる。
かわいい。
身長120センチくらい?
勢いよくユウトの差し出した手にしがみついた。
「サナさん、こちらのお姉さんと」
1人余っている女の子に手招きされる。
ほっそりした色白の子で、ポニーテールに銀縁の眼鏡をかけていた。
私は彼女のところに行き、向かい合って立った。
「何をするの?」
私がこそっと尋ねると、サナちゃんはフフっと笑って答えた。
「大丈夫です、簡単だから」
「いくつ?」
「11歳です」
「はい、ミラーごっこね。鏡に向かって左側にいる人は先生の言うとおりに、右側の人はその逆のことをするんだよ、わかるかな?」
鏡に向かって左にいるのは、サナちゃんだった。
「左の人!右手を上げて!」
はーい!と左の子達が右手を上げた。
サナちゃんも右手を上げている。
「右の人は、左手上げるんだぞぉ!」
あっそっか、私は左手を挙手。
「はい、向かい合って鏡みたいになってれば正解ね、手の平合わせてみて?合わさってる?」
サナちゃんの右手と私の左手合わさってる。
フフフっとサナちゃんがまた笑う。
「じゃあ、どこのチームが間違わないか競争です。先生が見てるから、頑張りましょう」
ユウトが音楽を変える。
少しアップテンポの賑やかな曲。
「1-2‐左手5‐6‐右手」
「1-2‐左足5‐6‐右手」
キャー!
できなーい!
ひゃー!
子供たちの口から楽しそうな悲鳴が上がる。
左だから、私は右手、左足は、右足のほう?!
うぎゃーっ!!
曲の早さについていけないし、サナちゃんと手を合わせられない、頭がこんがらがるぅ!!
「はい、考えないで、左の人の動きを見て真似てみよう」
「1‐2‐左肘5‐6‐右足」
だめだめ、もうできない!
待って、肘ってどこ?!足はやめてくれー!
「はーい、じゃぁ、こうたーい!」
「先生、出来た!!」
子供達が口々に報告すると、各々に目をやり微笑んだ。
「うん、上手かったね」
ユウトがショウタの手をつないだまま、ニコニコして子供たちの間を歩いていく。
ミラーゲームが終わると次は、片足相撲になった。相手に触れず、相手が足を付いたら勝ち。
これも1曲分遊ぶ。
私、体幹には自信があるからね、サナちゃんとはなかなかの良い勝負だったと思う。
「はーい、終わり!前向いて並ぶ」
子供達、隣と前後を見て綺麗に並ぶ。
また、曲が変わる。
明るくてノリの良い軽快な曲。
「今日はここまで」
ユウトがニコッと微笑む。
「えっ?はい?」
ニコニコニコニコ。
そのまま、スタジオから追い出され、ドアを閉められた。
「じゃ、前回のフリ覚えてるかな?」
「覚えてるー!」
「ほんとに? 先生覚えてないから教えて」
子供たちが踊り出す。
えっ、めっちゃ上手いんですけど。
子供、みんなキラキラした目でキレッキレに踊るし、跳ねる。
キッズ初心者コース、あなどれない。
最初は地獄に来た!と思ったけどちょっと楽しかったかも。
まぁ、ダンスのダの字もしてないんですけど。
「体験だったんですね?」
腰に手を当て水を飲んでいると、お母さんの1人に声をかけられた。
お母さん達、私に興味津々みたいだ。
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