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青いバイクの後輩くん



「大丈夫」


そうやってずっと、何度も、繰り返し呪文のように唱えている。


400ccの青いバイクがロータリーへ滑り込んできた。

一般車両で混雑する車線から、バイクは少し離れた場所に停車する。


ショウゴはバイクにまたがったまま、

フルフェイスのシールドを上げ何か叫んでいる。


(そう)せんぱーい! × ∞ (むげん連呼)」


ブンブンと長い腕を大きく振りまわし、なんかのおもちゃみたい。


あのこは、やっぱり頭がおかしい……。


「ちょっと、大声で呼ばないでって……」


軽く片手を上げ答えると、それが余程嬉しかったらしくて、今度は両手と身体全体で振り返してくる。


そのおかしな動作を早く止めさせたくて走って行く。


「ちょっと、そういうのやめて。恥ずかしいでしょうが」


わりと本気で文句を言っているのに、ショウゴはただニコニコしてバイクから降りる。


「ちゃんと5分以内に来たでしょ?偉いでしょ? 褒めてくださいね?って、わー、びしょ濡れじゃないですか?」


「あのさ、ここまで連れていって欲しいんだ」


私はスマホの画面をショウゴの目の前へ突き出す。


「あっ? えっ? 赤坂総合病院?」


「パパが救急車でここに運ばれたの」


「えええっ!! それ早く言わないと、ここ知ってます。はい、ヘルメット」


渡されたヘルメットを被ると、よく通るショウゴのデカイ声が、普通のボリュームにまで落ちる。


「すぐそこです」


ショウゴは私の背からリュックを外すと代わりにそれを背負った。


「兄貴が、ここで盲腸の手術したから、場所は知ってます」


ヘルメットのベルトの仕方がわからずまごついていると、ショウゴが素早く閉めてくれる。


それからおもむろに自分が着ていた黒いブルゾンを差し出してきた。


「いや、大丈夫……そんなに濡れてないし」

「いいから、いいから。これ、めっちゃ水弾くんです」


と言って頷きながら着せてくる。

ファスナーを喉元まで上げると満足げに笑った。


「バックを抱く感じでいいから、しっかり掴まっててくださいね」


「あ、うん」


ショウゴの背中と私の間にある自分のリュックを掴む。


「急ぎたいところだけど、完全運転で、なるべくゆっくり行きます!」


「うん」


もちろん、バイクに乗るのなんか初めてだ。

生身のからだでスピードを感じるものなんて、たぶんジョットコースター以外に乗ったことがない。


右、左、とショウゴの体が傾くたび

私もそれと同調する。


ヘルメットに当たる雨の音、線になって流れていく景色、遠心力に持っていかれそうになる感覚。


正直怖かった。


だけど、それよりもパパのことが心配で……。


病院にはあっという間に着いた。

バイクから下りると、足の感覚が変で、世界がフワフワと揺れている。


「奏先輩、お父さんきっと大丈夫ですよ」


「ん、あ……りがとう……」


声が掠れて、ショウゴに聞こえたかわからない。


「あー! せんぱい!?」


ゴンっ、ていう音、がした。

同時に前頭部に衝撃も受ける。

頭が首ごと後ろに持っていかれた。


「先輩! 大丈夫ですか? ヘルメット、取らないと……」


いつのまにかやって来たショウゴが、私の頭からヘルメットを脱がす。


ああ、視界が良い。頭がとても軽い。


「どうも」

「あの、先輩。自動扉は開いてから入るべきものですよ」


「いや、知ってるけど?」


そうか、私は自動扉に戦いを挑んだのか。

今度はちゃんと扉が左右に開いたことを確認してから病院の中へ入る。


受付らしきところまで行って、カウンター内の女性と暫く見つめ合った。


「おはようございます、ご診察でしょうか?」


カウンター内の人は、私に感じの良い笑顔を向けている。


「いえ、あの……ええと」


こういうときは、はたしてなんて言えば良いんだろうか。


「あの、今朝救急で運ばれたと思うんですが……」

「救急ですか、お名前は?」

「桑山……お父さんの下の名前は?」

「えっ? ええと、コウスケ」

「クワヤマコウスケです」

「お待ち下さい」


私が焦ってまごついているのを見かねたのか、ショウゴが代わりにつらつらとパパの名前を答えていた。


女性はPCのキーボードを叩き、それからモニターの画面をじっと見ている。


その数十秒の間に、私の頭の中に悪い想像がわいてくる。


「どうしよう……」


最悪の状況だったら?


「大丈夫ですよ」


ショウゴの力強い言葉に励まされ、いったん不安の全部を頭から押い出す。


「今、ICUで治療中ですね。詳しいことはこの先のナースステーションで聞いてください」


えっ、ICUって?!


それは、なに??



+++*+++*+++

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