成り行きスカウト
昨日はあっさり断られたけれど、一度や二度、駄目だったから何だっていうんだ!
絶対にグループのセンターに立ってもらう!
という意気込みで、今日もまたクラブ[AZTOKYO]へ来た。
さっきから、自動扉の前に立っているんだけど、扉が開かない。おかしいな?
まだ、オープン前だったかな。
スマホを取り出して時間を確認する。
開店時間は19時、今の時間は18時前だった。
あ、普通に1時間間違えた。
「何か?」
男の人の声に振り返ると、昨日のMCポンタさんだった。良かった、知ってる人だ。
まぁ、私が一方的にだけど。
「あっ、どうもすみません。南ユウトさんにお会いしたかったんですが……まだ早かったみたいで」
「ユウト? 彼は平日しか来ないから、今日は他のバイト行ってると思うけど」
「他のバイトってどこかわかりますか?」
「あなた様はどちら様かな?」
「私は友人の……友人?」
MCポンタ、目を細め明らかに警戒している顔で私を見据える。
「ていうことは、直接の友人ではないってこと?」
お? なんか怪しまれてる?
「最近多いんだよね、彼のファンていう女の子達がさ。でもストーカー行為は駄目だよ」
いやいやいや、ストーカーじゃないし。
「いえ、そういうんじゃないんです」
「個人情報は教えられません」
MCポンタはくるりと背を向け自動扉の鍵穴に鍵を入れた。
「あの、私は決して怪しいものではなくてですね、あっ、そうだ」
名刺入れから1枚名刺を取り出した。
「こういうものです」
MCポンタは背中を向けたままこちらを見てくれない。
なんか、鍵を開けるのに苦戦しているようだ。
「ええと、ちょっと失礼しますね、これ少しコツあるんですよね」
MCポンタから鍵を奪って、鍵穴を押しながら1回転させた。ガチャンという小さな音がして鍵があく。
後は扉を手で押し広げれば大丈夫。
「あっ、開いた。何回やっても上手く開かないんだよな、これ」
パチパチとMCポンタが軽く拍手して笑顔になる。
「うちの事務所の扉と同じなんで。ハハっ」
「事務所?」
「はい、私はフレデリックプロダクション、代表代理で、桑山奏と申します。けっして怪しい者ではございません!」
深く深くお辞儀。
ここは、なんとしてもユウトの居場所を聞き出さなきゃならない。
「これ……本物?」
「もちろん!電話して確かめて頂いても大丈夫ですけど……でも、土日はお休みなんで月曜日に。あっ、もし事務所所属をご希望でしたら、ご相談に応じさせて頂きますよ」
「えっ、事務所に?! そうですよね!そろそろ私も、ちょっと新しいステージに挑戦する時期かな? なんて思ってたりもしなくもなくて……」
「はい、ぜひー。で、ユウトさんのバイト先なんですけど」
「うんうん。ユウトね、彼ね確か土曜日はキッズ達にダンスを教えてるって」
「ダンスを、そうですかぁ。どこら辺で?」
「どこかは知らないんだよね。ググれば出て来ると思うよ? この前HPに載せる写真がどうとか言って撮ってたから」
「ありがとうございます、調べてみます」
「連絡するから」
電話をかけるジェスチャーを送られる。
「はい、お待ちしてます。よろしくお願いします」
「あっ、僕が教えたって言わないでね!」
丁寧にお辞儀をして、階段を上がって地上に出た。
早速「ダンス教室、南ユウト」で検索をかけた。
するとそれらしき教室がすぐにヒットした。
HPの講師紹介欄にユウトの笑顔バージョン(可愛い)の写真が載っている。
土曜日、18時からキッズクラス(初級)。
えっ、なにこれ。
経歴欄がコンテストの賞歴で溢れていた。
××年 全日本キッズダンスコンテスト 優勝
××年 日本ジュニアストリートダンス大会 優勝
××年 JAPAN DANCE DELIGHT 準優勝
××年 JAPAN DANCE DELIGHT 優勝
××年 世界ワールドオブダンス 3位
××年 世界ワールドオブダンス 優勝
××年~ Ridge Tailor Tour Dancer
~etc.
うわっ、やばっ。
彼、コンテストキラーじゃん。
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