才能に惚れた?!
にべも無くスッパリ断わられ、それ以上何も言わせない圧に打ちのめされ、膝をつきうなだれる。
これは完全に玉砕。
「じゃ、仕事あるんで」
ユウトは立ち上がる。
テーブルの上に私の名刺を置いたまま。
「あの、どういった理由で? 何が問題になっていますか? クリア出来ることはさせて頂きます」
私はユウトの背中へ訴えた。
「業界」
「はい?」
「理由①、芸能界っていうやつがクソだから。理由②、そのクソの中に混じるのが嫌だから」
ユウトはそれを淡々と言い残し、出ていった。
「クソ……クソって言われた……」
「いや、すみません。奏さんに言ったわけじゃなくて、あれは業界に対してという意味で」
「あの感じは、私も業界に含まれてるでしょ、完全に。しかも、なんかそこからおこぼれを貰う、ちっさいダニ的なニュアンスで、蔑みが込められてた」
「いや、ダニって……言ってませんよ? そこまで広義に解釈しすぎでは?」
「とてつもなく蔑視された」
シンは小さいため息をつきながら立ち上がった。
「やっぱり駄目でしたね。あいつの気持ちは変わらないと思います、諦めましょう」
「それでも彼が欲しい、諦めきれないよ……いや、諦めない!」
今まで誰かのパフォーマンスを見て、こんなにテンションが上がったことはないし、このままずっと見ていたいと思ったのも人生で初めてだった。
「あのダンス神を絶体にグループに入れる」
「凄い強メンタルですね。もしかして冷淡に扱われるとかえって燃えるタイプですか?」
私はテーブルに置き去りにされた名刺を拾い上げる。
「まずは、会社名と私の名前を覚えさせる!そして、この名刺をぜーったいに、受け取らせてみせる!!私のプライドにかけて!!」
「なんか、すみません。奏さんをユウト沼に落としたみたいで、責任感じます……」
「沼? そうか、これが誰かを推したいって気持ちなのか。つまり、これは……」
なんだろう、この、彼の才能をもっと多くの人に届けたいという使命感? ぽい……ものは。
「才能に惚れたんですかねぇ。ユウトが男女問わずモテるのはそこら辺だと思うんですよね。実際、あいつダンス以外はポンコツなんですけど」
「あ、そうだ。それよ、私のプロデューサー魂に火がついたんだっ」
おお、そうか。この気持ちがプロデューサーとしての使命感というものなのだ。パパ、わかったよ!!この仕事の根っこの気持ちが!!
「奏さん」
「はい」
「さっきから思ってたんですけど」
「はい」
「どうして、ユウトには敬語で、僕にはタメ語なんでしょうか? 奏さんより年上なんですけど??」
「ん? そうだったっけ? 」
「ほら、タメ語です。それ」
「いや、わかんないなぁ。なんでだろ? 気づかなかったや」
圧みたいな? 厳つさにビビってるか、背負ってるオーラに気圧されていたのかも。
「ま、いいですけど」
「じゃあ、これからは敬語にしよう……しますか?」
「もう、いいです。しなくていいですよ。今更なんかよそよそしくなるというか」
「じゃ、今までどうりで」
「はい、そうして下さい」
「ていうか、シンが私に対して敬語なのはなんで?」
「それは社長のお嬢さんですし? 代々(だいだい)だから?」
「ふーん、社長パワーの延長オマケが作用してるわけか、……代々って?」
「代表取締役社長代理だから、縮めて」
「あ、代々か。……それ、けっこう縮めすぎてない?」
フロアへ続く階段を下りていくと、ドリンクカウンターでお客さんと話しているユウトが見えた。
「ねぇ、彼、タトゥーとか入れてる?」
「タトゥー……んー、見える範囲でのことでいえばですけど、高校生だった頃にはなかったですね……どうしてですか?」
シンがフッと笑う。
「何?」
「それ以上は、かなり親密にならないと確認のしようがないですよね?」
「親密……??」
は、裸の付き合い?!ってこと?!
「たっ、タトゥーはちょっとアイドルとしては、マイナスイメージだと思ったからっ」
「そういえば、ピアスの数は3つぐらい増えていましたね、見える範囲では」
「その、見える範囲なら、っていうのやめようか」
「奏さん、顔が赤いですよ」
「赤くない、暑いからでしょ、ここが」
「タトゥーか。消せないものならいろいろ……」
「え?」
「いえ、なんでもないです」
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好きすぎるコレオグラファー
Woomin Jang
(ユウトのダンス、ロールモデルはこの先生)
https://youtu.be/ey1gniL4ENc




