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LXBOY ラグジュアリーボーイ


LXB (エルビー)とすれ違って私は振り返った。


彼もこちらを見ている。


キャップのツバを指先で軽く上げ、綺麗な二重の大きな目で私を見下ろしている。


「あ、れ。ショウゴ?」


「奏先輩?!」


「ええ、ショウゴがっ?さっき、あそこで!え、どういうこと?!」


「奏先輩がどうしてここに??」


「LXBが……ショウゴ……だって? え??」


なんか今、次元がグニャッと捻れたようだ。


繋がらないもの同士がつながって、それも予期せぬ場所で想像もしなかったことが起きているの。


ピピッピピッ

ショウゴの腕からスマートウォッチの電子音が鳴る。


「あの、どうしてここに奏先輩がいるのかは、また今度でいいですか? ちょっと急いでまして……」


「は?」


ショウゴは後退りしながら遠ざかっていく。


「じゃあ、また月曜日に!」


「え、あ、うんはい……え?」


ショウゴ、足早にフロアの人混みの中へ入っていき、そのままその姿が見えなくなる。


「何かありましたか?」


「へ?」


いつのまにかシンがそばにいて、フロアを凝視する私を不思議そうに見ていた。


「うん、LXBに会った」


「そうですか、彼の正体は誰も知らなくて、謎のダンサーらしいですよ」


「謎のダンサー……」


ショウゴってダンスやってたんだ。


思えば、私、

ショウゴのこと何も知らないかも。


「あっ、ユウト……南さんは?」


「さっきの部屋に来てほしいと伝えました」


私達はさっきのVIPルームへ戻り、ユウトを待った。


「ユウトを説得出来るかどうかは、奏さんに全てがかかっていると言っても過言じゃないです」


「なんで? アイドルには興味ない?」


「はい、ぜんっぜん」


「まぁ、そうでしょうね。ダンサーで充分やっていけそうだし」


「あいつ、高校卒業と同時にアメリカに渡ったと思ったら、すぐに有名アーティストのバックダンサーとかやって、一緒に全米ツアー回ったりしたんですよ」


「あ、そういうレベル……」


「1年くらい前に日本に戻ってきたんですけど、それからずっと何をするでもなく……このクラブでバイトしてるのも、バトルに出るのもオーナーの要望らしいです。まぁ、ユウト目当てのお客さんも多いですから」


「ダンサーにも固定ファンがいるんだ」


シン大きく頷く。


「IGGのフォロワー数、8万人は越えてます」


「それって多いわけ?」


「奏さん、SNSは本当に何もしていないんですか?」


「うん、してない」


必要もないし、スマホに縛られるのも嫌。


「一般のダンサーとしては多い方です、とくに海外のファンが多くを占めてるんじゃないかな」


「最初からそういうファンダムがあると強いよね?知名度的に……そっか、SNSか」


「でも、とにかくあいつ、欲が無いんですよ。将来どうなりたいとか、目標とかもないみたいだし」


「アイドルは、やりがいあるよ!きっと!(ドヤ)」


「まさか、そう言って、説得するつもりですか?」


「そうだけど」


「やめた方がいいかと」


「えー、じゃあ、どんな?」


扉が開き、ユウトが水のペットボトルを持って入ってきた。

まだ、白Tシャツのままだ。


「あっ、すみません。お仕事中お呼び立てしてしまいまして……名刺は先程……」


「ああ、これ?」


ジャージのポケットから名刺を取り出す。


「桑山 奏」


と名前を呼ばれ背筋が伸びる。


「はい……よろしくお願いします」


と頭を下げ、次に頭を上げると、ユウトはゴクゴク喉仏を動かしながら水を飲んでいた。


「わっ、私の事務所でですね、来年ボーイズグループをデビューさせようとしておりまして……」


ユウト、少し首を傾けゆっくりパチリと瞬きをした。


これ、この人の癖かな?

さっき会った時も、確かやってた。


まるで、この一瞬を記憶のカメラに残しているみたい。


「……ええと」


「興味ない」


ユウトはジロリとシンを見た。


「あの、何でも言ってください。条件とか、待遇とか、お金のことも遠慮せずに、ズバッと……」


「時間の無駄だと思う」


「……はい」


「俺なんかにそういう話するの」


さすがだ。


取り付く島もないとは、こういうことだろう、ね。



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