変幻自在の憑依型ダンサー
「おっとぉ、この曲はまさかのボカロですかっ!!」
おおー、と観客からどよめきが起こる。
ユウトは顔を手で覆い、曲を聞いているのか、リズムに合わせ頭を揺らしている。
彼のダンスは1回戦の1曲めから他の参加者とは格段にレベチだった。
両手を突き上げ天を仰ぐ、ただそれだけの動作で彼は瞬時にステージを掌握した。客は瞬きさえ忘れて彼に魅了される。
足を滑らし素早く弧を描く、左右その繰り返しでなめらかに移動したかと思えば、今度は力強く床を蹴りあげ空を切る。
首、肩、肘、手首、指、関節のひとつひとつをバラバラに操り、複雑な動きの組み合わせを、リズムと歌詞にピタリと合わせる。
その音ハメの狂いない正確さが見る人に爽快感を与えて視線を掴むんだ。
独創的な振りと、瞬時に曲を解釈し表現する感性の良さ。
引き出しの多さと、高いスキルがその表現力の幅を広げ、見る人を飽きさせることがない。
人の心を呼び出して感動まで導く人。
鳥肌が立つ空気感。
カリスマ性……これがまさにそれなんだろう。
「たぶん今、構成考えてますね」
「え?」
いつのまにかガラスに張り付いて見ていた私は、シンを振り返る。
「あいつの特技は、どんな曲でも瞬時に振り付けられるってとこなんです」
「こんな早いテンポのボカロ曲でも?」
「もちろん、事前に聞いたことがあれば完璧でしょうけど、初めて聞く曲は予想して? 音楽ってある程度パターンありますよね? さすがにこの曲は流行ってますから、聞いたことはあると思いますが……どんなものが出てくるか、ちょっと見物です」
ユウト、顔を上げると突然パーカーを脱いだ。
ギャーっ!!
悲鳴と期待の入り交じる歓声が店を揺らす。
「おーっとぉ、ユウトがパーカーを脱ぎました!下は……ああ、残念??……爽やかな白T着てまーす!」
ユウトはツイストのかかった柔らかそうなプラチナブロンドの髪をくしゃくしゃとかき上げ、小さめのステップでフロア中央までやってきた。
ニコリ。ユウトが笑った。
えっ?!!
ギャー!!声援が最早悲鳴に近い。
ほとんどの客がユウトを見たくて来ているのか。
ニコニコ。
あ、これは反則だわ。
ユウト、笑うと目が無くなる系だった。猫が目をつぶって笑っている感じ。
だから、さっきまでのいかつさが嘘のように消失、ただただ可愛くなってしまった。
この人、ギャップにも程があるんじゃないか?!
早いリズムに合わせ足を小さめにさばきながら腰を使い上半身で音を掴む。
手振りで可愛さを表現しながら、フロアを大きく使いお客さんを盛り上げる。
ステージは、お客さんもユウトも、終始笑顔で終わった。
あざとい、あざとすぎる!!
LXBの完敗だった。
「これは、DJサンタの戦略が裏目に出た結果ですかねぇ」
ポンタがDJブースにマイクを向ける。
「モウシワケナイッス!!」
という、サンプリング音を鳴らし、サンタはペコリと頭を下げた。
「勝者は……変幻自在の憑依型ダンサー、南ユウト!!」
フロアの中央でユウトとLXBが握手を交わし抱き合っている。
「私、ダンスについては素人並の目しかないんだけど、それでもこれは、このパフォーマンスが凄いものだってわかった」
「そうですか」
「見ていて楽しかった。シンもこれくらい踊れる?」
「いや、そんなわけないですって、あいつは天才ですよ??」
「そうか」
「でも目指さなきゃならないとは思ってます」
「連れてきてくれてありがとう、グループにパフォーマンス力が大事ってことがよくわかった。それにこのライブ感!まだフロアに熱気が残ってるみたい」
「ちょっと、ユウト呼んできますね」
「うん、私はおトイレに……」
一緒に部屋を出て、階段を下りると、シンはカウンターの方へ、私はトイレへとむかった。
トイレへ行く細い通路でLXBとすれ違った。
ん、あれ? どこかで会ったことありましたよね?
私が振り返ると、向こうも振り返っていて……私と彼の視線が、ばっちり合った。
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