なんか決勝戦だってよ
「さぁ、やって参りました!!」
突然どこからともなくマイクを持った人が現れた。
アロハシャツ的なトップに白いパンツ、リゾート感満載コーデのおじさんだ。
人々は踊るのをやめ、フロアの中央から遠ざかっていく。人が壁に寄ることで、フロアには円状のフラットなステージが出来上がった。
そして、見えない円を囲むようにお客さんたちは床に座っていく。
「すみませんねぇ、いつもご協力ありがとうございますぅ」
アロハシャツのMCがその中央に立ってお辞儀をした。
「毎月、月末のお楽しみ!フリーダンスバトルぅ!!さぁ、本日の参加者は8名でございますっ!!」
「さぁ、さぁ、参加者の皆さんこちらへどうぞぉー!!」
すると、参加者らしき8人が中央のスペースへ登場した。
「バトルはトーナメント方式、いつものように皆さんの熱いあつーい拍手の塩梅で勝敗が決まりますので、どうぞよろっしくお願い致しますぅ!!」
「さて、ダンサーにはまったくの忖度なしで、ランダムに音楽を選ぶ本日のDJは……あらゆるジャンルを自由自在にかけまくる、DJサンタぁー!!」
ビロビロビロローン♪
DJサンタが自ら効果音を鳴らし答えると、観客から歓声が湧いた。
「そして、本日このフリーダンスバトルのMCを勤めさせて頂きますのはワタクシ、川上ポンタでございますぅ!!今日はですね、このサンタとポンタのコンビで進めさせて頂きまーす!!」
ヒュ~~~と合いの手的な歓声が上がる。
参加者8人がフロア中央に並んだ。
その中にオレンジ色のパーカーに緑色のアドダスジャージ、赤いユンバースシューズというド派手な格好のユウトも混じっていた。
「まず、最初の対戦は……無重力発生装置bboy、ケンタローっ!!」
☆☆☆☆☆
1回戦、2回戦と熱いバトルが終わりいよいよ最後の決勝戦となる。
「さぁ、いよいよ最終決戦でぇ、ございますかね、んー、これはですね、イツメン、というやつでございますね、この対戦はもう3回目ですか? さて今宵こそ、新しいチャンピオンが誕生するのでしょうかっ!」
DJサンタが音楽を鳴らし始めた。
ゆったりとしたリズムが会場に流れ、観客はフロア上の二人に視線を送る。
「さぁ、不動のチャンピオンに果敢に挑戦し続け本日は3回目、ブランドの鎧で全身を固める、ラグジュアリーボーイ、その名も?」
MCが観客へマイクを向けた。
「LXB!!」
客席から多くの声があがる
そして拍手と歓声が。
「ラグジュアリーボーイくんの、名前の由来は、頭の黒キャップから、Tシャツ、パンツ、靴、アクセサリーに至るまで全てがハイブランドだからですよ。短くしてLXBですね」
とシンが豆情報をくれる。
彼の着ている半袖シャツはイタリアの老舗ブランドのものだし、細身のパンツに通しているべルトには同ブランドのロゴが入っている。シューズはアドダスのハイカットスニーカーだけど、奇抜なデザインなのできっとスポーツ選手とか、アーティストとかとのコラボ限定品かも。
黒いキャップにもプランドのロゴが刺繍されている。
彼は軽く手を合わせ、MCと観客へお辞儀をする。
キャップを目深に被っているから顔は見えないけど、スタイルはユウトと張り合うくらいに良い。というか、頭が小さく首が長い、手足も長いというプロポーション、骨格が似ている。
照明の当たるステージに映える二人が並んで立つ。LXBの方が5センチくらい背が高い。
「さてさて、ユウトさん」
MCがユウトを手招きで呼ぶ。
「今日は、どうしても、どうしてもー、ユウトさんに負けて欲しいということで、DJサンタが特別な曲を用意しているみたいですよー」
ユウト、DJブースを振り返り、右手を胸に当てサンタにペコリとお辞儀をした。
「さすがユウトさん、余裕がありますねぇ」
「それでは、ジャンケンで先攻後攻、決めましょうね。ジャンケンポイっ、はいユウトさん勝ちましたね、後攻? はい、では先攻LXB!!」
音楽がR&B調のゆったりしたリズムに変わった。
LXBがフロアの中心へリズムに乗りながら歩み出す。
ヒュー!!ヒャー!!
エルビー!!
とあちこちから歓声が上がる。
1回戦から見ているとLXBの得意とするのは、こういうミドルテンポの曲で、身体の柔軟性を強調するフリを多く入れることと、フロアー(床)動作を上手く利用して、上下の空間を大きく使うこと、で、よりダイナミックな動きを魅せるところかな。
そう、私は私なりにこの半月、叔母さんお薦めの韓国オーディション番組や、アイドルのバラエティー番組や、有名ダンススタジオのレッスン動画や、米アーティストのMVや、あれやこれや、なにやらかにやら、ひたすらに見まくったから、それ相当の「見る目」が養えている!はずなのだ。
で、思うに、この選曲は、LXB好き派のDJが彼の魅力を充分引き出すために選んだ曲だろうと推測。
忖度ありありなのである。
スタンス広めのステップでリズムを取り、上半身はメロディに乗せ情感たっぷりに柔らかく動く。
指先までちゃんと気を配っているのがわかる。
トメと流しの具合が絶妙なのだ。
肩から腕、指先までの距離がとても長く綺麗だ。
ヒューー!キャーー!!
盛大な拍手でLXBのダンスが終わった。
「はーい、ありがとうございました!」
LXB、皆に頭を下げ、手を振りながら端に下がる。
「それでは続いては……」
曲が変わると、客達は静まり返った。
明らかに今までの選曲とは異なるリズムと音色、そして可愛い女の子の歌声……
「おっと、この曲はーーー!」
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LXBくんの決勝戦曲は
Take You Down ― Chris Brown