ダンスバトルってなんですか?
「18歳未満は入場お断りだよー」
ユウトは背の高いグラスに氷を入れ、冷蔵庫からオレンジジュースの紙パックを取り出した。
「じゅっ、18歳です!」
18になる誕生日はまだ先だけど……ちょっとサバよみ。
「嘘はダメ、これ飲んで帰りなー」
オレンジジュースが目の前に置かれる。えらそーに言うけど、自分だってシンと同級生なら20歳になったばっかりじゃん。
「あ、ユウトは一年留学してダブってるから、1歳上です」
「あ、そうですか……」
え、シンてさ私の心が読めるのかな、怖いんだけど。
「今日、ダンスバトルのイベントやるでしょ、デイの」
「ん? やるけど」
「それ、見に来た。デイのイベントだから入れるよね?」
「入れるけど、お子様は9時までにはお帰りくださいねぇ」
彼は私にチラりと目をくれて、またグラスを磨きはじめた。
「お前、出んだろ?」
「ん、出る。……何、わざわざ俺を見に来たの?」
「まぁね」
ユウトは怪訝そうにシンを見て首を傾げた。
「お疲れ様でーす!」
通路の方から、女の子が入ってきた。
この店の制服だろうか、白シャツに黒い襟つきのベストとネクタイ、下はタイトなスカート姿だ。
「お疲れさまー」
ユウトが無愛想に答える。
「あー、シンだ!……と、 新しいバイトの子かなぁあ?」
そう言われて、彼女の視線と出会う。
「こんにちは」
こんばんは、だろうか。とりあえず新しいバイトの子ではないけれど挨拶を返しておく。
「外暑いよー、ユウト何か作ってぇ」
その女子はするーっとカウンターの中に入っていくと、ユウトの腕に自分の腕を絡ませた。ごく自然に。
巻いた茶髪の毛先がふわりと胸の前で揺れる。
私の挨拶はどこに消えた? 挨拶が一方通行なんですけど。
「VIP、入っていい?」
シンが2階を見上げながら尋ねた。
「ご自由に」
ユウトはザザザっとグラスへ氷を入れながら答えた。そこへ酒だろうものを注ぎ、青色の液体と炭酸を加え女子の前へ黙って置く。
「行きますよ」
シンに促され、オレンジジュースを持ってカウンターから離れる。
なんなの、従業員が仕事前にお酒煽るの?! しかも、イチャついて?
けしからんくない?!
「奏さん、どうかしました?」
「なにが?」
「なんか、怒ってます?」
「なんかって?! ちなみに怒ってないけど?!」
風紀が悪くて驚いているだけです。
「そうですか……」
「それで、ダンスバトルってなに?」
「ここ毎月末の金曜日に、イベントでダンスバトルやってるんですよ。あっ、ダンスの出来は観客が決めるんですけど。当日参加も飛び込みもオッケーなんです」
「ふーん」
壁際のスチール階段を上り2階へ行くと白い壁に青い扉が3つ並んでいた。
シンは一番奥の部屋へ入り照明をつけた。オレンジっぽい明かりがうっすらと灯る。
座り心地の良さそうな黒皮のソファが、木目調の楕円テーブルを囲むように配置されていた。
前面がガラス張りになっていて、階下のフロアーがまるっと見渡せる。
なるほど、VIP席とはこういうやつなんだ。
そしてこれがクラブというところか。
「どうぞ」
シンに促されソファに座る。
「うわっ」
ボフッとからだがソファに埋もれた。
思っていたよりも柔らかくてびっくり。
「……ふかふか」
ガラス越しに、下のドリンクカウンターがよく見えた。
店員の彼女が、まだユウトにくっつき絡まっている。
「あれ、彼女?」
「……違うんじゃないですかね」
「え、違うの? あんなにベタベタしているのに? 彼女じゃないの? 違うの?!」
「うーん、あいつモテるんですよねー」
あなたもおモテになるでしょうけど。
シンは愛想良くへらへらーっと笑って静かにソファに座った。
私のようにボフッと埋まったりしないところから、常連だろうと推測される。
「ねぇ、あの人をグループに入れるって?」
「そうですねぇ、どうしましょう?」
「えっ、こっちが聞いてる」
「どう見えました?」
「どうって……」
「ビジュアルは良いですよね?」
「まぁ……」
スタイルが飛び抜けて良いのは認める。だけど、風紀が乱れるのはよくない。普段の素行も大切でしょう。
私はカウンターのユウトをもう一度見る……あれ? いない。
あの、巻き毛まきまき彼女もいない。
「そろそろ開店です」
店内にノリの良いヒップホップミュージックが流れはじめた。
低音が、足元から這い上がってくる感じがする。
「そういえば、私達オープン前に入った?」
「今回は特別に」
特別ってちょっといい言葉だな。
それもVIP席って優越感あるじゃん。
ん? まって、VIP席ってお高いんじゃないの? こういうのは経費で落ちるのかな?
「ねぇシン、ここ高いんじゃ?」
「大丈夫ですよ。ここのオーナーとは知りあいですから必要ないです」
そうか、知り合いか、なら良かった。
なるべくお金を使いたくないもんね。
フロアは、あっという間にお客さんで埋まる。
へぇ、クラブってこんなに人が入るものなんだ。
なんか、お洒落なお姉さんやお兄さんが多いや。ダンサーさんかな、短めのトップスにパンツスタイルみたいな女の人もいる。
DJブースに明かりがともり、ピンライトが当てられた。DJだろう人がやってきて機材の調整を始めている。
ドリンクカウンターの前に人が並びはじめた。いつのまにかユウトが戻ってきていて、お客さん手早くドリンクを手渡していた。
フロアでは人々が音楽のリズムに合わせ、踊ったり、話したり、楽しそうに遊んでいる。
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