じゃまされたぼっちの昼休み
昼休み、私は中庭でお昼を食べていた。
購買で買ったパンとチョコ牛乳。
最近、天気が良い日はだいたい此処にいる。
ベンチに胡座をかいて、木の葉が揺れるのを眺めたり、空の雲を見送ったり。
多分、何もしないことをしたいんだと思う。
「奏せんぱーい、最近はいつもここですね」
ショウゴがやってきて私の隣に座った。
「昨日、早退しました?」
「うん、した」
「具合でも悪かったんですか?」
「いや。用事があったから」
「そっか、なら良かった……メッセージ送ったのに全然返事くれないし、心配しました」
「心配? なんで?」
「えっ、だから朝は居たのに午後になったら姿が見えないし、聞いたら早退したっていうから。連絡しても返事はないし、で」
「前から思ってたんだけど」
「はい」
「ショウゴって……すっごく暇なんだね」
ズズッとチョコ牛乳を飲み干した。
「奏先輩……」
「ん?」
「留年しません?」
「留年? なんで?」
「奏先輩は3年生で、俺は2年。来年には奏先輩は卒業しちゃって、俺はもっと暇になるじゃあないですか!」
「君の暇つぶしの為に、なんで私が留年すんの」
「隣の大学行きますか?」
エスカレーター式なので行けるっちゃ行けるんだけど。
成績も問題ないし。
「んー、わかんない。もしそうだったら、飛び級でもするわけ?」
「そんなのー! 無理に決まってるでしょ。俺の成績見たら可哀想すぎて泣きますよ?」
そこでふと、この前のことを思い出す。図書館で会った日に黒塗りの車へ押し込まれていたこと。
「ショウゴ」
「はい」
「この前別れたときさ……」
ピロピロピロリーン♪
ピロピロピロリーン♪
着信音が鳴った。
画面にはシンの登録名である『ナル神』の文字が。もちろんこれは、ナルシストのナルである。
「はい、もしもし」
「奏さん、昨日はお疲れ様でした」
「お疲れ様でした」
「今、話しても大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫」
「トモキの事、あれから考えてみたんですけど」
「トモキのこと?」
「やっぱり僕らには必要な人材だと思います」
「……でも」
「奏さんは、トモキの家族のことを思いやってるのかもしれないですけど、違うと思います」
「そういうわけじゃないよ」
「聞いてください。トモキにとって、これは逆にチャンスなんじゃないですか? グループが売れればそれなりの収入が入るわけだし、家族を楽にさせられます」
「だから、そんな保証ないじゃん」
「おかしいですよ、じゃあヒナタは? ヒナタにも保証はないですよね?」
「ヒナタは……」
「彼には入る前に痩せろ、とまで言いましたよ?!」
「ヒナタは何の問題もなさそうだし……トモキの返事はまだだし」
「じゃあ、前向きな返事があったら加入で、いいんですね? 僕らはもう、一緒の船に乗ってるんです」
「一緒の船……」
「トモキのこと、一緒に考えてやりませんか?」
「どうしても彼じゃなきゃ駄目なわけ?」
「彼の書く歌詞は、多くの人の気持ちを掴むと思います」
ショート動画のTiNToNで、一夜にして万バズしたのも、あのビジュアルとパフォーマンスの他に、何かしら人の心に訴えるものがあったからだろう。
フォロワーも万単位で増え続けている。
「いたらいいな、じゃなくて、絶体に必要です。マスト」
彼はいるべき、か。
「……わかった、考えよう。社長にも相談してみるよ。でも、うちを選ぶかどうか決めるのはトモキだからさ」
「ありがとうございます。それから明日の夜って空いてますか?」
「明日の夜?」
「会わせたい奴がいるんです」
「それって、メンバー候補とか?」
「まぁ、そうですね」
「わかった。後で時間と場所連絡して」
「はい、わかりました。連絡します」
電話を切ると、ショウゴの顔がすぐそばにあって驚いた。
「ちょっ、なに?! びっくりした、聞いてた?」
「今、少なくとも男の名前が2人出てきましたね、電話の相手も男の人でした、明日の夜の約束までしてたし……」
「まぁ、そうね」
「彼? じゃないですよね? 何をしてるんですか? 何かしてますよね?」
「何って? 何かって?」
これは仕事の話で機密事項、部外者に話しちゃ駄目だからな。
「企画書……マーケティング……後なんだっけ?」
ショウゴは記憶を手繰り寄せているみたい、ブツブツとなにか言っている。
キーンコーンカーンコーン♪
ちょうど良いタイミングでチャイムがなった。
「あっ、予鈴だ、早く戻らなくちゃー、じゃあね」
「ちょっと、奏先輩!」
私はショウゴを残して中庭から足早に去った。
ショウゴはひとりベンチに残り、追いかけては来なかった。
シンが会わせたい人って、どんな人だろう……。
とても気になる。
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