メンバーの条件
「どうですか? 少しは良くなりました?」
日が落ちて夕焼けが濃くなってきた。
団地群の背景が紫ピンクに染まる。
「うん……落ち着いてきた。ごめん」
ピロピロピロリーン♪
ピロピロピロリーン♪
私のスマホが鳴っている。
「叔母さんかな?」
「迎えに来てくれるって言ってましたからね」
「もしもし」
「もしもしー、奏ちゃん? 彼には会えた?」
「あ、うん。会えたよ」
「あらそう、約束もしないで行ったから、会えないんじゃないかと思っていたけど、凄いじゃない、良かったわねぇ」
一応、トモキの動画のサイト宛にメールは送っていたんだけど返信がなく(それは弟さんが、メールに気づかなかったってことなのだろう)
ネットサーチでうっすら高校までは判明したから、行っちゃえって感じで来た。
だから、会えたら奇跡、会えなくて当然だったわけだ。
「そうか……良かったのかな」
「そうよぉ!無謀だと思ってたけど、奏ちゃんいろいろ持ってるわねぇ……今ね多分近くまで来てると思うんだけど……」
「ありがと、場所送るね」
「うん、おねがーい」
電話を切ってから、この場所のアドレスを送った。
「近くまで来てるんだって、おばさん」
「そうですか」
「トモキに会えて良かったねっ、だって」
シンが頷いて、それからジーパンのポケットへ手を突っ込んだ。
「そういえばこれ」
シンの掌にピンクのハートがのっている。
「リサちゃんから、奏さんにって」
「リサちゃんが?」
小さいくせに気を使って……。
リサの無邪気な笑顔を思い出す。
「あの、ひとつ約束をして欲しいことがあるんですけど」
シンが真剣な顔で私を見つめる。
「アイドルって、求められることが多いと思うんですが……」
「うん」
「音楽が好き、っていうことを第一条件にして欲しいです。音楽的嗜好はそれぞれあっていいと思うんですけど、基本はそこだと思うんで」
「……そうだね」
「それから」
「ひとつじゃないんだ……」
「心が良い人」
「ん?心が良い?」
「誠実な人を選んで下さい」
「それはもちろん、真面目で努力を惜しまない人が一番だもん」
シンが首を振る。
「音楽に対して、メンバーに対して、それから自分に対して」
「あと、ファンに対しても、かな」
シンがゆるく微笑む。
「それは……そうですね、まだファンがいないから、考えてなかったです」
「でも、難しいな」
「そうですか?」
「だって、音楽が好きで才能あって、ビジュアルも良くて、10代で、人も良い?いるかな?この日本に」
「少なくとも、1人は見つけたじゃないですか?」
シン、自分を指してニコニコと笑う。
「?」
「そこ、突っ込むとこじゃないですか? 自分で言っちゃう?とか、自意識過剰じゃん?とか」
「ああ、10代じゃないけど?」
「そこはいいじゃないですか」
「私があなたを選んだのは……」
「はい」
「パパのお気に入りだったから」
「……」
「そんな初対面で、誠実さ? わからないし……」
ピロピロピロリーン♪
ピロピロピロリーン♪
「はい、もしもし?」
「着いたよ!公園の前にいるわー」
「わかった、すぐ行くね」
「なぁにぃ? なんか二人とも、元気ないわね。トモキ君、ダメだった? 加工やりすぎて、顔違いすぎたとか?」
「ううん、そうじゃないよ。むしろ実物の方が良かったよ」
「そうなんだ? なのに重いわね……空気」
叔母さん、助手席の私と後ろのシンを交互に見て、首を竦める。
「んん、音楽でも流しましょうかねぇ……」
スピーカーから、ラテン調のリズムが流れてきた。
明るくて、でもちょっとリズムに癖がある。私のプレイリストにはないジャンルだ。
音楽だけじゃない、私の世界は狭いから、もっと、いろんな事を知ってたくさん経験しないと駄目なんだと思う。
リサから貰ったハートを握りしめる。
まだ始めたばっかりだよ、しっかりしなくちゃ。
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