高校生ラッパー③
「あんたはブスね!」
「えー、ひどぃ、傷つく(嘘泣きグスン)」
このガキ、その口をあのウサキャラみたいに縫って差し上げようか。
珍しくお子をかわいいとか、思っちゃって損したぜ。やっぱり子供は嫌い。
「おい、リサ!」
トモキが慌てて妹の口を塞いだ。
「すみません、口が悪くて」
苦笑しながら頭を下げる。
リサがトモキの手を、エイっとどかす。
「やめてよね」
リサ、トモキの手を払い不本意そうに口を尖らせている。
「リサちゃんていうの?かわいい名前だね」
リサ、私を上目使いで見ると、うっすら笑みを浮かべた。
褒められてまんざらでもなさそうだ。
ふん、お子様なんてチョロいもんよ。
「まあーね」
「リサ早く、もう行くぞ」
リサはトモキにせかされ、ペタンと座り靴を履いている。
「すみません、じゃあ家の方へ」
トモキの家は、保育園に近い団地内にあった。
最上階の5階まで狭い階段を徒歩で上っていく。エレベーター、ないんですか?
日頃の運動不足を感じる……。
「すみません、母は仕事で遅いから」
そう言ってトモキが麦茶を出してくれた。
「ありがとう」
四人で囲むと少し窮屈な食卓テーブル。
5階からの眺めは良く、開け放たれた窓から心地よい風が吹いてくる。
リサがトモキの隣に座った。
「リサ、明日の用意して」
「あとで」
「今」
「もう!」
リサ、また口を尖らせながら椅子から下りる。
「すぐに戻るからぁ~待っててね」
シンに向かって手をヒラッと振ると、隣の部屋へ入っていった。
愛嬌の多い子だな。
「君のラップを見て来たんだ」
シンはそう言うとニコリと笑った。
「……急にバズっちゃって、下手なのに恥ずかしいです」
その映像は数週間前から動画サイトに上がり話題になっていた。
「さっきの話ですけど、デビューが1年以内って、絶対デビュー出来るってことですか?」
「うん、まぁ、そのつもりで準備してる」
「ねぇ、お名前なんていうの?」
いつの間にか戻ってきたリサが、再びシンの前に座った。
「シカハラシンといいます」
「シンくん、これねリサが作ったの!あげるね」
シンはリサから折り紙で折られた赤いハートを受け取った。
「上手だね、ありがとう」
「うちの事務所のこと、知ってますか?」
「すみません、あまり……」
「うちは、歌手や俳優が中心の事務所で、アイドルグループを出すの実は初めてなんだけど、でも十分力は入れるし、環境も整えてる」
「あの、そうしたら早ければ来年の5月にはデビュー出来るんですね?」
「計画では……もっと早いかも」
「そうしたら、あの……」
「何? なんでも言ってみて」
「お金……とか、その、契約金みたいのって先に貰えたりしますか?」
「契約金……」
「野球選手とか先に貰えたりするじゃないですか?」
「野球か……そういうのとはちょっと違って、ええと結論から言えば、契約金もお給料もないです」
「そうなんですか……」
トモキはがっかりしたのか、私から視線を外した。
「説明します!まず、斎藤さんとは初めはデビュー候補生として契約させて頂きます。デビューまでの1年間はお給料は出ませんが、デビュー後にはお仕事の分だけ、当社規定の割合でお支払いさせて頂きます」
「1年も……」
「それから、もし契約したらすぐに当社の寮に入ってもらう。これは他のメンバー候補生と共同生活をして、結束を高めてもらうのが主な目的」
「家も出なきゃならないんですか?!」
「そう。その代わり家賃や食費、レッスン料なんかは全部こちらが負担する」
「学校はやめないといけないですか?」
「こっちの学校に転校してもらう。学業はなるべく優先させるというのが、当社の考えなんで」
トモキの顔色が曇る。
いくつかハードルがあるのはわかる。
「ここに、詳しい説明と契約内容が入っているので、親御さんとよく相談してみて」
山口さんに作って貰った契約書のコピーと資料が入った封筒を机の上に置いた。
「お金が必要?」
シンが優しい静かなトーンで訊ねた。
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作業用BGM
Off The Record / IVE




