星降る花道を行こう
「それでは、いよいよジャパンプラチナディスクアワード、新人賞の発表です!」
「この賞はデビューした年にしか貰えない、つまり一生に一度しか機会がないという貴重な賞ですよね」
「はい、今年度もたくさんのアーティストの方々がデビューされていますが、皆さんこの賞を貰うことがひとつの目標となっていることかと思います」
「さて、今年その栄光を手に入れたのはどなたでしょうか?」
「それでは発表致します」
「ジャパンプラチナディスクアワード、新人賞は……ゴールデンタイガーの皆さんです! おめでとうございます!!」
「今後も幅広い活躍が期待されますね」
「私達を応援して見守り続けてくれたファンの皆さん、ありがとうございます!!」
「これからも頑張ります。よろしくお願いします!! 皆さん愛してます!! 」
テレビを消してノートPCを立ち上げた。
「奏さーん!!」
パソコンのモニターに笑顔で手を振るヒナタが映る。ホテルの部屋から繋げているみたい。
「みんな元気にしてる? 」
「元気ですよー、奏さんは日本に戻ってるんですよね」
「うん、昨日、日本に着いた。お正月終わったらまたシアトルに戻るけど」
ヒナタの後ろにワラワラとメンバーが集まってきて、口々に何か言っている、が、良くわからない。
「そっちは? いつ日本に戻ってくるんだっけ? 」
「この後マレーシアに飛ぶので3日後です! 」
BEFAMはデビューから8ヶ月が経ち、また新しいシングル曲を含むミニアルバムを出したばかりだった。
園田さん曰く、新人は時期を逃すとあっという間に忘れられるから、どんどん活動しないとだめ、ちょっとスケジュールはハードだけど、今は仕方ない!
ということで、今はそのプロモーションでアジア各地をツアー中。
デビューアルバムは初動で60万枚、うち20万枚は日本だ。海外プロモーションの成果で2ヶ月後には100万枚を突破している。
シンが目標にしていたミリオンを見事に越えた。
何より持つべき者はセレブの友達である。
ユウトのSNSに再びリッジーが反応してくれたおかげで、米国のビルボードグローバル200にちゃっかり入ってしまい、それも追い風となった。
とはいえ、BEFAMの楽曲が世界でも通用するとのお墨付きを貰ったみたいで素直に嬉しかった。
それから、タイの高視聴率BLドラマに出演したことでタイで大バズり中。
今回のミニアルバムも予約数だけで80万枚は超えている。ファンクラブ会員数は世界を合わせると、もうすぐ1000万人に手が届く。
グッズやコンテンツのIPも順調で、園田さんは高笑いが止まらない。次は多国籍アイドルグループを本格的に準備中だそう。
ファンクラブ会費の分配だけでも相当なので、借金返済にもメドがつきそう。
パパは不動産の固定資産税をなんとか払えると安堵していた。前回は契約金の一部がこれにまわっている。
メンバー達へのお給料も、私が渡米する前にはかなりの金額を清算することが出来た。
「奏さんはまだ日本にいますよね? 」
ヒナタに変わってシンがPCの前に座った。
「いる」
「良かった。じゃあ会えますね」
ふわりと笑う。
思えばこの笑顔と出会ってしまったのが全ての始まりだった。
「待ってるよ」
本当に皆に会いたい。
デビューを見届けてから、予定通り夏にアメリカへ行った。
皆とはもう半年近く会っていない。
「おーい、そろそろリハーサル!! 」
園田さんの声だ。
「はーい! 」
トモキが返事を返した。
ショウゴがシンを退けてモニターの前に座る。
「今の園田さんです。もう行かないと。奏先輩、寂しくなったらいつでも帰ってきていいんですからね! 」
「うん……」
実はずっとホームシックだった。寂しかった。
いつも英語だし、まぁ、当たり前だけど。
食事は合わなくて、姫ちゃんは本当に料理の神だと思う。ルームメイトは中華系で自由奔放な人だから気を使う、まさか私が誰かに気を使うなんて?! 授業は難しいし……ファーストフードでさえオーダーが通らなくて馬鹿にされる、何ひとつ簡単に出来ることがない……。
「it's gonna be alright、そのうち全部上手くいくって」
ショウゴの後ろからユウトが身を乗り出してネコにゃん顔で笑う。
「そうだね」
ヒナタとシンが後ろで手を振って行ってしまう。
「お土産何がいいですか? 」
トモキがショウゴの肩の上に顔を出す。
「何があるの? タイって」
「……なんだろう?」
聞いといて?
トモキはショウゴに助けを求める。
「え、なんかある? 」
「象の置物とか? シルクのパジャマとか? 」
ひそひそ話していたかと思ったらトモキが結論を言う。
「何もないですね!! ハハハ」
笑える。
ユウトが手を振って、トモキが軽くお辞儀をして行ってしまう。
「外国では……」
「え? 」
ショウゴが真面目な顔になる。
「言葉が出来なくても表情で気持ちを伝えられる場合よくありますね、ライブをやっていると感じます……」
「……」
「それって、先輩が一番苦手とする分野ですけどね!! 」
といってゲラゲラ笑っている。
私はロボットの表情を数パターンしか持ち合わせてないですからね、どうせ。
「……でも」
「? 」
「奏先輩が愛想良くなると、きっとモテまくるから、そのままでいてください!! 」
指ハートとウィンクを送ってきた。
「……慣れたもんだねぇ」
すっかりアイドルじゃん。
「他の愛嬌もやります? 」
「いいから、早く行きなよ」
「じゃあ、切りますね~」
「頑張って……」
「あれ、切っちゃった?! 」
書斎で仕事をしていたパパがリビングへ戻ってきた。
「うん、これからリハーサルだって」
「……そうか、少し話したかったのに」
「ごはん食べる? 」
「ええと……まさか奏が? 」
「私が作れるわけないでしょう? 姫ちゃんが用意してくれてる」
ご飯を食べ終わって、パパと一緒にBEFAMのVログを見た。
「みんな面白い。バラエティーも、演技も出来るなんて器用だよな」
BEFAMはこれからもずっと成長し続けるだろう。
ファンと一緒に、輝く星の降る美しい花道を歩くために。
☆☆☆☆☆
清々しく輝く星を、みんなひとつずつ持って生まれる。自分の星を大切に、好きになって。
それは自分だけの奇跡の輝きだから。
了
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はい、ここまでの長い道のり? を一緒に越えて下さりありがとうございました。
3ヶ月、ほぼ毎日更新してきましたが、本日で無事終了となりました。評価の星、いいね、ブクマをつけて下さりありがとうございます。私にとってはひとつひとつが本当に輝く宝物となりました。感想もお待ちしております。それでは、また新作でお逢いしましょう!! この後エピローグがあります。