雨がやまなくても
パパの表情が険しくなる。嫌だな、嫌な予感がする。
「で、みんなは無事ですか?」
無事って? 何が??
「そうですか……ではここで待っています」
パパは電話を切ると大きく息を吸いこんでそして吐いた。
「なに? なになになに?!」
「すぐそこの駐車場で事故に巻き込まれたって」
「事故って?」
「乗用車とバイクの事故があって、ショウゴ君が救急車で病院に運ばれた」
頭が真っ白になった。
え、なんて言った?
パパがなんか言ってるけど、頭が真っ白すぎてよく聞こえない……
☆☆☆☆☆
「駐車場へ車を停めて、会場まで歩いて行く途中でした」
「ショウゴがスマホで写真を撮ってたら、いきなり倒れたバイクが突っ込んできて」
トモキが泣きながら説明している。
手にしてるのはショウゴのスマートフォンだ、画面が割れている。
「ショウ君が、視界から消えて、吹っ飛ばされて」
ヒナタも泣いている。
「ひとまず皆は控え室へ行って準備をして、シン頼むね」
「はい」
パパが穏やかな口調で指示を出している。
会場まで来たのは、シン、ユウト、トモキ、ヒナタだった。
ショウゴがいない。
「山口さんは付き添いで救急車に乗りました」
「ありがとう、ユウト君」
シンとユウト、叔母さんが、トモキとヒナタを連れて控え室へ向かった。
「奏、大丈夫か」
何度か呼ばれて我に帰る。
「うん」
「ショーケース、場合に寄っては4人でやることになるよ、いいね? 」
「うん」
「ここにいて仕事をするか? 病院へ行くか? どうする?」
「うん?」
「どうしたい?」
どうしたいか? そんなの決まってる。
「……病院へ行きたい」
「わかった、病院はすぐ近くらしいからこれを、あと親御さんにも連絡をしておく」
パパからショウゴのスマホを渡された。
「親御さんに預かって貰って」
「わかった」
私は画面にヒビの入ったスマホを受け取って病院へ走った。
☆☆☆☆☆
「山口さん!!」
病院に入るとロビーの椅子に座る山口さんを見つけた。
「ああ、奏さん」
「どうなの? 怪我酷いの? どういうことなの?!」
「怪我というより意識がなくて、今治療を受けています」
「意識がないって?!」
嘘でしょ??
最悪のことを考えてしまう。
そんなことあるわけない。
考えたらそうなりそうで嫌だから、絶体に考えない。
「今、ショウゴ君のお母さんを待っています」
言葉が何も出てこない。
咽の奥に何か塊が詰まってる。
「少し時間がかかるかもしれないです、ここにいても、という所もありますけど」
私は山口さんの隣に座った。
「うちのこはどこですかっ?!」
大きく荒げた声にびくりとして、その声の主を見上げる。ショウゴのお母さんだろう。
凄く長い時間が過ぎたように思ったけど、ショウゴのスマホの時計を見たら、ほんの30分くらいしか経っていなかった。
山口さんが立ち上がりお母さんを案内する。
「早かったですね」
「公演を見るために家を早めに出て来たので」
メンバーの保護者さんには招待状を送っていた。
「先生から説明があります。あと手続きをお願いします」
「大丈夫なんでしょう? 大丈夫よね?? うちのこは大事な跡取りなんだから、困るわ、こんなの!!」
山口さんがお母さんと連れだってどこかへ行った。
受付は閉じている。
そうか、今日は土曜日だったっけ。
ロビーに人影はなく静かだ。
ショウゴのスマホをあらためて見る。
ショウゴは私と一緒にSNSの運用要員だったから、このスマホのパターン認証を知っていた。
Sの形に点をなぞっていく。
スマホが開いて、白黒の犬の写真になる。
MVに登場したボーダーコリー、お座りをして賢そうにこちらを見ている。
カメラロールを開くと写真と動画が山のように保存されていた。
事故に遭う直前の写真は会場に向かうメンバーの後ろ姿と振り返ったトモキの笑顔だった。
ユウトとのダンス動画が一番多い。何度も見返して練習したんだろう。
シンのは事故画を収集しているのか……悪意が見える。
ヒナタとトモキは同室だからか、私には普段見せないような表情が多いみたい。
とくにトモキは安全を確保したリスみたいに緩い。
いつも自撮りしてるってイメージがあったけど、その何倍もメンバーの写真の方が多かった。
沖縄でシーサー人形を作っている所とか、海で遊んでいるところ。
ハンガリーでピザ食べてたり、アイス食べてたり、そういうの全部メンバー、むしろ自撮りはほとんどない。
あとさ、私とメルが同じホルダーに入っているんだけど。なんでかな?
あ、懐かしい。
コンビニでスイーツ食べた時のやつ。
この後、ビージーズの曲が流れてさ。
大変だったよね……
ぐわっと思い出が溢れてきて、咽からこぼれてしまう。
「今日は、一番たくさん写真を撮らなきゃいけない日じゃん」
こんなことってある?
いつものサプライズだよね? ドッキリでしょう?
「奏先輩、驚きましたか? 」
とか言って出てくるんだよね。だったら、早く出てきなさいよ!
こういうドッキリは許さないからね!!
ショウゴはいつも笑って先輩って呼んでくれて、いつもお菓子とかイチゴ牛乳くれて、私の意地が悪くても血がドス黒くてもずっと傍にいてくれて、なんでだかわからないけどいつの間にかメンバーにもなってて、もう家族みたいな距離だから、ほんとに、ほんとにもう、心配させないで……。
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