表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

179/183

雨がやまなくても


パパの表情が険しくなる。嫌だな、嫌な予感がする。


「で、みんなは無事ですか?」


無事って? 何が??


「そうですか……ではここで待っています」


パパは電話を切ると大きく息を吸いこんでそして吐いた。


「なに? なになになに?!」


「すぐそこの駐車場で事故に巻き込まれたって」


「事故って?」


「乗用車とバイクの事故があって、ショウゴ君が救急車で病院に運ばれた」


頭が真っ白になった。

え、なんて言った?


パパがなんか言ってるけど、頭が真っ白すぎてよく聞こえない……



☆☆☆☆☆


「駐車場へ車を停めて、会場まで歩いて行く途中でした」


「ショウゴがスマホで写真を撮ってたら、いきなり倒れたバイクが突っ込んできて」


トモキが泣きながら説明している。


手にしてるのはショウゴのスマートフォンだ、画面が割れている。


「ショウ君が、視界から消えて、吹っ飛ばされて」


ヒナタも泣いている。


「ひとまず皆は控え室へ行って準備をして、シン頼むね」


「はい」


パパが穏やかな口調で指示を出している。


会場まで来たのは、シン、ユウト、トモキ、ヒナタだった。


ショウゴがいない。


「山口さんは付き添いで救急車に乗りました」


「ありがとう、ユウト君」


シンとユウト、叔母さんが、トモキとヒナタを連れて控え室へ向かった。


「奏、大丈夫か」


何度か呼ばれて我に帰る。


「うん」


「ショーケース、場合に寄っては4人でやることになるよ、いいね? 」


「うん」


「ここにいて仕事をするか? 病院へ行くか? どうする?」


「うん?」


「どうしたい?」


どうしたいか? そんなの決まってる。


「……病院へ行きたい」


「わかった、病院はすぐ近くらしいからこれを、あと親御さんにも連絡をしておく」


パパからショウゴのスマホを渡された。


「親御さんに預かって貰って」


「わかった」


私は画面にヒビの入ったスマホを受け取って病院へ走った。



☆☆☆☆☆



「山口さん!!」


病院に入るとロビーの椅子に座る山口さんを見つけた。


「ああ、奏さん」


「どうなの? 怪我酷いの? どういうことなの?!」


「怪我というより意識がなくて、今治療を受けています」


「意識がないって?!」


嘘でしょ??

最悪のことを考えてしまう。


そんなことあるわけない。

考えたらそうなりそうで嫌だから、絶体に考えない。


「今、ショウゴ君のお母さんを待っています」


言葉が何も出てこない。

咽の奥に何か塊が詰まってる。


「少し時間がかかるかもしれないです、ここにいても、という所もありますけど」


私は山口さんの隣に座った。


「うちのこはどこですかっ?!」


大きく荒げた声にびくりとして、その声の主を見上げる。ショウゴのお母さんだろう。


凄く長い時間が過ぎたように思ったけど、ショウゴのスマホの時計を見たら、ほんの30分くらいしか経っていなかった。


山口さんが立ち上がりお母さんを案内する。


「早かったですね」


「公演を見るために家を早めに出て来たので」


メンバーの保護者さんには招待状を送っていた。


「先生から説明があります。あと手続きをお願いします」


「大丈夫なんでしょう? 大丈夫よね?? うちのこは大事な跡取りなんだから、困るわ、こんなの!!」


山口さんがお母さんと連れだってどこかへ行った。


受付は閉じている。

そうか、今日は土曜日だったっけ。


ロビーに人影はなく静かだ。


ショウゴのスマホをあらためて見る。


ショウゴは私と一緒にSNSの運用要員だったから、このスマホのパターン認証を知っていた。


Sの形に点をなぞっていく。


スマホが開いて、白黒の犬の写真になる。


MVに登場したボーダーコリー、お座りをして賢そうにこちらを見ている。


カメラロールを開くと写真と動画が山のように保存されていた。


事故に遭う直前の写真は会場に向かうメンバーの後ろ姿と振り返ったトモキの笑顔だった。


ユウトとのダンス動画が一番多い。何度も見返して練習したんだろう。


シンのは事故画を収集しているのか……悪意が見える。


ヒナタとトモキは同室だからか、私には普段見せないような表情が多いみたい。


とくにトモキは安全を確保したリスみたいに緩い。


いつも自撮りしてるってイメージがあったけど、その何倍もメンバーの写真の方が多かった。


沖縄でシーサー人形を作っている所とか、海で遊んでいるところ。


ハンガリーでピザ食べてたり、アイス食べてたり、そういうの全部メンバー、むしろ自撮りはほとんどない。


あとさ、私とメルが同じホルダーに入っているんだけど。なんでかな? 


あ、懐かしい。


コンビニでスイーツ食べた時のやつ。

この後、ビージーズの曲が流れてさ。


大変だったよね……


ぐわっと思い出が溢れてきて、咽からこぼれてしまう。


「今日は、一番たくさん写真を撮らなきゃいけない日じゃん」


こんなことってある?

いつものサプライズだよね? ドッキリでしょう?


「奏先輩、驚きましたか? 」


とか言って出てくるんだよね。だったら、早く出てきなさいよ!


こういうドッキリは許さないからね!!


ショウゴはいつも笑って先輩って呼んでくれて、いつもお菓子とかイチゴ牛乳くれて、私の意地が悪くても血がドス黒くてもずっと傍にいてくれて、なんでだかわからないけどいつの間にかメンバーにもなってて、もう家族みたいな距離だから、ほんとに、ほんとにもう、心配させないで……。



+++*+++*+++


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ