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自分が好きな自分をつくる


MVが終わって、リビングが静かになる。


パパはまだ鼻をかんでいた。


「パパ、ありがとう」


「へ、ほつぜんはんだ?」


「傍にいてくれて」


パパが倒れたと聞いたとき、もしパパがこの世からいなくなったらどうしよう、明日から私はひとりで生きていけるの? どうなるの? って、それが怖かった。


ただそういう自分の心配だけをしていたような気がする。私はどうしたらいいのって? 


腹も立った、借金だけ残していかないでよね、無責任過ぎるって。


自分ばっかり、自分のために好き勝手生きてきただけじゃん、て。


でも今は違う。

そう思ったのは、パパの存在があまりにも大きくて当たり前で、私自身の世界がとても小さかったからだ。


傍にいなくても、会話をしなくても、パパはいつも私を守ってくれていた。


だから、自分の心配だけをしていれば良かったんだ。


ずっと恵まれていたし、私はちゃんと愛されていた。


私が私の罪を許せたのも、パパが変わらず私を愛してくれていたことを知ったから。


だからこの先、私は自信を持って自分のことを好きでいられる。


「これからも頑張って借金返そうね」


「それ、随分楽しそうに言うなぁ」


MVをまた再生する。


「それにしても、顔がいいぞ」


「ビジュアルが良すぎて、曲が入ってこない可能性すらあるね」


「これ、デジタルじゃなくて、フイルムで撮っている箇所もあるらしいな、だからかな、ちょっと懐かしい雰囲気があるのは」


「そこが、エモさの秘密か」


「ここ、ヒナタ君とワンコが走るところ好きだな」


「ここの、トモキが川をバシャバシャ歩いているとこも良くない?」


「ねぇ、あっちも見る?」


「そうだな、どうせうちの方が勝ってると思うけどな」


ゴールデンタイガーも23時にMVをアップしている。


1時間の差があるので再生回数はうちの「blue star」より数千回多い。それに、ビージーズとエアーというふたつの元々あるファンダムが合わさっているのでファン数も多い。


さっきまでSNSの日本トレンドは黄金虎、ゴールデンタイガー、ビージーズ、エアー、などが占めていた。



パパと私のスマホが鳴った。


「Congratulation!! 世界トレンド1位!」


と、グループにメッセージが送られてきていた。


園田さんからだ。


「やった!! パパ!」


私とパパはハイタッチをして喜んだ。


ゴールデンタイガーのMVも海外ロケで、南国の白い砂浜と海を背景に、アクロバット的な振り付けのダンスを踊っていたり、トラックに乗って歌っていたり、ストーリー性はあまり無いものだった。


曲は砂川流アイドルの既定路線で、聞き慣れたJPOPから逸脱していない。

すでに活動していたエアーのグループコンセプトを変えるのがファンの手前難しかったのだろう。


ビージーズの歌唱力と言っても、オートチューン多様で口パクありきが伺える。

飛行少年のときも高音を歌えていなかったのに、こんなハイトーンで歌える人がいるとは思えない。


ライブでの生歌は絶望的だろう。


蓋を開けて見れば、


「たいしたことはないな」


「敵じゃないや」


という言葉で終わった。


地下からメンバーが上がってくる気配がしたので、慌てて「blue star」のMVを再生する。


私とパパは彼等を大きな拍手で迎え、パパは1人ずつとハグをする。


「いよいよ明日は、いやもう今日か、デビューショーケースだね早いもんだ。ファンと一緒に楽しんでやりなさい。ファンも君達がそうすることを望んでいるから」



☆☆☆☆☆



短い睡眠をとって朝を迎える。


雨が降っていた。

なんとなく気分が鬱ぐ。


姫ちゃんが車の中で食べられるようにと、サンドイッチやおにぎりを作ってくれた。


「頑張って、私も娘と見に行くから!」


と涙目で見送られ、メンバーは山口さんが運転するバンに乗り込んだ。


私とパパは叔母さんの車で後から会場へ向かう。


「じゃ、後で」


「はい、先に行ってます」


シンが最後に乗り込んで、ドアが閉まる。


閉まる寸前までショウゴが無邪気な笑顔で手を振っている。しょうがないから最後の2秒だけ、軽く手を上げ答えた。


車が出て行き駐車場のシャッターが降りると、雨足が強まってきた。


遠くで雷の音すら聞こえる。春の天気はこれだから嫌だよ。埃っぽくて雨が多くて突然荒れる。


今日、野外じゃなくて良かった。会場の選定時、野外という話もあったけど、音響と天候の不安からやめていた。


会場はコンベンションセンターのひとつを借りて、ステージとセットを組んでいる。


これはゴールデンタイガーのショーケースと比較しても、きっと引けをとらないだろう。



☆☆☆☆☆


お昼前に会場に着いた。


会場に入る前、車の中からBEFAMのグッズを持っているファンをちらほらと見かけた。


「パパ、ファンがいる!」


「え、どこに?」


ほら、あそこ、と歩道を傘を差しながら歩いている2人の女性を指差す。


「おお、ほんとだ! 天気が悪くて申し訳ないなぁ」


と、パパは天気にまで責任を感じている。


「こういうの嬉しいわね」


叔母さんも運転席からチラリと見て微笑んだ。


「開場は夕方だし、お昼でも食べに行くところかしらね」


BEFAMの事をたくさん語って楽しみにしてくれているといいな。



☆☆☆☆☆


会場入り口には関係者から届いた祝賀のフラワースタンドがずらりと並び、ファンからのバルーンスタンドは世界中から届いていた。


ひとつずつ写真におさめ、どんなファン達なんだろうと想像しながらお礼を添え、SNSにアップする。



今日のチケットは即日完売。


初めから客数を押さえることにより、プレミアム感を増すことに大成功。


プレスのキャッチに「チケットは即日完売、期待高まる新人グループ!」とか、使って貰える可能性ある。


「社長! おはようございます!! 本日はどうぞ宜しくお願いいたしますっ」


「いやぁ、こちらこそお願いしますよ。ポンタさん」


MCは、なんとポンタさんだ。うちの所属となりイベントなどのMCをやってもらっている。


ネットで何度か打合せをしたけど、今日をとても楽しみにしていた。


ユウトやショウゴ、シンとも顔見知りだし、きっと良い空気感で上手くやってくれるはず。


「メンバーとはもう会いましたか?」


「ん? まだ来てないみたいだけど」


と、ポンタさんが首を傾げた。


「変だな、私達の方が先に着いちゃった?」


そこで、パパのスマホが鳴った。


「ああ、山口さん着きましたか?……えっ?」


パパの顔色がさっと変わった。



+++*+++*+++


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