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パパの涙


コンセプトやスタイリングが似ているようで、似ていない。そんなことはよくあることで、騒ぐほどのことではない、とパパは言った。


まったく同じなら問題だが、そうでないのなら何も言えないから、と。


私の中で不満はおおいにあって文句のひとつも言いたかったけど、結局何も出来ないならしょうがないし、苛々したら向こうの思うツボだからと諦めることにした。


私、大人になったみたい。



☆☆☆☆☆


デビュー2日前。

皆は美容室へ行った。


シンとユウトの髪色が変わる。


シンは色を抜き暗めのオレンジを入れた。


「わ、別人! 随分イメージ変わったね」


「似合ってるのかな? 自分でも見慣れてないから、よく分からないです」


「似合ってるけど? 刈り上げ凄いね」


トップは目にかかるくらい長いけど、サイドは刈り上げられている。


「ツーブロってやつですね」


「シンさんの髪色、麦の穂みたいでかわいいです。ユウトさんはブルーハワイ」


「ヒナタもまた矯正かけたんだ、真っ直ぐじゃん」


「はい、サラサラストレートです」


「トモキは前髪切らなかったんだね」


トモキの前髪はだいぶ長くなって、頬骨の下辺りまで伸びていた。今はヘアゴムで結んでいる。


「はい、俺は長髪担当なので」


「あれ? てっきり奏の指示かと思ってたけど」


ブルーハワイカラー担当のユウトが怪訝そうな顔で私を見てくる。


「大まかなコンセプトだけで、そこまで細かく指示してないよ」


ヘアスタイルはヒゲちゃんの仕事、いつもコンセプトに沿って素敵に仕上げてくれる。


「奏先輩、俺は黒髪担当なんですよね、俺の魅力を充分に発揮出来るのは黒髪だからってヒゲちゃんに聞きました!」


いや? そんな事言った覚えないな。ただ校則範囲内で、とオーダーしただけ。


ヒゲちゃんが気を利かせてそう言ったのかな。



☆☆☆☆☆



4月10日。


深夜0時ぴったりにMVが公開された。


『blue star』


メンバーはミュージックビデオ初見の表情を撮るため練習室にいる。


私とパパはリビングで。



最初は水の中にいるような不鮮明な雑音から始まる。子供の笑い声に、鳥のさえずり、跳ねる水音、川辺で遊んでいるような環境音だ。


BEFAM Came とタグが入るとガラリと雰囲気が変わり、キラキラとしたテクノサウンドのイントロが始まる。


そのうちR&Bっぽくなり、トモキのパートになる頃にはヒップホップのリズムに転調。


そんな複雑な曲のMVは、ドラマチックなストーリー仕立てになっている。


1本の短編映画のようなクオリティのビデオは4分強で1億円はいかないまでも近い予算で作られた。


冒頭は、棺をイメージしたカプセセルのフタがシューっと開いて、トモキが目覚めるシーンから。


顔のアップで始まる。


湖の畔、霧の中に佇むシンが振り返るシーン。


勿論、顔のアップだよ。


花畑で仰向けに寝ているショウゴが目を開けるシーン。


顔だよね。


丘に立ち旗を掲げているユウトが空を見上げるシーン。


顔だって。


最後はヒナタが硝子瓶を持って、ボーダーコリーと一緒に街中を走っていくシーン。


顔。


ボーダーコリーの

顔、はサービスカットかな。



もうね、先ずもって顔がいいから。


最初にそれを提示したのは、勿論、顔推しさんようこそいらっしゃい! ホイホイ作戦だ。


VFXで、ハンガリーの綺麗な街並みと退廃した近未来を混在させた幻想的な風景を作成、そこを舞台にストーリーが進んでいく。


要素としては王道少女漫画6、ヒーロー映画2、アクション1、ミステリー1といった具合かな。


今回も前回と同じ韓国の監督さんにお願いしている。

2回めということで、メンバーとの波長も合ってきたのか、感情を揺さぶるような表情の撮れ高が凄い。


メンバーも演技の勉強をしてきた成果があらわれている。


エモーショナル! エモい!! エモ!!


と、海外ファンの皆さんは泣いて叫ぶことだろう。


感情表現が控えめな日本人ファンは、エモっ、と人知れず心の中をざわつかせ、静かに悶えるかもしれない。


そこに楽曲が入ると、更にセンセーショナル。


とにかく最高の仕上がり。

拍手喝采、ブラボー。


再生回数がぐんぐん伸びていく。


BEFAMというブルースター(星)が、今この世に誕生した瞬間だった。



隣で鼻を啜る音が聞こえた。


「泣いてるの?」


パパがティッシュで鼻をかんだ。


「いやぁ、なんかリハビリ思い出してさ、辛かったんだよ、リハビリ」


ああ、そうか。


パパはパパで頑張ってたんだね。


ここまで来るのに私達は、本当に苦労したから。



+++*+++*+++


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