まさか仲が悪いんですか?
デビューショーケースを前に練習にも気合いが入ってくる。
練習が深夜近くになることが多くなり、今日も終了の声をかけに地下へ下りる。
じゃなければ時間を忘れて、いつまでもやってしまうのだ。
「お疲れ様です、もう終了時間ですよ」
扉に半分からだを入れたまま伝える。
「トモキ、そこ下がるとき後ろ見ないで、ショウゴはちゃんと退くから、いちいち見なくていい」
「ヒナタは前に出るとき、タンタンタンのタンで出ないと間に合わないから!」
「ショウゴはシンと肩の角度合わせて、それから今立ってるとこ、どこ? 0.5外だろっ」
「シン! お前ショウゴよりちっさいんだから大きく踊れよな! 」
ユウトが早口で捲し立ててる。
なんか白熱してる……大丈夫かな。
「ちっさいは余計、ショウゴがのびのび踊り過ぎ」
シンがボソッと言うの聞こえた。
「小さく踊るの無理なんで、大きいんで」
私に聞こえるんだから、皆にも聴こえていて当然か。
「はい、やめやめ、練習終わりー、解散!」
睨み合っている二人の間にトモキが割って入り、ショウゴを連れてくる。
「お疲れ様です」
「ん、お疲れ様でした」
扉を押さえて待っている私の前を、にこやかなトモキとブスッとしたショウゴが過ぎていく。
ユウトがモップを滑らせる。
「お疲れ様です、おやすみなさい」
シンがエアコンと扇風機を消して出ていった。
「お疲れ様です」
ヒナタは肩をすくめ苦笑しながら出ていく。
「調子ど?」
「あー? どうって?」
ユウトは端から端へ向かい、真っ直ぐ歩いていく。
「うまくいってるかなぁーって」
「?」
チラリと私の顔を見てまた前を向く。
「ちょっと、厳しくないかなぁーって」
「全然厳しくないけど。当たり前に出来ることが出来てないから言われてるだけ」
ハハハそうですね。
ダンス担当も真正の鬼だった、忘れてた。
私は静かに扉を閉じて部屋へ戻った。
☆☆☆☆☆
ほぼ1年前、シンと出会ってボーイズアイドルグループを作って売る、という突拍子もなく無謀なことを思いついた。
その為に企画書というものを初めて書いた。
大学の図書館に入り浸り、浅い知識と経験なりに見様見真似でそれをまとめた。
今見直すと、恥ずかしいくらい。あれは子供の落書きのようなもので、スケッチにさえなっていなかった。
「アイドルのフレデリックをつくる!」
最初は、そんな簡単な表題で、A4の紙が10枚くらいだった。
でもパパや山口さんや叔母さんは、その落書きを見ても、馬鹿にしたり、突き返すようなことはしなかった。
こんなことをやっても無駄だとか、お金がないからとか、そんな事も一切言わなかった。
「やってみようじゃないか」
病室で企画書を読み終わったパパは、そう言うと私の顔を見て微笑んでくれた。
認められたようで嬉しかった、あの気持ちを忘れていない。
そこで受け入れて貰えていなかったら、BEFAMはこの世界のどこにも生まれてはいなかった。
メンバーが集まり、個々の個性が足される度、私の企画書はページを増していった。
世界観、サウンド、グループコンセプト、それに伴う5人各々のコンセプトとストーリー、それを基にスタイリングのアイディアを出しあった。
デビュー後2年分の事業計画と目標はAMRと共有していて、状況に応じて見直す予定。
先行デビュー曲の『春の奏』に比べ後続デビュー曲はテンポが早くノリが良い。「元気で明るくてポップなサビと宇宙っぽいエモさ!」
が、コンセプトに基づいて私が出したデビュー曲へのオーダーだ。
シンは「またまたそんな、意味のわからないことを」
と、言いながらその日のうちに1曲、その後も30曲以上は生まれている。
その中から、メンバーみんなで選んだ曲を、シンとパパとでアレンジし、ユウトとショウゴがコレオを作った。
トモキがラップ部分の歌詞を書き、それ以外はヒナタとシンが担当している。
このデビュー曲とアルバムは流出を防ぐため、レコーディング後から慎重に扱われている。
の、はずだったのに、またしても事件が起こった。
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