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アカペラファム


スニカのプリクラへの列が延びて、通路側まではみ出していた。


つまりこちら側との間の通路がその列で半分塞がれたため、人の流れが変わってしまったのだ。


これは今度こそクレーム案件じゃない?

まだ2日間あるし最初が肝心。


「佐野さん、通路が塞がれてお客さんが迂回しちゃってます」


商品を補充していた佐野さんが顔を上げ、正面の通路へと目をやる。


「皆、プリクラ機に並んでるのね」


「はい、ちょっと言って来ましょうか?」


「天敵には用心しないと……コブラとマングース、コブラが勝つこともあるんですってね!」


それ覚えていたんだ?

てっきり忘れているかと思ってた。


「それはそうなんですけど」


「窮鼠猫を噛む、的なことかしら」


あ、いや、コブラとマングース対決の話しではなくて。


「少し様子をみましょうか。空いている今のうちに商品の補充をしちゃいます!」


納得いかないな。いかないけど……一言いったために、やり返されるってことも考えられるのか。


「サイン会、今日は次の回で終わりなんですけど、当日抽選枠はどんなですか?」


ネット販売での当選者数が2/3、当日販売の当選者用に1/3のサイン会参加券が用意されている。


「そうですね、売上目標が14時の時点で6割って感じです。あと少しってところで……ちょっと微妙かも?」


「微妙」


「あ、でも秋冬物のセール品は順調に捌けてるので」


「わかりました、次のイベントタイムで頑張ります」


キャッキャッと明るい笑い声が背後から聞こえた。


ユウトが海外からのお客さんとの会話を英語で楽しんでいるようだ。


不思議。海外でもプロモーションをしているし、配信でも海外ファンの多さは分かっていた。

だけどただサイン会のためだけに遥々日本まで来てくれているファンがいたことに驚く。


待機席の端にはスーツケースがずらりと並んでいる。


海外ファン以外にも日本のあちこちからやって来てくれているみたい。


ランウェイやライブへの出演が見送られた時点でキャンセルも可能だったはず。


それがほとんどの当選者が飛行機に乗ってやって来てくれていて、本当に海の向こうのファンていたんだ、日本全国にいたんだ、って感動する。


そしてスニカのお陰で、この3日間のうちに、まだBEFAMを知らない人達への認知度を更に上げる、という目的意識が貪欲になった。


最終回のサイン会の前、30分のイベントタイムが始まった。


何をするのか、皆とあれこれ考えたけど、結局歌うのが一番いいんじゃないか、という結論に至った。


ライブが無くなったことで、パフォーマンスを見せられなくなったこと、これはファンも寂しいのではないか、と。


とはいえ、ダンスを披露するにはスペースが狭い、マイクや大きな音は他のブースへの迷惑となるので禁止 (スニカは使っていたけど?!) ということで、アカペラで歌おう、となった。


待機席は、ほぼ埋まっている。サイン会が終了したファンの方々がそのまま残ってくれている。大変有難い。


メンバーが長机と椅子を自ら片付けて、横並びに立った。


シンが最初の挨拶を始める。


「こんにちは!! (ワン、ツー)」


『 we are family (ウェラファミリィ) BEFAMです! 』


自然発生的に拍手が起こった。


またしても有難い、本当に心が温まる。

皆も緊張していると思うけどこの拍手と歓声を聞いたら少しは緊張も解れるというもの。


「あー、どうも」


「皆さん残ってくださって、ありがとうございます」


皆、にこやかに手を振っている。


「わっ、僕のうちわがあります」


ヒナタが自分の名前のうちわを発見したようで喜んで手を振った。


ヒナタのファンも手を振り返して片手でハートを作る。


ヒナタも当然のように片手ハートを返す。


ちょっと、そんな真正アイドルみたいな仕草をいつ覚えたんだ。


それにしても、このうちわ文化ってなんだろうか。


しかも日本独特なこれを、海外の方が作って持ってきてるっていう、日本オタク文化の伝播力が凄い。


他のメンバーも自分の名前のボードやうちわを掲げている人に答えているので、暫しのファンサービスタイムとなる。


「はい、ありがとうございます」


シンが頃合いを見て進行していく。


「僕が聞いてリサーチしたところでは、今日国外で一番遠くからいらしゃった方は、南米のアルゼンチン、でした」


おお、と客先がどよめく。


「Who is from Argentina?」


ユウトが問いかけると、2人の女性が手をあげた。


「ほぼ日本の裏側からありがとうございます」


シンとメンバーが拍手を送る。パチパチと客席からも拍手がわく。


「日本国内だと、福岡って方が、あ、あちらの方々」


男女が手をあげている。


「男性の方は……」


「お父さんです!!」


とファンの方が明朗に答える。


「お、お父さん! 遠いところお疲れ様です!!」


と、ユウトが頭を下げ拍手を送ると、会場からも拍手がおこる。


お父さんは、どうも、どうも、と笑顔を振り撒きペコペコしてる。


なんかアットホームなファンダムだな。


あ、そうか。


グループ名、BEFAM だった。そういうグループ理念じゃん。


「今日はアカペラでハモらせていただきます」


「今日のために沢山練習しました。僕とショウゴはビートボックスに挑戦します!」


と、ユウトがヒナタに目配せする。


「アーーー」


ヒナタが基準の音を出すと、皆がそれに合わせて声を出す。


「ブルーノマーズのCount On Me、聞いてください」


「ワン、ツー」


シンが曲を紹介すると、ユウトがリズムを作り、ショウゴがベース部分をのせた。



+++*+++*+++


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