誰かが決めた尺度じゃなくて
21時からシンとトモキの生配信が始まった。
2人以外はリビングに集まっていて、PCに繋いだテレビ画面をモニターしている。
今回は練習室にテントを設置。その前に椅子を置いて、キャンプをしている風コンセプトで撮影。
テントの中には、寝袋やクッション、ぬいぐるみがセッティングされ、子供部屋のよう。
外側は小さな星形が連なるLEDの装飾灯、カラフルな三角旗のガーランドなどで可愛くデコレーションしている。
シンは焚き火型のぬいぐるみを、トモキはリサちゃんから預かっているお猿のぬいを膝に乗せている。
トモキ
「こんばんはトモキです。今夜はキャンプ場から配信します! とは言ってみましたが、見ての通りいつものスタジオです!」
シン
「今晩は、シンです。テントどうですか? 飾り付けをトモキとやったんですけど……可愛い? そうですか、ありがとうございます」
シン
「シャツが可愛い? これ、古着なんです。ほらここに名前が、マイケル? って刺繍があります。マイケルさんの着ていたものですね。今日はキャンプに来たボーイスカウトの人、ってコンセプトでお送りしてます」
シンがちょっと振り返って、後ろのテントを見せる。
トモキ
「ワッペンが沢山付いていてお洒落じゃないですか? カッコいいですか? トモキ似合ってる、ありがとうございます。僕は古着が好きなので、よく古着のお店に行くんですけど、こういう制服っぽいのとか、ワークシャツとかをよく探してます」
トモキ
「海外のワークシャツってお洒落に見えますよね、ワークシャツってなんですか? ええと、簡単に言うと企業の仕事着、かな。例えばガソリンスタンドの制服とか、ボーリング場のスタッフシャツとか、スポーツクラブのポロシャツとか」
シン
「トモキは古着屋さんに入るとずっといます、ほんとに。『春の奏』のMV撮影をハンガリーでやったんですが、皆さん見てくれましたか? 見た、景色が綺麗だった、ありがとうございます。その撮影で行った町に古着屋さんがあって、トモキ、たくさん買ってたよね」
トモキ
「あ、そうなんです、ヨーロッパの古着って感じで、雰囲気があって可愛いかったんです。カフスボタンとか、裏地とかも凄く凝っていて、お洒落でした。あ、このハンチング帽はそこで買いました。どうですか? 後ろの革のバックルがカッコよくて、後ろ前に被ってます」
ネイビーカラーのハンチングをカメラに見せている。
トモキ
「横に、てんとう虫の刺繍があるんですよ、いいでしょう?」
シンとトモキ、コメントを読みながらテンポ良く進行する。
配信は30分の予定で、前半はトモキの古着の話を、後半ではシンが小学生から中学生時代の話だ。
シン
「皆さん、ヒナタの奇跡の1枚はもう見ましたか? 」
見た、というコメントとスタンプが高速で流れていく。
シン
「今夜は、僕の、奇跡の1枚を紹介したいと思います」
(存在が奇跡) (1枚以上あるはず) (1枚じゃ足りない)
という、無限に褒め上げるコメントがどんどん流れていく。
気持ちいいな、これ。
シンがタブレットを準備している間、トモキが口でドラムロールを発する。
トモキ
「タカタカタカタカタ」
シン
「それでは、準備はいいですか? その奇跡の1枚は、こちらになります!」
トモキ
「じゃーん!!」
トモキ、撮影中のモニターを凝視してから、シンのタブレットを改めて覗き込んだ。綺麗な2度見である。
トモキ
「え、これ、ほんとにシンさんですか?!」
トモキも、もちろん今初めて見ているし、ここにいる皆がシンの過去を初めて知る。
シン
「6年生の時の写真です、あだ名は鏡餅でした、フフフ」
トモキ
「確かに白くてモチモチ、ここはどこですか? 」
シン
「夏休みに家族でプールに行ったときの1枚です。体重は今より重いかな」
ベンチに座って、カメラには目も向けず、必死にかき氷を食べている丸坊主の巨大児が写っている。
トモキ
「今より重かったんですかっ!! 身長は?」
シン
「160cmないくらい」
トモキ
「これ、水着は履いて……」
シン
「安心してください。腹の餅が二重にかぶさってますけど、履いてます」
そのやり取り、どこの国までウケるんだろう、ていうかウケる? 少なくともここにいる全員スルーなんだけど。
写真のシン、ほっぺた、ペタペタで、もう、ほんとに餅。
シン
「ほら見て、皮がこんなに伸びまーす」
シン、自分の顎辺りの皮膚を引っ張る。ほんとだびよーんて伸びてる。
シン
「ここから、水泳とバスケで痩せていきました、あとダンスかな」
トモキ
「これはもう別人」
シン
「でも、僕はこのときの自分も大好きなので、可愛いでしょう? 目も鼻も口も全部、埋もれてるけど、眉毛だけ主張が強いか」
トモキ
「人って、いろんな可能性を持っているんですね」
シン
「断言します、食べ過ぎず、規則正しく生活して、運動すれば絶体に痩せます!!」
笑笑笑、や笑顔のスタンプが流れていく。
良かった、コメントは肯定的で明るい。
テレビの前に体育座りでいたヒナタは膝に顔を埋めている。
シン
「皆さんも、どんな自分でも愛しましょう! 皆さんは本当に可愛いです!! 自信を持っていいです!!」
トモキ
「人に何か言われても大丈夫です、僕たちが何回でも言います! 可愛いです! 愛してます!! だから気にしなくて大丈夫!!」
シン
「誰かが決めた尺度なんて無視していいんですよ。ほんと、何かあったら僕らに言ってください。こうやっていつでも話せますからね!」
これは全部ヒナタに向かって言ってるんだよ。
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作業用BGM
My Day / TAEMIN