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みにくいあひるのこ②



「あっ、すみません僕はもう帰りますから」


彼は頭を下げ、もう一度「すみません」と小さな声で繰り返す。


「斎藤ヒナタさん」


「はい……?」


「今さ、もしかして泣いてた?」


「えっ?! 」


ヒナタは明らかにうろたえた様子でこちらを見る。


「あの……」


「どうなの?」


「いえ……」


ヒナタは私から視線を外し下を向く。


「泣いてない?」


「……ええと……はい。泣いていたかもしれないです」


コクンと頷き認める。


「どうして?」


「どうしてって……」 


「泣く程頑張ってた?」


ヒナタは背中を丸め自分の靴の爪先あたりを見ている。


「そりゃ、頑張りましたよ。僕なりに……ですけど。そもそも最終まで来たのが初めてで、とても嬉しかったんです……でも結局ダメで……期待してた自分が馬鹿みたいで」


「ねぇ、いつもは書類で落とされていたでしょう?」


「えっ、えっ、なんで? どうしてわかるんですか?」


ヒナタは顔をあげ目を丸くする。


そんなことは誰が見たって、素人だってわかる。むしろ今回、1次を突破してきたことがすでに奇跡だ。


「あのさ、ちょっとこの人を見て!」


私は隣のシンを指さした。


突然指をさされたからか、シンが不快感を露にして私を見返す。


「ええと、はい」


ヒナタは手に持っていた黒縁の眼鏡をかけ、言われた通り素直にシンを見上げる。


「第一印象、どう思う?」


「うわぁっ、凄くカッコいいですねっ! うわぁー! うわぁー!」


大げさなくらいに驚いてくれてありがとう。

リアクションが良すぎるな。


「比べてあなたは?」


「へ?」


ヒナタはキョトン顔で私を見上げ、黒ブチ眼鏡のぶ厚いレンズ越しに目をパチクリさせた。


何故、そこで自分が比べられる対象になるのか、まったくわかっていないみたい。


「月とスッポン、 ミジンコと白鳥、 ニラとバラ」


彼の表情が歪む、また泣き出しそうだ。


「……ひどいこと言いますね。わかってますよそんなこと、言われなくったって……」


そして再び下を向く。


「あのさ、そうやって素直に認めない」


「どうせ僕なんて、ブサイクだしデブだし」


頭が首からもげそうなくらい落ちる。


「あなたの歌は凄く良かった。声質にも個性があるし、何よりこの歌を届けたいって魂がちゃんと伝わってきた」


彼はまだ下を向いたままだ。


「でも、それだけじゃ歌手にはなれないよ? 本当に本気で歌手になりたいって思ってる?」


「……なんなんですか あなた。ワザワザ僕を誹謗中傷するために来たんですか?」


もう怒る気力もないのか声に力がない。


「 馬鹿にするのもいいかげんに……」


そこで右手を口に当て。


「あなたは……僕の、ぼっ、僕の歌、……今、褒めてくれましたか?」


ヒナタは顔をあげた。


「褒めた、というか絶賛したんだけど」


「え?」


「ああ私、こういう者です」


私はドヤ顔で名刺を差し出した。


一度やってみたかったのね、これ。


ヒナタは名刺を両手で受けとるとじっと見つめる。


「……」


あれ? 想像してたのと違うな、リアクション。


「……詐欺ですよね」


「へっ?!」


「おかしいと思いました、僕のこと褒めるなんて……あるわけないんだ、そんなこと」


ヒナタは立ち上がり私に名刺を突き返してきた。


「いやっ、詐欺じゃないよ?!」


「もう、僕にかまわないで下さい」


「だから、詐欺じゃなくて……」


「あなたも、そんなにカッコいいのに詐欺なんかやって、もっと他に使い方あるんじゃないですか? ずるいですよ、世の中不公平だ。僕がその外見なら……」


「そうだよ、わかってるじゃん」


「奏さん、もうやめて……」


「この世界はね、見た目至上主義なの!ルッキズム上等なの!!見た目が良ければ実力なんかなくったってホイホイ舞台に上がれんのよ、あなたはそれを知ってるの。なのに努力しない、どうして? 努力して駄目だったプライドが傷つくから?逃げ道作ってる? あのファイナリスト10人の中で、歌唱力だけだったら他に敵なんかいなかった。あなたもそう思ってる、だから悔しいんでしょ?だから泣いてるんじゃないの? でも、その現実からわざと目を反らしてる」


「僕は……」


ヒナタがまた下を向く。


「下を向くんじゃない!!」


なんかイライラしてきたな。


「みにくいアヒルの子だよ、だれもアヒルなんか見ない、隣に孔雀がいれば孔雀見るにきまってんでしょう!!」


「あっ、アヒル……って、孔雀じゃなくて白鳥だし(ゴニョゴニョ)」


ヒナタがブツブツと何か言っているが、どうでもいい。


「孔雀の隣でアヒルが僕を見て!っていくら言ったところで無駄なの!」


「……どうして駄目なんですか? 」


アヒルがメガネ越しの小さい目ですっと私を睨む。


「確かに僕はブサイクでデブで地味です。そんな奴が歌っちゃダメですか? 舞台に立つのも許されないんですかっ? !そんなのおかしい、歌は見せるものじゃなくて、聞くものじゃないんですかっ?!」




+++*+++*++++


作業用BGM


Either way / IVE

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