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告発


コトリが会見する。


という告知は今日の17時に、関係各者へ送られていた、らしい。


私はこちらのことが手いっぱいで、まったく知らず。


「奏さん、SNSで僕らのことが日本のトレンドに入ってます、あとビージーズ」


シンが暗い顔で苦笑する。

だいたいの想像はつく。


「きっと、ビージーズの曲を盗作したのは、あの偽善ライブをした新人グループ、とかいう記事でも出たんでしょう」


「はい、まぁ、そんなとこです」


もう間もなく21時になる。


園田さんがパソコンと練習室のモニターを繋いだ。


コトリの会見は誰でも見られるSNSからのストリーミング配信。


映し出されたのは、どこかの会議室のようなところで長机と椅子が設置されている様子が映っている。


練習室のみんなが片付け作業をやめてモニターに注目し始める。


まもなく画面の中に男女が登場し椅子に着席した。


どちらもきちんとしたスーツ姿。


男性が自分の前に「佐藤明法律事務所 弁護士 佐藤明」というプレートを置いた。


隣の女性も「弁護士 奥沢日向子」と、同じものを前に立てる。


このお二人を知っている。

フレデリックプロダクションの顧問弁護士の人達だ。


「それでは時間になりましたので始めさせて頂きます。この会見は現在、砂川エンターテイメントに所属しております、青野コトリさん、から砂川エンターテイメント及び砂川会長への性暴力被害の告発並びに即日の契約解除を申し出るものであります」


「コトリさんの会見は、この内容からご本人の負担を考慮しまして、あらかじめ撮影した映像にて代えさせて頂きます」


「また、関係各位様、突然の発表並びに会見会場への入室をお断りしましたこと、お詫び申し上げます。質問等につきましては、当方では書面のみお受けいたします」


「このような内容、並びにことりさんの体調、安全を考慮しての判断になりました」


「それでは、まずコトリさんからのお話をお聞き下さい」


佐藤弁護士がパソコンを操作した。


画面に椅子に座ったコトリが大きく映り出され、練習室内がざわつく。

白色のブラウスにベージュカラーのスーツを着て、髪をまとめ落ち着いた雰囲気だ。


「こんばんは、コトリです……」


コトリは手に持ったハンカチをギュッと握りしめていた。


映像が彼女に寄って、胸から上のアップになる。


「私が入院しているのは、砂川会長とマネージャーによる、性的な接待の強要と暴言からくる精神的疾患によるものです」


練習室がどよめいた。


「最初はスポンサーさんと食事だけと言われました、食事をしたら急に気分が悪くなって、意識も朦朧としてました。目覚めたらホテルの部屋に一人でいました。私は何も覚えてなくて、マネージャーが迎えに来ました。……そのとき、全部撮影してあるから、と言われました。公に出されたくなければ、黙っているようにって」


「そのあと、何人かの方とホテルで逢いしました……社長には自分の意思で個人的にしたことだろう、と言われました。違います、断れなくて、怖くて、私は嫌だったんです、社長が家族に言うと、お前の娘がどんなことをしてるか言うって、お前の言うことなんか誰も信じないって、そう言われました」


日本中がこの発言に同じような反応を起こしているだろう。

ストリーミングでどこからでも見られることを考えるとそれは世界中に広がる。


「被害を受けているのは私だけではないです。そしてその証拠がここにあります」


コトリがUSBメモリーを見せた。


あれは……リリアさんが隠していたもの。


「これは、砂川エンターテイメントがこれまでにやっていた違法な接待の証拠と、殺人に関わる重要な証拠です」


「私は砂川エンターテイメント砂川俊彦会長、並びにマネージャーを告発します」


練習室内がシンと静まりかえった。


「ことりさんの映像はここまでです」


画面が切り替わった。


殺人て……?

とあちこちから声が上がる。


「映像内にて、コトリさんが示していたものはこちらになります。すでに磁気記録内容は警察へ提出済みです」


「映像内でコトリさんが話していた内容が事実かどうか、こちらでは事実だと確認済みで、それも証拠として提出してあります。また……殺人という発言に関してですが……」


「警察の捜査により、後日必ず真相が明かされることと信じています。ですから、ここで詳細についての説明はいたしません」


ストリーミングのコメント欄が物凄いスピードで流れていく。


「殺人て? ヤバくない?」

「誰が死んだ?」

「性接待? そんなのあたりまえっwww」

「真っ黒すぎる事務所」

「コトリかわいそう」

「コトリ勇気あるな」

「砂川エンターサイテー」

「コトリちゃんはいくらなの?」

「いいなぁ、うらやま」

「金ならあるけど?」

「他の◯◯○は大丈夫?」

「嫌ならやらなくね?」

「どうして食事に行ったの?」

「はい出た、金目当て」

「いいよなぁー、俺もスポンサーになりてぇ」


なかには誹謗中傷もある。むしろそちらの方が多いくらいだ。


「この件についてのコトリさんへの誹謗中傷におきましては厳重に対処する姿勢であり、今この時点から措置の対象になりますので、SNS等ネット上への書き込みにつきましては充分ご注意下さい」


「それでは、これで会見を終了いたします。ありがとうございました」


映像はそこで終った。



「マスコミ入れなくて正解」


園田さんが肩をすぼめた。


「これをパパが?」


「そう。今頃、砂川エンターはパニックだね」


園田さんの横顔、どこか沈んでいるようにみえた。


ユウトが練習室を出ていく。

その後をシンがすぐに追っていった。


また後片付けの続きが始まり、あっという間に練習室が元の状態に戻る。


誰もいなくなった練習室で床にモップをかける。


ひとりになって少し気持ちを落ち着かせたかった。


モップをしまい室内を見渡す。


今日はいろんなことがあった。


興奮と熱気、そして最後にやってきた困惑と痛み。


各々がまだ生々しく残る場所をぐるりと見渡し、私は電気のスイッチを倒した。




+++*+++*+++


作業用BGM 20240323


Beautiful Dancer / IU

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