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コンセプトは


「ねぇ、ちょっと!」


園田さんに肩を掴まれた。

驚いて振り返る。


「まさか、そのカメラで撮ろうとしてる?!」


園田さんが私の手にある、ハンディカメラを指した。

ちょうど三脚に固定しようとしていたところだった。


「え、あ、はい」


「ちょい、ちょい、ちょい」


「?」


「カメラとカメラマンちゃんと来るから、もうちょっと待ってて。会社のリモートミーティングじゃあるまいし、そりゃないでしょ。それから照明もくっついてくるよ。ていうか電源足りる?」


「隣から伸ばして持ってくるか?」


パパと園田さんがあれこれ相談を始め、会場の準備は二人にまかせることにする。


スタッフ分のケータリングを頼んだり、諸々の営業連絡をする。投資家さんらへは山口さんから。一旦中止の連絡を入れてしまった後なので、その旨も説明がいる。


夕方になり、カメラマンさんたちが到着すると、いったん食堂とリビングでご飯休憩になる。


パパがちらりと腕時計を見て、私に顔を向けた。


「奏、ちょっと」


なんだろう、パパの表情、とても暗い気がする。


「はい」


「実はやらないといけないことがあって、ここで一緒に配信を作ることが出来ないんだ」


「どこに行くの?」


「別の場所でちゃんと見ているから。あと、彼らには何も言わなくていい」


食堂でご飯を賑やかに食べているメンバー達に視線をやって、パパはフッと笑顔を漏らした。


「奏が彼らを連れて来てなかったら……こうはならなかっただろうな」


「何のこと?」


「大丈夫だ。きっと何もかも上手くいくから。今までやってきた事と、彼らを信じて……それに園田がいるから心配ない」


「わかった」


そう言い残して、パパはそっと出ていった。



☆☆☆☆


いつのまにか大勢のスタッフさん達がうちに集まっていた。


今日は人の密度がとても高い。うちにこんなに人が来るのはいつぶりだろう。


園田さんはその中心にいて、あれこれと指示を出しては忙しく動き回っていた。


合間に電話でやりとりを交わしている。英語の時はたぶん本社だろう。


カッコいいな園田さん。


園田さんだけじゃない、佐野さんも世界を飛び回って好きなことに情熱を燃やしている。


世界へ手を伸ばしてまでやりたいこと、私にも見つけられるかな。


パパが外出して、暫く立ってからユウトが戻ってきた。


「I’m home」とかなんとか言って。

猫みたいな笑顔でメンバーたちとハグして、思い出したかのように私のところへやってきた。


「おかえり。用事は済んだわけ?」


「まぁな。……どう転ぶかはわからないけど」


佐野さんお手製の衣装に着替えて、ヒゲちゃんとチョコさんにメイクとスタイリングをしてもらい、5人は今までで一番カッコいいビジュアルに仕上がった。


『今から少し先の未来、ディストピア世界で生きるレジスタンス(学生)達が、抑圧支配する社会へ反旗を翻す』


という壮大な(ややありがち)コンセプトをバックに、制服モチーフのスクールルックで友情とチーム感を演出。ワッペンやカラフルチープなアクセサリーは、ストリートのグラフィティをイメージしている。


このコンセプトを共有し視覚化するまで、メンバーも含めて何度も意見を交わした。


彼らが曲から伝えたいメッセージとグループコンセプトの『ファミリー』をどうやって大衆へ見せるのか。


そうやって手間暇惜しまず、ひとつの形にしたものが今日のプレデビューだった。


そう簡単に、止めたり諦められるものじゃなかったと、あらためて思う。


そして、また怒りを思い出す。



☆☆☆☆☆


スチール写真を撮影してからリハーサル。


プロの手が加わって映像も音も申し分ない。


ていうか、今朝の私、どんなレベルのものを世に流そうとしていたんだ?

放送事故を起こすところだったのでは? 素人があぶなかった本当に。


練習室は狭いので、必要な手以外は出ていってもらう。

佐野さんもリビングのモニターから、視聴者と同じ環境で見守ることに。


「照明が当たったときの衣装の映え具合とかシルエットとか個々が集まったときのバランスがどうなのか、見るとこ沢山あってどうしよう。普通に推し目線からのスタイリングも重要だし、むしろそういう位置から見た方がいいような気もするし、でも、これを一般ユーザーに落とせる既製服として展開するには、とかつい考えちゃうの。見映えが良くて踊れるくらい動きやすい、この条件だけでも需要高くないかな?」


と、仕事人的な目付きをしながら、早口で発していた。


「ステージコスチュームは初めてやる分野なので楽しくてやりがいがあります。新しいことに挑戦するのはエネルギーもいるけど、得るものも多いですね」


と嬉しそうに語って締めくくった。


佐野さん、いつのまにか協賛というより、どっぷりアイドルの沼仕事に前のめりでハマっている気がする。


だけど、一緒に盛り上げてくれるの、心強いしありがたい。



☆☆☆☆☆


「5分前です!」


園田さんの声がインカムのイヤホンから聞こえてきた。


練習室の照明が消える。


何本も設置されたスタンド式の照明はいつでも練習室の中央を照らせるようにセッティングされている。


AMRのチャンネルに『Rough!(ラフ)』のMVが流された。


みんな壁のモニターに注目する。そう、何だかんだあって見られてないから、正真正銘みんなこれが初見なのだ。


映像は白い砂浜にシンのシルエット、という引きの画から始まる。



+++*+++*+++


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