みにくいあひるのこ①
「公開オーディション?」
「うん、これなんだけどさ」
私はとあるファッション雑誌を開いて広告ページをシンに提示した。
「集まれ、未来のアーティスト!!
スターは君だ!!優勝者はソ◯◯ミュージックからソロデビュー!!」
「ああ……」
「あっ、知ってる?! もしかして出たことあった?」
ハハハとシンは口の端で笑う。
「便乗ですか?」
「まぁ、いい子がいたら? うちは何もしないでメンバーゲット出来るかなぁーって」
「……そうですね、可能性はあるかもしれないですね。最終までくるとレベルはソコソコ高いですよ」
「その最終が一般公開されてるから、一緒に行ってみない?」
「いつですか?」
山口さんは忙しそうだし、叔母さんも土日は休ませてあげたいし。
といって、一人で行くのは心細いし……
というわけで、山口さんに企画書を持ってきたら、たまたまシンも来ていてなんとなく声をかけ、聞いてみたんだけど……
「急なんだけど、明日なんだ」
「明日ですか……いいですよ。行きましょう」
あっさりOKだった。
暇なのか? 大学の課題とかバイトとか……暇なのか?
「なんですか?」
「えっ? 何が?」
「あれ? 明日の予定なのに、前日に言っても全然オッケーなんだ、この人スゴいヒマな人なんだなぁー、へぇー、そういやぁ、今も用事なんてないのに会社にいるもんなぁ、的な顔してますけど」
「えっ、いやー、そんなコトはどれもひとつも思ってないって」
やだ、なんで分かったんだろう。
「言っときますけど、今日は山口さんに契約書の変更の件で呼ばれてたんです、明日も夜はバイトですし」
「あはっ、そんな、ぜっんぜん思ってなかったよ?!」
「じゃあ、明日会場前に13時待ち合わせで、いいですか?」
「わかりました、よろしくお願いします」
私はシンに向かいとても丁寧なお辞儀をして見せた。
☆☆☆☆☆
オーディション会場は、客席千人強くらいのこじんまりとした所で、ほとんどが関係者と出場者の身内、という感じだった。
私とシンは会場の一番後の席に座りステージを見ている。
舞台上にはパフォーマンスを終え、最終審査まで残った10人が並んでいた。
眩しい照明が10人全員を明るく照らしている。
みんな、今やれる最高のパフォーマンスが出来た、という自信に満ちた顔ばかりだった。
ただ様子のおかしな人がひとりいた。
彼は10人のなかで、あきらかに浮いている感が否めない。猫背でうつむき自信なさげに自分の足元をじっと見ている。
上下青色のスーツを着ているが、サイズがあっていないのか、袖は短くパンツも中途半端に短かった。
「一応聞くけど、シンの思っている人は何番?」
「奏さんと一緒だと思います、多分」
「6番?」
「はい。彼、なかなか……なかなかです」
ふーん。シンもそれなりの耳を持っているじゃあ、ないか。
「あのこは残らないでしょう」
「当然。……なんか、僕もテストされているみたいですね、その顔」
「へ? どんな顔? 私、比較的表情は少ない方だと思うし、何を考えているかわからないって、よく言われるんだけどな」
「なんかしら考えていそうだけど、あんまり聞きたくない、ってことなんでしょうね」
シンと私が三秒ほど見つめあったところで、MCが話を始めた。
「それでは、最終審査の結果を発表致します!……まず特別賞です……特別賞は3番……続いてベストヴォーカル賞は8番……さぁ、いよいよ、最優秀アーティスト賞は……1番!」
表彰式が終わり、記者用の撮影会が始まった頃、私たちは楽屋へと向かった。
楽屋として使われていただろう部屋は、あらかたの出演者が帰った後で、すでに人はまばらだった。
来るのが遅かったかな?
私たちは6番の人物を探した。
窓際にパイプ椅子がずらりと並んでいて、その一番端に彼は座っていた。
私たちは顔を見合せ確認しあう。
それから彼に近づく。
「ちょっとすみません」
私は真っ黒いモルモットの巻き毛みたいな頭に声をかけた。
モルモットがゆるゆると顔を上げる。
彼は目のまわりをシャツの袖でぬぐい、鼻をズルっとすすりながら、私達を交互に見た。
「あっすみません、もう帰ります……」
彼は、私達をコンテストのスタッフだと思ったようだ。
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