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昨日よりも今日を


「おはようございます!」


早朝の中庭にヒナタの姿があった。


「え、走るの?! やめておきなって!!」


毎朝のランニング、昨日の今日でそんなに回復しているはずもない。体調不良の原因もわからないし。


「平気です」


「俺も言ったんですよ」


トモキが柔軟運動で腕を伸ばしながら、呆れ顔でヒナタを見る。


「もうルーティンなんで、やらないと気持ちが悪いんです」


ヒナタは厳めしい顔で凛々しく言う。


ふと、シンの言葉を思い出した。


プライドが高くて頑固、何を言っても無駄。


確かに、こういうところか。


「病院に連れて行こうと思ってるんだけど」


「いいです。病院は」


「でもさ、心配だから」


「心配をかけてすみません。でも、行っても無駄なんです。メンタルクリニック紹介されるだけだし……」


メンタルの問題なら尚更、こんなふうにさらっと話されて「うん、そうか」といって済まされる話ではないんだけど。


「今までにも何度かあるんです。すみません黙っていて」


「あ、うんそれは、別にいいんだけど……」


「自分の事なので、自分でなんとかします。対処法はわかってるんで、ただ昨日は突然だっただけです」


「でもさ……」


「いいんです。もう、行きますよ」


ヒナタが急に走り出したから、慌てて追いかける。


トモキとショウゴも後から付いてくる。


「何か問題があるのなら、一人で抱えないで、相談して欲しい。いつでも」


「ありがとうございます。抱え切れなくなったら相談させてもらいます」


「抱え切れなくなったら、は遅い……ちょっと、速いって! ヒナタ待って!」


今日のヒナタ、ものすごくペースが早い。


「お、追いかけてっ!」


横に並んだトモキに頼む。


「はーい」


トモキが涼しい顔で私を追い越しヒナタの後を追っていった。


「大丈夫ですか?」


ショウゴが隣に並んで走る。


「寝てないでしょう?」


「大丈夫」


「シンさん戻らなかったです」


「うん」


結局、朝まで待っていたから知ってる。


「目のまわりにグリグリのクマ出来てます」


「え、ほんとに??」


目の下を触ってみた。


「触ったってわからないでしょう」


ショウゴがフっと笑う。


「だってグリグリとか言うから……て、グリグリってなによ?」


「目のまわりにぐるっと? ああ、グルグル? か」


出たよネオ日本語生成機。


「……ショウゴ」


「はい」


「君もさ、何か隠しているよね?」


「え、え? え?」


「言うなら今のうちだけど」


「あ、ええ、えええ?! 何のことか……何かあったっけ」


ショウゴは分からない、という顔で、ううん? と首を傾げながら走っている。


「 親御さんをなんて説得してウチにきたの?」


「ああ、それか……別に隠し事じゃないんだけど」


「じゃあ教えて」


「赤点取らない、大学へ進学して卒業する……で、いずれ跡を継ぐ、とか?」


「ふうん、意外に普通の約束」


ていうか、それって普通のこと、普通のことすぎるんじゃない?


「いずれ跡を継ぐって? いつ?」


そこは気になるけど。


「別にそれは言われてないです」


「じゃあ、さしあたって特に難しいことはないね」


「……わかってませんね」


「ん? なにが」


「まず、赤点取らない、単位落とさない、進学する、とか俺にはどれもすごーく難しいわけです」


「あ、そっか。でも今までも赤点とかあったじゃん。どうしてたわけ?」


「それは有難い救済措置と」


課題提出とか、補講受けるとかの追加措置ね。


「それでも駄目なら、お金で解決ですよ。もちろん!」


ケロッと清々しい程の笑顔。

ここまで開き直るなら、いっそ気持ちがいいか。


「そういうことを大きな声で言うんじゃないよ」


「ハハ。だから俺にとってはめちゃくちゃ、ハードル高い事なんですよ?」


「そっか。でも頑張ってよ。ショウゴはチームに必要な人なんだから」


「!!」


ショウゴが急に立ち止まる。


「え、なに?」


私も立ち止まってショウゴを待つ。


「いえ、頑張ります……」


ショウゴがまた走り出す。


「うん、頑張ろう。手伝うよ。せっかくチャンスを貰ったんだから、約束はしっかり守らないと」


「おー、奏先輩が手伝ってくれるなら、俄然やる気出ちゃうなー」


ヒナタとトモキが角を曲がって私の視界からその姿が消える。


角を曲がったからだと分かっていても不安になった。


誰もいなくならないで欲しい。ユウトも入れて5人でチームフレデリックなんだ。


この5人の代わりは世界中どこを探してもいないんだから。


家に戻ると、ヒナタとトモキはちゃんと先に帰っていてその顔を見たらほっとする。


「さ、ご飯食べて、学校に行くよ!」


どんなに酷い昨日があったとしても、また別の1日がやってくる。毎日、昨日と同じように過ごすとしても、昨日と違う今日を作ろうとしても、どちらでもいい。


ただ、昨日よりは少しだけ幸せであって欲しい。


傷が治ることはない、ただ痛みが薄まり日々の思い出の下に隠れていくだけで。


深い傷を負ったその日が遠ざかり、新しい日々で埋められていくような。


昨日より今日、少しだけ良く眠れて、良く頑張っていると自分を褒めて、少しだけ新しい空気を吸う。


抱えている痛みは、きっといつか強くて優しい手になる。


誰かを助ける手になるから。



+++*+++*+++





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