表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/183

企画書を練る! 寝る??



次の日の放課後、私はさっそく大学の図書館へ行った。


うちの学校はいわゆる小中校大まであるエスカレーター式の学校で、高校の隣にある大学の施設を自由に使用することができる。


学生証を見せれば、普通に入れるし本を借りることも出来た。


企画書って、どうやって書けばいいのだろうか?

素人の私は、まずそこからやらなきゃならない。

パパはあんなふうに言っていたけど、私は私なりに完璧なものを出したかった。


「ズバリ企画書の書き」

「マーケティング論」

「偶像崇拝の歴史」

「アイドル文化論」

「ジャパニーズ的オタク文化」


関係ありそうな書籍を手当たり次第持ってきて机の上に積んだ。



「(奏せんぱい!)」


小声で呼ばれた。

ショウゴだった。


ショウゴは私の向かいの席に座ると、キラピカひかる包装紙に包まれた丸いお菓子を差し出してきた。

チョコレートから外国の、ショウゴの制服からは陽なたの匂いがした。


さっき、SNSで居場所を聞かれ「大学の図書館にいる」と教えていたから、来るんだろうとは思っていたけど。



「(この前はありがとう)」


付箋に書いて机上へ張り付けた。


ショウゴは付箋をぺリっと剥がすと、微笑みながら私を見た。


「(これ、宝物にしまーす)」


そう小声で言って立ち上がる。


ん? 何か用事あったんじゃ?


「(ちょっと、ねぇ)」


私は軽く机を叩いてショウゴを呼び止めた。

ショウゴが振り返り不思議そうに私を見てくる。


「(ん?)」


「(何か用事が、あったんじゃないの?)」


ショウゴは首を横に振り、お菓子を指差し微笑んだ。


それからおもむろに、机に片手を付き私に顔を近付けてきた。

30cmほど近づいたところで


「(別に顔を見たかっただけです)」


と小声で言った。


「ヒマなやつ」


ショウゴが山のように積まれた本に目を落とす。


「(なんの勉強ですか?)」


「(うん、まぁちょっとね)」


「(テスト勉強じゃなさそうですねー)」


ショウゴはまた私の目の前に座ると、スマホを触り始めた。


私は使えそうな箇所に付箋を貼っていく。


少し経って顔をあげるとショウゴは頬杖をついてぼんやり窓の外を眺めていた。


窓の外は自転車置き場で、その間から大学の古めかしい正門が見える。



次に私が顔を上げた時には、彼は机に突っ伏して完全に寝落ちしていた。



寝にきた?



ブルブル……ブルブル

机に置いたままのショウゴのスマホが振動している。


画面には着信の知らせと「監守」という名前が見える。


「監守」?さんて珍しい名前と一瞬思うけど、そんなわけないか……。


ショウゴが目を覚ましスマホを手に取った。

字面を認めるとすぐに画面を伏せ、また寝る。


「(出ないの?)」


「(ノープロブレム)」


ショウゴは目を閉じたまま答えた。

なんだろう少しヒヤッとする。


断絶の意思を発動されたかな?

いや、私にではない、たぶん「監守」さんに対してなのだろう。


私はまた資料をいくつか読みあさった。


ふとスマホの時計を見て、もう19時をすぎていることに気付いた。


私は本を元の場所へと返し、帰る支度を始める。ショウゴはまったく起きる気配がない。


「(ショウゴ!そろそろ帰るよ)」


トントンと机を叩くと、ショウゴは眩しそうに私を見て、そろそろと上体を起こした。


「よく寝れた……」


言葉どうりだろう。白いほっぺたに寝あとがついている。


「……それは、良かったね」



外へ出ると、夜風が冷たかった。

5月に入って昼間は温かいけれど、夜はまだ冷えるな。


「あっ!」


そこで制服の上着を忘れてきたことに気付く。


「ジャケットを忘れてきちゃった。先帰って」


「僕が取ってきますよ」


「いいの、いいの」


そこでショウゴのスマホからクラッシックの着信音が鳴る。バッハだ。


「んじゃ、またね!」


「待ってますよ、先輩来るまで」


「いいから、先帰って!」


私はショウゴへ手を振って、図書館へ戻る。バッハの旋律がとまったので振り返ると、今度はちゃんと電話に出ているみたい。

あの、曲なんだっけ。

主よ……から始まる、讃美歌の……思い出せない、こういうのすっきりしないから嫌だ。


席に戻り椅子の背もたれにあるジャケットを取った。


ジャケットを着ながら、何気に窓の外を見ると大学の正門付近に立っているショウゴが見えた。


黒いワンボックスの車が彼の前に停車し、中からスーツ姿の男がひとり下りてきた。


男は後部座席のドアを開け、ショウゴを促しているようだった。


突っ立ったままのショウゴ。


男に肩を捕まれ、半ば押し込まれるように車に乗せられている。 


あ、そう『主よ、人の望みの喜びよ』

ってやつだ、思い出した。

あー、さっぱり。


そして、車は発進した。


んん? これって、まさか誘拐? ってわけじゃないよね?




+++*+++*+++


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ