波多野ファミリー
「だから、勝手に撮らない肖像権……」
カシャッ、と乾いた音と共にショウゴのスマホに残る私の事故画。
「ちょっ、ちょっとぉお!」
ショウゴは私には構わず、ふふん♪とハナウタ歌いながら、他のメンバーを撮りにいく。
「奏さん、ログ撮り始めますよ」
山口さんがビデオの撮影を始めた。
「あ、はい。お願いします」
控え室のモニターに、ステージの映像が流れている。
ステージ上では子供と大人が一緒にフラダンスを踊っていた。
ゆったりとした音楽と子供達の笑顔に暫く癒される。
香盤表を確認すると、今は三番目の親子フラダンス、南風クラブとなっている。
チャリティーコンサート、プロもアマチュアもクラブもサークルも関係なく誰でも出演出来るのか。
もちろん告知のフライヤーは見ていたけど、それぞれがどんな団体かまではチェックしていない。
それに、うちのチーフリは写真が間に合わなくて、WEBモデル時の団体写真だし、名前も決まっていないから、チームフレデリック、だし。
色々、残念なフライヤーだ。
おまけにこれがそのまま、WEB上のHPにもあがっている。
唯一良かったのは、団体写真で着ている服装が今日の衣装だという点くらいかも。
「奏さん」
フラダンスを見ながら、ぼんやりそんなことを思っていたら、いつの間にかトモキが目の前に立っていた。
「あ、ごめん何?」
「母が奏さんとメンバーのみんなに挨拶したいって言うんですけど……」
トモキのお母さんか、契約の時事務所に来てたらしいけど、私は会っていない。ヒナタのお母さんもそう。ショウゴは弁護士さんが同席したらしい。
シンは未成年ではないので親の同席は必要なかった。
「あ、こちらこそ、ご挨拶しないと」
トモキはすぐに家族を呼びに行った。
「あっ、そう、だ!」
誰だ、人を呼び捨てにするのは。
って、まぁ、心当たりは凄くあるけど。
扉から、トモキにそっくりな女性とリサと弟君が顔を覗かせている。
「こんにちは、初めまして。どうぞ入って下さい」
「うわぁ、シンかっこいい! かっこいい!!」
リサはソファに座っていたシンの横にピタリと座った。
「リサちゃん、久しぶり元気だった?」
「シンはどうしてそんなにどんどんかっこよくなるの?」
「あはは、ありがとう」
「初めまして、トモキの母です。トモキが大変お世話になってます。弟のユウキです」
小柄で華奢な少年が、人懐っこい笑顔でペコッと頭を下げた。
「いつも、兄がお世話になってます」
え、今時の子ってこんなにしっかり挨拶出来るの?
「ご挨拶が遅れましてどうもすみません、桑山奏です。今日はお忙しいところを、ありがとうございます」
私も頭を下げる。
「ユウキ君、しっかりしてますね。お休み中は、お兄ちゃんいっぱい遊んでくれたかな?」
「はい、楽しかったです。今日もずっと楽しみにしていました」
「どう? お兄ちゃんカッコいい?」
ユウキがへへへと笑ってトモキを見上げる。
「やめて下さい、奏さん」
トモキ、顔に手を当て普通に照れている。
「ユウキ君、あっちにお菓子あるぞぉ。お兄さんはトモキのダンスの先生でユウトって言うんだ、よろしく」
ユウトがしゃがんで自己紹介を始めた。さすがキッズクラス担当、子供の扱いが上手いぞ。
「おお、ユウトとユウキでWUじゃん。漢字で書くとどういう字?」
ユウトはユウキの背中を押してソファの方へ連れていった。
トモキもその後を付いていく。
「桑山さん」
トモキのお母さんがあらたまった顔で私を見ている。
目元が本当にトモキと一緒。
「あのこちら、至らないことばかりでいろいろとご心配かと思います。すみません」
「いいえ、いいえ、そんな……」
「これからは、お休みもなるべく取れるように配慮します」
「私、嬉しいんです」
「?」
「あの子には、家のこと弟や妹の世話で負担をかけっぱなしでした。こんなんじゃいけないとは分かっていても、いればつい頼っちゃって」
「トモキ君はしっかりしていて頼りがい、ありますもんね」
「だから、思いきってこちらへ行かせて良かったです」
「……」
「あの子には我慢しないで、自分の人生をちゃんと生きて欲しいので」
あの子には……か。
「トモキがこんな笑顔をするなんて、見たことなくて……初めて」
お母さんが、WEBモデルのトモキの写真を見せてくれた。
「我が息子ながら誇らしくて。親バカですけど待ち受けにしちゃいました」
クスクスっと笑った顔もトモキと同じ。
「これから、もっといい写真やステージを絶対にお見せするので、期待して下さい」
「楽しみにしてます」
「応援、よろしくお願いします」
「それではこの辺ですみません。親戚が来ていて席を探さないと……リサ、ユウキ、行くよー」
リサとユウキ、さっと母の元へ戻る。
「みなさん、トモキのことどうぞよろしくお願いします」
皆、一斉に立ち上がり、トモキのお母さんと同じように頭を下げた。
「それでは失礼しました。ステージ楽しみにしています。じゃ、トモキ、頑張って」
トモキは、うん、と頷いて見送る。
「ブスじゃなかったぞ」
閉まった扉の向こうからユウキの声が聞こえる。
「リサよりブスだよぉ」
「お前より美人」
「リサの方が可愛い!」
「ちょっと、やめなさい!」
お、おおい、そういう話はもっと遠くなってから言いなさいって。
「あの、すみません」
トモキが土下座しそうな勢いで頭を下げる。
そこで私のスマホが鳴った。
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