約束と決意
「目指すのは自己プロデュースアイドルチーム。楽曲、パフォーマンス、コンセプト企画、プロモーション、IP全般、全部をなるべく自分達でしていく」
「え、全部?!それって、だいぶ難しいんじゃない? 人、足りないでしょ?」
叔母さんが険しい表情をする。
「通常、曲は作曲家に頼むし、そこに合わせてパフォーマンスやスタイリングも決めていきます。各々分業で我々はマネジメントだけ、後はプロモーションもレーベル任せというのが楽なんです。有名なプロデューサーに楽曲を依頼すれば、話題にもなって……」
「そうよね、山口さん。そっちの方が楽で手間なし、マネジメントだけだって大変なのに」
だけど、全部にお金がかかるのっ!
いちいち外注するほど余裕があるわけじゃないのっ!!
自己プロデュース、とかカッコいい風に言ってるけど、つまりはケチケチ大作戦では? 手作りしたら節約になるよね、という貧乏発想じゃん?
とでもいいたげなシンと視線が合う。
「もちろん、はじめから全部やるのは難しいかもだけど、それを出来るポテンシャルを持った人材を集めるのが肝になってくると思う」
「いる? そんな都合のいい人材が?」
叔母さん腕を組み空を仰ぎみる。
「自分達のコンセプトが最初にちゃんと決まっていれば、それがグループのカラーになって強みにもなるはず。最初から積み上げることで絆も生まれるだろうし。他に山ほどいるライバルたちと差別化するにはそっちの方がいいと思うんだよね」
「ライバルか、ライバル意識するの重要よね、そうね。KポップやUSアーティスト辺りかしら?」
叔母さん、ハードルめちゃあげてくるな。そして俄然やる気湧いてきたっぽいぞ。
「今まで、男性アイドルグループは、某大手事務所の顔色伺うところがあったけど、なるほど……出陣するなら今がチャンスね。だからボーイズなのね奏ちゃん!!」
出陣て叔母さん、こちら金塊も武器もなんにも揃ってないの。ゼロからじゃなくて借金分マイナスからのスタートで。
つまり、農民一揆ぐらいの規模よ。
「でも、どういった個性が集まるか、それがわかるまでは決められないわよねぇ」
「そうなんだよね。シンには悪いけど。具体的なことが言えなくて申し訳な……」
そこで不意に、小汚ない手拭いを被りボロい鍬を持つ百姓姿のシンが、私の脳内に生まれてしまう。
「なんか申し訳ないって言いながら、にやけてますか?」
「いや? そんなことは(ふふふ)」
そこで叔母さんのスマホが鳴った。
叔母さん、画面を見て慌てた様子で電話に出る。
「もしもし、あ、はい。……すぐ、すぐに行きます!!」
「病院から? パパが?!」
「うん、意識が戻ったって、早く行こう」
私と叔母さん、山口さんとシン、みんな一緒に急いで病院へ向かった。
☆☆☆
「心配をかけたようで……」
パパがしっかりした言葉を発し会話が出来るようになったのは、目覚めてから1日程経ってからのことだった。
病室には山口さんと私がいて、今は山口さんと話をしている。
お医者さんから後遺症のことを聞いた。
左半身の運動機能に少し麻痺があるけれど、しっかりリハビリを頑張れば、歩行や日常生活に問題ないくらいには回復するそうだ。
「会社の方は」
「……実はその事でお話したいことが」
山口さんが、今の会社の状態と今後の計画について話した。
パパは黙って最後まで話を聞いてから、暫く窓の外を眺めていた。
私もなんとなく外に目をやる。
新緑が午後の陽射しを受けて艶やかで綺麗だ。
「奏」
呼ばれてベッドサイドまで行く。
「男の子を預かるというのはとても責任の重い事なんだよ。半端な考えや計画でやるもんじゃない。少し差別的ではあるけれど、女の子なら、将来的には結婚という選択肢もある。しかし男はそうはいかない。大げさなようだけど、一生の面倒をみるという覚悟がないとやってはいけないと私は考えている」
「はい」
「お前が考えている程、華やかで綺麗な世界でもない」
「わかっているつもりです」
「それに……奏には奏の進むべき道があるだろう? パパの会社のために、それを犠牲にしてほしくはないんだ。会社は……手放すことも考えているから」
「えっ?! 手放すって? !」
「山口さんには、本当に申し訳ないです」
「パパ、そんなこと言わないで、私にやらせて?」
私の進むべき道は私が決める。
今は少しでもパパの力になりたいと思っているし、そうすることに迷いはないから。
「社長、シン君のことはどうしますか? もし、彼が挑戦してみたいと言ったら?」
山口さんがちょうど良く助け船を出してくれた。
「そうだよ。たった一人、パパを信じて残ってくれた人じゃない」
「約束したんじゃありませんか? 必ずステージに立たせるって」
山口さんの言葉に心が動いたのだろうか?
パパの堅かった表情が少し緩んだように見えた。
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