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Tって言われた、悪口ですか?


「やっぱり奏はTだな」


ユウトが首を傾けパチリと瞬きをした。


「感情には流されにくい」


シンもウンウンと頷く。


「ティって? なんのこと?」


「MBTI、性格診断のことです」


「えむびーてぃーあい?」


「Myers-Briggs Type Indicator」


え、ユウト今なんて? 発音良すぎてわからなかった。


「アメリカ発祥の性格診断のテストで、少し前に韓国で流行ってました」


「血液型占いみたいなの?」


「違います、質問に答えると、おおまかに16タイプの性格に分けられるってやつで、人との関わり方もわかるんです」


「占いじゃん」


「もう、そうそう、そういうところですね。Tの人は論理型で感情にはあまり左右されないんです」


「ふーーーん。で、なんか悪口? Tは性格悪いみたいな?」


「あ、もういいです。忘れてください。占いみたいなものなので……うん絶対T」



☆☆☆☆☆



「やりたいようには出来ないんだな」


ユウトの言葉が頭を離れない。


目指しているのは自己プロデュースアイドル。グループのコンセプトから音楽性、目標や目的、全てを自分達で決めて自分達のポリシーに従ってやる。


これって、私が最初に提示したことだ。


彼らがやりたいということをやらせないのはそれに矛盾する。


「お、どうした? 今日は来る日じゃないだろ?」


パパが読んでいた本を置いて、意外という顔で私を迎えた。


リハビリの病院には、叔母さんと交代で週2回ほど来ていた。


パパは身の回りの事が一人で出来るまで回復してきている。


だから最近は来る回数を減らしたのだ。


「うん、ちょっと相談したいことがあって」


「そうか。じゃあ、ちょっとコーヒーでも飲みながら話すか」


パパがベッドから立ち上がる。

私は杖を渡し軽く支える。


「ありがとう、大丈夫だ。一人で歩けるから」


「うん」


私はゆっくり歩くパパの後を付いていき、院内のカフェに入った。


パパはコーヒーを、私はカフェオレを頼んだ。


「こんなふうに向き合って座るのは、久しぶりだな……」


「……そうかもね」


入院する前も、家で顔を合わせることは滅多になかった。


パパは気まずそうに笑ってコーヒーにミルクを入れた。


それもガバガバ大量に。


「そんなにミルク入れるならカフェオレ頼めばいいじゃん」


「ハハ、そうか? この薄いミルクの安っぽい味が好きなんだ昔から」


「え、それ牛乳とか生クリームじゃないの?」


銀色の小さなカップに入った白い液体を覗く。


「これは生クリームに似せた、何かだ」


「似せた何かって?」


「植物性の油だよ」


「え? 油なの?」


「不思議だろ? 見かけは同じでも実はまったく違う。似て非なるものだ」


「似て非なるもの……つまり偽物」


「まぁ、必要に応じて作られた代用品といったところだろ」


「必要に応じて作られた代用品……」


「それで、なんだ話って」


「うちの会社のアーティストが毎年参加していたチャリティーコンサートがあるでしょう?」


「病気の子供達の支援コンサートの事かな、それが?」


「シンがグループで参加したいっていうんだけど……」


「だけど?」


「私的には時期尚早だし、これといってメリットもないと考えていて、プレデビュー前で、デビューステージはちゃんと彼らのファンが入った箱でやりたいと考えていて。だからって、出たいっていうのに、私が出るなって言うのは横暴なんじゃないか? 彼らの意思を尊重しなくちゃいけないのでは、とも思ったり……その前にそもそも、デビュー前の新人が出られるのかもわからないでしょ? 」


そこまで一息に捲し立ててやっと息を吸った。


「そうか」


「わかる? 今ので」


「わかったよ、充分」


「シンはどうしてそのコンサートに出たいか言っていたか?」


「実はトモキの弟さんが病気で、ちょうどそのコンサート辺りの日程で一時的に退院するらしくて。トモキのステージを弟さんと家族に見せてあげたいって……その気持ちはとてもわかるんだけど」


「結論から言えば、出られないことはないんだ。頼めば出演はさせて頂けると思うよ。あの団体さんとのお付き合いは長いから」


「出られる……」


「それから、確かに経費は少しかかるかな。移動、衣装、メイク、食事、宿泊。でも、そんなものくらいだよ」


「うん……」


「出たっていいんじゃないか?」


「え?!」


「初ステージを、そこでやりたいんだろ? 彼らは。ちゃんとそこに意義を見いだしているんだ」


「ほんとにいいのかな?」


「先方には私が話しを通しておくよ」


「そっか、良かった」


「なんだ、反対していたんじゃないのか? 」


「あれ? そうだよね」


どうして、喜んでいるんだろう私は。


「ちょっと前の私なら、奏と同じ考えだったと思う。自分がこういう立場になって、初めてわかることもあるんだな。長年アーティストを出演させておいてなんだが」


パパは、まだ不自由そうな右手でカップを持ち上げた。


「彼らがステージに立つことで誰かの力になるかもしれない。だけど、それ以上に彼らが得るものの方が多いんじゃないかって思えるんだ……少し準備を早めて、プレデビューを前倒ししても良さそうじゃないか? この前のプレゼン、良く出来ていたし」


「うん、まぁ。それもありか」


私はその場でシンへ短いメールを打った。




『初ステージが決まりました。

おめでとう』



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