魔女との対面
神父から教わった邸へと到着したジラークとカマベルは、扉の前にある鐘を鳴らした。しばらく待っていると、邸の中から1人の女性が出て来た。
「あら、ジラーク様にカマベル様。ごきげんよう。……お2人してどうかされましたか?」
「ごきげんようマリア嬢。ん、んん……えーと、セラフィはご在宅かな」
「……いいえ」
マリアは何かを知ってるかのような様子であったが、彼女自身は何も知らないかのように振舞っていた。すると、マリアの後ろから母親が姿を現した。
「マリア、どなたか来られましたの?」
その姿を見たジラークは、とてつもない魔力を母親から感じていた。
(この感じ……なんだ!まさか……)
ジラークはその女に何かを感ずいている事を悟られないよう、これまで以上に気を引き締め挨拶をした。
「お初にお目にかかります。私どもは旅をしておりまして、ファンシールにしばらく滞在させていただいております。私はジラーク、彼は連れのカマベルです」
ジラークに促されるように挨拶をし終えたカマベルの横顔からも、何かを感じているように思えた。
「これはこれは旅の方々……家に何か御用でしょうか?」
「いえ、その……教会の神父がセラフィの事を心配しておりまして……」
「まぁ!……あの子、毎日通ってましたもんね!ですが、心配には及びませんわ。少し風邪をこじらせているだけですの。もう少しすれば元気になると思うわ」
一瞬、ほんの一瞬だけ母親の様子がおかしかった事に気付いたジラークとカマベルは、一旦引き返すべく返事をした。
「そうですか、わかりました。神父にもそのように伝えておきます」
「えぇ、よろしくお伝えください」
母親が扉を閉めるのを見届け、ジラークとカマベルはその場から離れた。邸の裏へと周り、周囲に人の気配がない事を確認し、2人は小声で話し始めた。
「カマベル、お前も何か感じたか?」
「はい……なんといいますか……魔力を感じました」
「私もだ。この腰に着けていた短剣も反応していて少し焦ったけどな」
「あの女性は一体……」
2人が話し込んでいると、足元にはどこからともなく飛んでくる小石があった。
「なんだ!?どこから飛んでくるのだ?」
「ジラーク様、いてっ……」
勢いよく飛んできた小石は、見事にカマベルの頭に直撃した。
「悪戯……か?いや待て……飛んでくる方向は向こうだぞ!」
小石が飛んでくる方へと急いで向かうジラークの後を、カマベルも付いて行った。
~◇⁺◇⁺◇~
セラフィは、邸を訪れたジラークとカマベルに自分の居場所を伝えるにはどうしたら良いか考えていた。そして思いついたのが、『小石投げ作戦』だった。セラフィが閉じ込められている地下室には、ありとあらゆる所に小石が転がっていた。
(これをあの格子窓から投げれば、きっと気付いてくれるはずよ)
そう自身に言い聞かせ、セラフィは小石を投げ続けていた。
(もしかしたら小石が当たって、ジラーク様かカマベル様が怪我をしてしまう可能性もあるかもしれないけれど……そんな事言ってられないわ!)
そうして投げ続けた結果、ジラークとカマベルは小石が同じ方向から飛んでくることに気付き、飛んで来る方へと駆け寄って行った。
~◇⁺◇⁺◇~
「カマベル!どうも小石はあそこから飛んでくるぞ!」
ジラークが指を指す方を見ると、地面の下から小石が飛んできているようだった。
「どうしてあんな所から小石が……」
「よし!近くまで行ってみよう!」
「ジラーク様!お気を付けください!……いてっ」
「カマベルにだけ当てるだなんて、なんとも絶妙なコントロールだな!はははは」
「笑ってる場合ですか!」
「おっと、すまないすまない」
笑い声を上げながら2人は格子窓の近くまでやって来た。そして、その窓の近くに着くなり中にいる者に届くよう声を掛けた。
「あの……今、窓の近くに来たところだ。我々に何か用であろうか?」
返事をしたくても声が出せないセラフィ……。どう答えるべきか迷っていると、外からジラークの思いもしない言葉が聞こえてきた。
「もしかして、ここにいるのはセラフィなのか?……だとしたら、声が出せないのにも納得だ……ふーむ、どうするべきか……」
「ジラーク様、小石で反応を聞いてみても良いのではないでしょうか」
「なるほど!答えやすいようにすれば良いんだな!」
カマベルの提案にセラフィも幾分かほっとした。
「では改めて……我々が小石でも答えやすいように質問をする。イエスなら小石を1個、ノーなら小石を2個投げてくれ」
セラフィはジラークの提案に賛同し、小石を1個投げた。
「よし!これでなんとか話ができそうだ。ではまず、そこにいるのはセラフィで間違いないか?」
小石1個。
「やはりセラフィだったのか。だがどうしてこんな地中にいるのだ?……おっと、これでは答えにくいな、質問を変えよう……。セラフィは閉じ込められているのか?」
小石1個。
「おそらく、セラフィを閉じ込めたのはあの母親だろう。いや……待てよ……確か、セラフィの母君は、彼女がまだ幼い頃に亡くなっている……となると……継母!?」
小石1個。
「なんとかここから出られる方法はないのか……」
「ジラーク様、邸から誰か出てきます!一旦離れましょう!」
「わかった。……セラフィ、私たちは一旦ここを離れるが、すぐに戻って来る」
ぱたぱたぱた。
2人の足音が遠のき、その場には静けさが訪れた。
先ほどまでセラフィと話していた場所から少し離れた茂みに、ジラークとカマベルは身を潜めていた。近づいて来る人物が誰なのか確かめようと、ジラークがゆっくりと茂みから顔を出すと、そこにはマリアの姿があった。その表情はどこか暗く、何かを考えているようだった。
「お母様もひどいですわ!お義姉様の嫁ぎ先を教えて下さらないなんて……。ま、私には関係ないことですもんね」
スタスタ、と足早に邸から離れて行く姿を見ていたカマベルは、マリアが口に出した言葉を主がどのように聞いていたのか気になり、ふとジラークの様子を見ていた。
案の定、ジラークは驚きを隠せない表情をしており、カマベルは笑いを堪えるのに必死だった。
「カマベル!今笑ってたな!」
「いや……ふふ、すいません……ふふ」
「笑うのもいいが、笑えないこともあったのは事実」
「そう、ですね」
「よし、マリア嬢も見えなくなったことだし、セラフィの元へと向かうぞ!」
「はいっ」
2人は辺りを警戒しながらセラフィの元へ急いで戻った。
「セラフィ、私だ、戻ったぞ」
返事をするかのようにジラークの元に小石が飛んできた。
「よし!セラフィ、なるべく格子窓から離れるんだ」
「ジラーク様!?何をされるおつもりですか?」
「この窓を破壊する!」
「破壊ですね!それはいい案です!……いやいやいやお待ちください!そんな事すれば、邸内に響きますよ!」
「私を信じろ!」
ジラークの言い放った一言のカッコよさに、カマベルは大人しく従うことにした。
セラフィも彼を信じ、できる限り格子窓から距離をとった。
ジラークは腰に着けていた短剣を鞘から取り出し、自身の顔に近づけて何かを唱えた。すると、瞬く間に光がジラークを包み、やがてその光は短剣へと移った。
その頃、セラフィにもある異変が起きていた。ジラークが短剣を取り出したと同時に、肌身離さず着けていたネックレスが光っていたのだ。
(まるで……ジラーク様の短剣に反応しているみたい……)
セラフィがそうこう考えてると、格子窓が粉々に砕け散る様子が目に入ってきた。破片が落ちて来る、そう思い身を庇うも上からは何も落ちて来なかった。
「セラフィ、怪我はしていないか?」
上を見上げると、格子窓があった場所からジラークが顔を覗かせていたのだ。
「いますぐここから出よう!」
ジラークの提案にセラフィは大きく首を左右に振った。
(この高さから出られるわけないわ!)
「カマベル、ロープを」
ジラークがカマベルに声を掛けしばらくすると、長いロープがセラフィの目の前まで下ろされてきた。
「セラフィ、そのロープを掴むんだ。私とカマベルで引き上げる!しっかり掴んで離すんじゃないぞ!」
こくり、とセラフィは頷き、ロープを両手でしっかりと掴んだことを確認したジラークはカマベルに声を掛けた。
「速くかつ慎重に行くぞ!」
「はい!」
「せーの」
2人は息を合わせ、ぐいぐいとロープを引き上げた。
「セラフィ、もう少しだからな」
窓枠まで到達すると、最後はジラークの手によってセラフィは引き上げられた。そのままジラークはセラフィを胸元へと引き寄せ、彼女を目一杯抱き締めた。
「セラフィ、無事で良かった」
(この姿勢は……すごく恥ずかしいです!)
セラフィはジラークの胸元をポカポカと叩き、一瞬の隙をみてジラークを押しのけた。
(これは心臓に悪すぎます……)
「急に抱きしめてすまない……その、セラフィの事が心配過ぎて……ん?」
恥ずかしさのあまり俯き、顔まで真っ赤になったセラフィの顔を覗き込むジラーク。
その事に気付いたセラフィは思わず顔を背けた。
「ジラーク様、セラフィ様がお困りです」
「これはこれは失礼しました」
「さ、ここを離れましょう」
カマベルに促され、ジラークとセラフィは急いで邸の敷地内から離れた。
「ジラーク様、どちらへ向かわれますか?」
「そうだな……。教会へは行けないからな……一旦、あの森にでも行こう」
3人は後方を気にしながら、街はずれにある森へと足早に進んだ。
森へと一歩足を踏み入れると、不気味なほどの静けさに加え、何羽ものカラスが上空を飛んでいた。鳴き声を上げるカラスたちはまるで、話をしているかのようにさえ思えた3人だった。
「セラフィ、大丈夫か?」
首を縦に振り、頷くセラフィの様子を見たジラークは安心し歩みを進めた。
しばらく歩き続けると、古びた城が目の前に見えて来た。
「なんとも言えないほどの城……だな」
「そうですね……」
「あらあら、それは褒め言葉かしら?」
この場では聞こえないはずの声に一同は振り返った。
すると、そこには先ほど邸で別れたはずのセラフィの継母の姿があった。だが、声は継母であるも恰好が明らかに違っていた。その女から放たれる魔力から、ジラークは目の前にいるのが古の魔女であると確信した。
「まさか私が気付いていないとでもお思いかしら」
「く……古の魔女!どうしてここに居るとわかったんだ!」
ジラークは声を張り上げながら咄嗟にセラフィを背で庇った。
「この森にあなた方が足を踏み入れたと彼らが教えてくれたのよ。この私の自慢の優秀な僕たちですわよ」
そう言い、魔女は木々に止まっているカラスたちを指さした。
「厄介な……」
「それはそうと、セラフィをどうされるおつもりですの?ウェールジュ王のご子息、ジラーク王太子殿下」
虎娘『聖なる歌に想いを込めて 魔女との対面』
を読んで下さり、誠にありがとうございます。
良かったと思ってくださりましたら、★★★★★のクリックをお願いいたします!
感想をいただけますと作者の励みにもなりますので、よろしくお願いいたします。
今後とも虎娘の作品をよろしくお願いいたします。