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魔女の思惑

 セラフィが声を失い数日が経過していたが、一向に魔女の魔力が回復する兆しはなかった。

 自室に閉じこもり、魔女はどうするべきか悩んでいた。

(セラフィの声を封印するだけではいけないの?一体……どうすれば……)


 室内をうろうろとしていると、扉をノックする音が聞こえて来た。

 コンコンコン。


「お母様、マリアです」

「何か用ですの」

「少し買い物に出掛けますが、何か要るものはありますか?」

「何もないわ、気にかけてくれてありがとう」

「わかりました、行って参ります」

「気を付けてね」


 足音が遠ざかると、魔女は顔をしかめた。


「本当の娘でもないのに、何がお母様よ。孤児だったのをいいことに、上手く利用されているだなんて知ったらあの子はどんな顔をするのかしら、ふふふふ」


 そんな事とはつい知らず、マリアは街へと出掛けた。

 最近、令嬢の間で流行っているカフェへと行き、優雅にモーニングを楽しんでいた。ふと、外へ目を向けると、そこには見覚えのある顔があった。それも教会の子どもたちだけではなく、見知らぬ男性2人と歩いている姿だった。

(どうしてお義姉様が男性と歩いているの?それに……あのお方は一体どなたなの?)

 時折見せるセラフィの笑顔に、マリアは心の奥から沸々とした黒い感情が込み上げてきた。

(あり得ないわ!こんなことはあり得ない!)

 手に持っていたカップを勢いよく置いた時に生じた大きな音を気にする素振りも見せず、マリアは急いで店を後にした。



「この辺りは来たことないから新鮮だ!」

「そうですね」

「あっちに行くとねー、おっきな噴水があるんだよぉ」

「それは是非とも行きたい!」


 子どもたちと一緒になって(はしゃ)ぐジラークの姿をにこやかに見つめるセラフィ。従者のカマベルも呆れながらも、主の姿を見守っていた。


「お義姉様、一体何をなさっているのかしら」


 ふと後ろから声をかけられ、振り向くとそこにはマリアの姿があった。マリアを見たセラフィの表情は、驚きと戸惑いを隠せないでいた。


「こちらの令嬢はセラフィの妹君なのか。初めまして、麗しい人」


 ジラークはマリアの手をとり甲に軽くキスをした。


「あら……初めまして。お名前を伺っても?」


 目の前に突然現れた整った顔に、マリアはほんのり頬が赤く染まった。


「名乗り忘れていた、すまない。我が名はジラーク、こっちは一緒に旅をしているカマベルだ」

「よろしくお願いいたします」

「こちらこそよろしお願いいたします。それにしても、お義姉様とお知り合いだなんて……驚きましたわ」


 セラフィを見るマリアの目は笑っているように見えて、なにか言いたげな目をしていた。


「ファンシールでの宿がなくてね、街はずれにある教会でお世話になってるんだ。そこで彼女、セラフィと出会って子どもたちと一緒に街案内をしてくれているんだ」

「でしたら、私も案内させていただきますわ」

「そうか。ではお願いしようかな」


 セラフィは自分がこの場にいてはいけないような気がしたため、近くにいた子どもの肩をトントンとした後、帰るね、と口話で伝えた。

 後ろ姿を見つめる子どもの表情は暗かったが、セラフィは振り返ることなく自宅へと帰った。

(まさか……マリアがあの場に来るだなんて……あの子たちに悪い事をしたかしら……)


 セラフィは内心穏やかではなかった。

 マリアや義母と離れるために通っていた教会に、ジラークやカマベルが泊っていると知り、おそらくマリアはこれからも通うのではないか、彼女は不安な気持ちでいっぱいだった。

(こんなこと、考えても仕方ないわ……)


 そう自分に言い聞かせ、セラフィは自室へと戻ろうとした。そんな矢先、継母のいる部屋から不気味な声が聞こえてきた。セラフィは気になり、足音を忍ばして継母のいる部屋へと向かった。

 部屋の扉が少し開いており、セラフィはそっと中を覗いてみた。


「さぁ、水晶よ~、我に示したまえ~この先の運命を~」


 そこにいたのは継母の姿ではなかった。黒いマントを羽織り、表情からしても継母の面影は見当たらず、言い表すとするなれば“魔女”、この言葉がしっくりとくるだろうと思いながらその姿を見つめていた。

(あれが……お義母様の……お姿なの……?)


 セラフィは見てはいけないモノを見てしまったような気がしたため、早くこの場から離れようとした、が、足が動かずなかなか離れられずにいた。

(このことをお父様に言わないと!きっとお父様ならわかってくれるわ!)


 そう意気込み、セラフィは震える足を無理やり動かした。

 父のいる部屋まで辿り着き、扉を何度も叩くも中からの反応はない。

(……お父様!お父様!)


 セラフィは必死に扉を叩いた。

 いつまで経っても扉の中からの反応はなく、彼女は恐る恐るドアノブを握り扉を開けてみた。

 中へと入り室内を見渡すと、ベッドに横たわる父の姿があった。セラフィは父の元へと近づき肩をゆすってみるも、反応はなかった。

(お父様、どうして目を覚ましてくれないの!お願い、目を覚まして!)


 セラフィの目からは、大粒の涙が零れ落ちた。

 父に縋り付き涙を流していると、カツンカツン、と足音が近づいて来た。次第に大きくなる足音だったが、セラフィはその場に留まった。足音が止んだと同時にある人物の声が聞こえて来た。


「あら、セラフィ。こんな所で何をしているのかしら」


 目の前には、継母の姿に戻った魔女の姿があった。

 涙を拭い、継母を睨みつけるセラフィに対し、不気味なまでに微笑む継母……。


「まさか、貴女に気付かれるとは思わなかったわ。さぁて、どうしましょうかね……。そうそう安心なさい、貴女のお父様は眠っているだけですから。まぁ、このまま目を覚ますことはないでしょうがね……ふふふふふふ、はははははは」

(こんな所にいてはいけないわ!助けを呼ばないと!)


 セラフィは魔女が話している隙を見てその場から逃げ出そうとしたが、魔女には彼女の行動全てがお見通しだった。


「馬鹿な娘ね。そう易々と逃がすわけないでしょう!」


 魔女が呪文を唱え、右手を振り上げ空中で円を描くようにして回すと、どこからともなくロープが出てきた。そのロープはそのままセラフィの身体へと巻き付いたかと思うと、彼女を床へと叩きつけたのだ。


「ぐっ……」

「ふふふ、その顔も良いですわね。ここまで貴女に見つかってしまっては計画が台無しですの。先ほども私の部屋を覗いていましたわよね、この私が知らないとでも?」


 声が出せないセラフィにとって、この状況をどうすることも出来なかった。

(声が出せなくなったのも、きっとお義母様、いえ、魔女のせいなんだわ!)


「せっかくの機会ですからね、特別に貴女に教えて差し上げますわ。貴女の声は私の魔術で封印させていただきましたのよ。どうしてですって?水晶が教えてくれましたの。私がこの先も美しく強い魔女でいられるためには、貴女のその声が邪魔だって……。ですから、特別な魔術で封印させていただきましたの。……さ、お喋りはここまでにしましょうか。もうじきマリアも帰ってくるでしょうからね……。安心なさい、貴女の命は奪わないわ、どうするか、これからじっくり考えますわ。おほほほほほ」


 セラフィは、目の前で不気味な笑みをこぼす魔女を睨みつけるしかできないでいた。

 こうして全ての事を知ったセラフィは、いつの間にか作られていた地下室へと閉じ込められたのだ。

 格子窓はあるものの、セラフィの身長では届かない位置にあった。声が出せない彼女にとって、どうすることもできないまま時間だけが過ぎて行った。


~◇⁺◇⁺◇~

 

 その夜のこと。

 ジラークとカマベルは教会で管理されている書物を借り、部屋で読んでいた。


「なぁ、カマベル」

「なんでしょうか」

「セラフィのあの表情……、何かあるのかな」

「はい?何かって……何ですか?」

「マリア嬢が来て、セラフィが帰ってしまったではないか。子どもたちも……マリア嬢に懐いている感じはしなかったし……」

「マリア様はきっと殿下の事を気に入ったのでしょう」

「やはり、お前もそう思うか」

「殿下……、マリア様の気持ちに気付いていたのですか!?」

「あぁ。彼女の態度から……何となくだけどわかったよ」

「そうでしたか……見目麗しいですもんね……なんとも羨ましいことで……」


 最後の方は小声だったためジラークには聞こえなかった。

 書物を読みながらではあるが、ジラークの頭の中に浮かぶのはセラフィの笑顔だった。

(明日、教会を訪れたら話をしよう)


 だが、その願いは叶わないのだった……。







虎娘『聖なる歌に想いを込めて 魔女の思惑』

を読んで下さり、誠にありがとうございます。


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今後とも虎娘の作品をよろしくお願いいたします。

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