第4話 山間 里鬼《やんま りおに》
大日は、さっきまでいた教室に戻っていた。
(しかぁし、今の俺は、さっきまでの俺じゃない!!)
目の前でふざけているこいつ…里鬼のことをよく知っている。こいつが本当に大鬼だということだって!
「おい里鬼」
だから、名前を呼んだ。
「なんだい他人くん…っておい!設定破るなよ!」
「やだよーだ。破るに決まってんだろーが。」
「酷い!俺泣いちゃう!」
「泣くな気色悪い。」
「がーん。」
俺とこいつの関係は友人でありライバルだ。あまり仲良くなりすぎると、情が出てきてしまって競うときに本気で競えなくなってしまう。
こいつとの間において、それだけは避けたい。
それから2人は、もうすぐ先生が来てしまう時間なので席についた。俺は左から2番目で一番後ろの席、里鬼は同じ列の一番前の席だ。里鬼は低身長で俺は高身長だから、多分身長が関係してこういう配置なのだろう。
少しして、ガラガラっという音と共に先生が入ってきた。入ってきた20代後半くらいの先生は、人目をひく美しい女性だった。
「なあ、今日の先生髪型違うよな。」
「な。いつものも綺麗だけど今日のもさいこー。」
そんな会話が、男子陣から聞こえてくる。
それくらいだし、確かに綺麗なのは認める。
認める。認めるけど。
(姫の方が、綺麗だ。)
溢れるオーラが青羽様とは全然違った。青羽様からは温かくて輝くオーラが感じられるが、この先生からそれは感じない。
優しさと美しさがつまったあのオーラがないのだ。
(つまりこいつはブスッ!!)
失礼だとは思うが、個人の意見だから仕方ない。そう思って先生を睨んでいたとき、横の席の女子から紙がわたされた。
【大日なにセンセーのことみてんのーww
いっつも青条のことばーっかり見てたのに。ガッコーに来な
くなった途端に美人に目がくらむようになったんだー?
青条悲しむよー】
読むうちにふつふつと怒りがこみ上げ、ついカッとなって立ちあがり、先生を指差して叫んだ。
「こんなブス女興味ねぇから!!」
そして隣の席の女子の方を向いた。
「勘違いすんな!俺はいつだって姫一筋なんだよ!!」
そう言い切り、息を切らして椅子に座った俺は、しんと静まり返った教室の空気を感じた。
(やば…)
案の定先生はぶちギレていて、肩をわなわなと震わせていた。
「…構切君?ホームルーム後、職員室に来るように…。」
言い忘れていたが、俺の今のフルネームは構切 大日だ。
「は、はい…」
今ここで殺されないことに安堵しながら、そういえばと紙を読み返す。そこには確かに「青条」という姫の名前と「学校に来なくなった」ことが書かれていた。
(つまり姫は、ここの学生…?それで、拐われた今学校では不登校扱いにされてるってことか…?)
先生からの信頼は失ったものの、有益な情報を手に入れた。
(まあプラマイゼロだしいっか!てか早く家帰んねーと)
結局その日はずっと、怒られてる最中でさえ上の空だった。
そして帰る時間。教室から急いで廊下に走りだした俺を、校門前でひとつの声が呼び止めた。
「大日!!」
振り向くと、そこには青い髪を揺らしたあいつが。
「?どうした、里鬼」
「お前さ、青条様のとこいくつもりだろ?俺もいっしょに行く」
息を切らしながら里鬼はそう言った。走って追いかけてきたのだろう。
だか、俺はこいつの意図が分からなかった。
こいつの守るべき姫の光羽様…今世でいう煌羅様は無事だというのに。
「は?なんでお前が…」
「煌羅様の笑顔と、ついでに、お前のため」
俺の、ため?
「…お前俺のためはないだろ、」
「んーん、間違いねーよ。だってさ、これまでのお前は俺以外の人の悪口なんて言わなかった。それどころか、人をほめることが上手くてお前の存在に救われてる人もいた」
そうなのか?これまでの大日は、そんな真っ当としていたのだろうか。
あの少女から聞いたことでさえ、姫のことを大好きだったこと以外の情報は確信が持てていないのだ。こいつの言うことを信じる方がバカなはず…。
「俺の存在が人を救った…?そんなことあるわけねぇだろ」
「あるんだよ。お前は多くの人を救ってたんだよ。」
「は…?」
「その反応もお前のために俺が動きたい理由だよ。これまでのお前はさ、凄いねとかありがとうって言われたら」
言われたら?
「だろ?とかどういたしましてとか言った後」
後?
「姫に誇れる俺でいたいから、とかかっこつけて言ってたんだ」
「姫に、誇れる俺でいたいから…」
不思議と馴染んだその言葉。これまでの『記憶』はないのに。
たしかに、青羽様の前での螂谷はいつもかっこつけていた気がする。困った人に手をさしのべて、そんな言葉を放ってた。
「お前が青条様に好かれたくてしてた数々の優しい行動は、お前の気づかないうちに色んな人を救ってたんだよ…」