第3話 大日のこれまで
高校に行った大日は、見知った顔の少年と出会う。しかし彼の名前が分からず、困っていると…
こいつの前世での名前は、大鬼。俺の職場の同期であり、青羽姫の姉、光羽姫の付き人である。
俺と大鬼はライバルであり親友で、自分の姫を自慢しあったり食事の取り合いをしたりと、とにかく仲がよかった、と思っている。
「あー、今日寝坊しちまって。えーっと、誰だっけ?」
遅刻しかけたことについてはそう適当なことを言っておく。ただ俺は大鬼の今世の名前を知らないから、ふざけているフリをして名前を聞き出そうとする。
「寝坊~?珍しいですね、誰かさん」
「は!?お前さっき名前呼んでただろ!」
「何のことですか?」
しかしこいつもふざけだし名前は聞き出せなかった。こいつとは今世でも仲良くしているだろうから、名前くらい知っておきたい。
そう思った途端、時空が歪み、視界が真っ暗になった。
気がつくと、俺は今世で最初に目覚めた森であろう場所にいた。
背後に感じた慰霊碑の気配と、目の前にあの少女が立っていることから、あの森だと確信する。
「うーんと。ごめんねいろいろ。」
少々は急に話しかけてきた。
「何が?」
「記憶のこととか、この森のこととかさ。全然説明してなかったでしょ。」
「あー、うん。そのこと教えてくれるの?」
「そう。ちょっと長くなるけど…」
少々は、神が作り上げた大日のこれまでの人生を教えてくれた。簡潔にまとめると、
1、一般家庭に生まれた。
2、5歳の頃、父親の不倫により両親が離婚
3、普通の公立小学校に入る。体育、国語の成績がよかった。
大鬼…(今世では里鬼)と出会い、友達に。
4、普通の公立中学校に入る。順位は半分より少し上
5、里鬼と同じ高校を目指して受験、志望校に合格。
6、1年で青条と同じクラスになり、恋をする
「俺ってごく普通の生活してたんだ。」
「まあそうだね、離婚もお兄さんからしたら普通だもんね。」
前世で、若いうちから大日が、螂谷が仕事を始めた原因は両親の離婚にある。両親はお互い金使いが荒くて、金が足りない金がたりないといつもわめいていた。
ついには喧嘩になりそのまま離婚。螂谷は父親の方についていくことになったが、父親は毎日のように酒を飲んで煙草を吸ってギャンブル。そして、当然父親は働かず生活費がたりなくなった。
酒をガバカバ飲んでいた父親は、ある日肝臓を悪くして入院したが、後すぐに死亡。当時小学6年生だった螂谷は生きることが苦しくなった。
そんな時に手を差しのべてくれたのが、姫だった。
ある雨の日、家賃が払えずホームレスでいた俺に「大丈夫?」と声をかけてくれた。傘を差し出し、ボロボロで痩せ細った俺に手をさしのべ、「家にくる?」と聞いてくれた。
姫が差しのべてくれたその手を、俺はとった。
その後は暖かい部屋でしばらく休ませてもらい、十分食事までいただいた。ずっと城にいてもいいよ、とも言ってくれた。その温かさに触れて、一生、青羽姫に忠誠を誓うと決意した。その日俺は姫に、姫の家来にしてほしいと頼み込んだ。
しかし姫は首を横にふった。
「螂谷はまだ12歳なんだよ。いくら望んでいても、子どもが働く必要なんてないんだよ。だから、だめ。」
親をなくし、同じ12歳ながらも働いている姫のその言葉は、自分のように辛い大変な思いはしてほしくない、という優しさがこもっていて。俺は涙をこらえて頷くしかできなかった。悲しそうな俺を見て、慌てて姫は付け足した。
「で、でもね!お仕事したいなら、中学校に行って。そしたらしてもいいよ。そこでいっぱい勉強して、卒業して、そのときにもまだ家来になりたいと思うなら、私の執事さんになってもらうね。学費は私が出すから。」
やっぱり姫は優しくて。沢山の可能性と希望をいっきにくれた。そして俺は姫の言葉の通りに中学に行き、卒業後家来にしてもらった。ちなみに初めて大鬼と出会ったのはその中学である。
俺と似たような境遇の大鬼は、俺とおなじように光羽姫に拾われたらしく、息もあい、すぐに仲良くなった。
「普通、そうだな。そうなっちゃったんだよ…、本当は少し期待してたんだ。今度は、優しい両親に恵まれるかなって。」
俺は、思ったことを直接伝えた。確かに片親や親無しが当然みたいに思うようにはなっていた。でも本当は、我が儘かもしれないけど、両親の愛を受けて育ちたかった。
「…大日さんの両親はね、二人ともとっても素敵な人なんだよ。」
「え?じゃあどうして離婚なんて…」
「それはないしょ。知りたかったらお母さんに聞くことだね。私が教えてもいいのは、大日さんがこれまでの人生で感じたこととやったことだけ。それ以外の情報は伝えちゃだめなんだ。」
困ったようにそういう少女は、嘘はついていなさそうだった。
「めんどくさいな」
「しょうがないでしょ!!ほんとはこんな空間に人は来れないんだからね!?」
「あ、それもそうか。ごめん。」
「わかればよし!じゃあまた何かあったら呼び出すからね!」
「ありがとう!またな!」
そうして、大日の視界は再び真っ暗になって…
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