第一話 冒険の始まり
螂谷は、小さな町の2番目の姫、青羽の付き人をしていた。
姫としても尊敬でき、女性としても非のないような彼女に、使用人の立場ながらも恋をしていた。
ある日いつものように姫と買い物をしていると、急に町のサイレンが鳴り響いて、数秒後にはなぜか町が水没していた。
町が水におおわれる。
皆の叫び声が聞こえる。
俺は、姫だけでも守ろうと、そばにいた姫の手を掴む。
抱き寄せて、少しでも町から離れられるように片手で泳ぐ。すでに姫の意識はなかったが、体はまだ温もりがある。死んだと決まったわけじゃない。まだ助けられるはずだ。
(どうか生きていてください…!青羽様!!)
しかし、どれだけ泳いでも町から離れられなくて、水から脱出することは不可能だった。もう息も腕も限界だった。それでも姫だけは。青羽様だけは…
町が水没してからどれほどたっただろうか。水を沢山飲んでとても苦しかった。体も動かなくなってしまった。意識が朦朧とする中で、もう一度、最後に、と姫を抱きしめた。
姫の体は硬くて冷たくて、
美しかった。
目が覚めると、周りの温度の低さに思わず身震いした。
しかし今はそれよりも…
「ど、どこだここは!?青羽様はどこに!?」
先程まで抱いていたはずの姫の姿がない。…その時、何かが心に引っかかった。
…青羽様って、誰だ?どこかの、姫。だった気はするのに、姿がわからないのと、自分がその人とどういった関係なのかが分からない。思い出せないだけなのだろうか。
そして、俺は誰なんだ?
「まあいい。そういうことは後から考えよう。うん。気になるけどどうしようもないしな。それよりここは…?」
美しい月明かりに照らされた、足元やその付近の地面が神々しい。周囲の木々も何だか壮大な感じがする。その時ふと気配を感じて振り替える。
そこには、1つの大きな慰霊碑があった。
[水没した蝶昆町。光羽姫、青羽姫、黒羽姫、町民217名、ここに眠る。犠牲となった220名に、これからを過ごす地として森を供える。]
それを見たとき、体に電撃が走った気がした。そうだ。ここであったんだ。何が?町の水没だろう。被害者は?青羽姫…。その名前がある。その時俺は…?俺は。
そうだ…俺は、ここで…死んだんだ。
姫を助けられなかったんだ…。そう思うと、後悔と悲しみが胸を貫いた。
警報が聞こえたとき、すぐにでも安全な場所に逃げようとしていたらよかった、姫はあのあとどんなふうになってしまったのだろうか、町がなくなってしまうだなんて。
いつの間にか、目から涙が溢れていた。ボロボロと溢れる涙の雫を堪えるなんてできなかった。
「青羽様ぁ…!!青羽様ぁ…あぁ!!」
嗚咽をこぼして泣きじゃくる。今はただ一人きりなのが、少しだけ螂谷を安心させた。姫がそばにいない状態なのに安心するのは初めてだった。涙なんて見られたくないから。
少し落ち着いて泣き止んだ頃、目の前にハンカチが差し出された。
「これ、使って。」
顔をあげると、少し困った顔をした少女がこちらを見ていた。人がいたんだ、と少し恥ずかしく感じたが、ありがたく受け取っておく。
「あ、ありがとう…」
「んーん。大丈夫よ。お兄さん、もしかして螂谷さん?」
「え、そうだけど、どうかした?というか、俺達知り合いなの?」
自分を知っている子らしいが、自分はこの子と会った覚えはない。記憶が戻っていない可能性も十分にあるが。
「ちがうよ。私が一方的に知ってるだけ。お姉ちゃんがよく話してくれたんだ。螂谷さんのこと。」
「お姉ちゃん?」
「そう。青羽お姉ちゃん。私は、りゅうざんした、産まれるはずだった、4番目の姫なんだ。」
王家の中に、流産した子どもがいたのは知っていた。そのショックで妃様が自殺したことも。妃様がいなくなったのが辛くて後を追った王様も。子どもながらに後を継いで、一生懸命町を守っていた姫様達も。
「君が…」
「そうなの。そして、ここはその時の世界の次の世界。螂谷さんは、生まれ変わったんだよ。」
「でも俺は今、結構成長した姿じゃん…」
「そうだね。神様の都合であなただけ転生が遅れちゃったもの。でも、やっぱり年齢は揃えてあげようって女神様が言うから。」
「これまでも俺っていた設定になるの?」
「そう!今時の神様をなめないで!」
今時の神様って…まあいい。ということは青羽様も同い年で転生しているはず。記憶の有無は置いておいて。
「はは…それより青羽様はいまどこに?」
「魔王城」
「は?」
思わず間抜けた声を出してしまった。でも、え?魔王城とは何ですか?
「あ、誤解させちゃったかな?正しくはとある星の王様のお城。そいつがあんまり極悪だから魔王って呼ばれてて、そいつの城は魔王城って呼ばれてるの。」
「あー、そういうこと!それは分かった。で、何でそんなところに?」
「さらわれちゃったの。今世でもお姉ちゃんは貴族のお家に生まれたから、他分、身代金目当て。でも私は知ってる。お姉ちゃんをお家に返すつもりはあいつらにはない。私はお姉ちゃんをお家に返してあげたい。」
「つまり!俺は青羽様を救いにいけばいいと!」
「話が早くて助かる助かる!あ、でも注意ね。今世のお姉ちゃんの名前は青条。螂谷さんの名前は大日。それだけよろしくね!」
1話を読んでくださりありがとうございます。嬉しいです!
ここまで見てくれたことにも感謝です✨
いいね、評価とっても励みになりますのでお願いします!!
他の作品も投稿してるので、よければそちらもみてくださると嬉しいです。