転生者として生きる
事故から目覚めた僕は自分の知らない世界にいた。記憶にないが覚えのある品に、自分の置かれた状況を知ろうとする。
遠くに雲が見える。暖かい日差しは眩しく、空を仰ぐと見たことのない大きな鳥の群れが飛んでいる。
「さて。一体ここはどこだ?」
気がつくと、周りは朽ち果てた古の建造物のようだ。少しばかり冒険心がくすぐられるが、状況の整理が必要だ。トラックに撥ねられた記憶はある。ただ傷がない。腕がタイヤに轢かれてちぎれたはずだが、傷跡がない。念のため服を脱いで身体を確認した。
「なんだこの傷!?」
心臓を突かれたような傷跡が残っている。僕にはこんな傷はなかったはずだが?それと先ほどの光景はなんだったのだろう。誰かと会話していたがうまく思い出せない。
「あれ?腕の火傷の傷がない?!」
学生時代生活のためバイトしていたレストランで負った火傷の傷が消えている。僕の身体じゃないのか?不安が頭をよぎるが、それよりも今置かれた身を案じるのが先だ。胸の傷は気になるが、今はどこも痛くない。
「ん?なんだこの服?」
冬物のコートを羽織ってたはずだが、不思議な民族衣装のような服装だ。しかしなぜだか違和感がない。むしろ今まで普通に着ていたので当たり前のような感覚。記憶の中でも見たことがないが、中世の魔術師のような装飾。それでいて禍々しさを感じない配色。とても丁寧な装飾に薄紫の滑らかな触り心地。とても高価なもののように思えた。
「ここは。。。一体どこだ。」
考えても仕方ないか。僕はトラックに撥ねられた。あのダメージだと確実に死んでるはず。でも生きてる。ん?生きてるのか?呼吸をして、大地の匂いを感じる。肌を触る感覚もある。生きているのだろう。それかここは黄泉の国か?
考えてもしょうがない。これからの事を考えよう。
あたりを見回すと崩れかけた回廊、天蓋のあるドーム、蔦の覆った石像などどことなく宗教施設のように見える。僕は円形の広場の中央に座っていた。あたりを見回すと、これもまた古そうな彫刻された杖と、革でできた鞄が落ちていた。鞄は頑丈な作りになっているがそんなに大きなものではない。持ってみると思いの外軽かった。杖は古い樫の木のような木目で、かなり古い時代に作られた代物のよう。ずっしりと重みがあるが、不思議なオーラが纏っているようにも見える。
僕は鞄を肩にかけて杖を立てた。
ズキン!!!
あれ?なんだこの感覚。間違いない僕この杖と鞄を知ってる。なんだこの感覚。これは僕のもの。とても大切な人からもらった大事なもの。なんで忘れてたんだろう?でもこんなもの持ってた記憶なんてないのに。
杖が身体に馴染む。鞄の重みが懐かしい。僕はきっと僕ではない誰かの人生でこの鞄と杖とこの服で旅をしていたんだろう。なんとなくだけど、僕は今までの肉体を失い、この身体を手に入れた。僕ではない誰かの人生を僕の力でやり直すのか。
「ははは。せっかく課長になって出世して。人生これからだったのになぁ。那美。どうしたかな。。。」
ふと事故に一緒に遭った那美が頭をよぎった。しかしどうすることもできなかった自分。息だえる前に意識が遠のき、何もできなかったことに少し心が痛かった。
「さて、よくわからない事だらけだけど、生き延びてみようか。この世界。まずは自分の事を知らないとね。」
僕の旅がまさにここから始まった。
自分自身が誰だかわからない僕は自分の倒れていた遺跡を散策することにした