異世界でギルド開設した俺はたまに冒険しながらのんびり暮らしたい
ある冬の日、突然人生の転機が訪れた。大切な後輩と自分自身の死を受け入れる間もなく、新しい世界での過酷だが充実した日々を異世界人が作ったギルドを中心に交差するストーリー。
はじまりの街
人々の行き交う丸の内の交差点。朝、家を出たときは雪が待っていたが、厚い雲の隙間から太陽の光がビルに反射し幻想的な雰囲気を醸し出している。僕は大手人材派遣会社に勤める28歳。就職希望者の将来設計を親身になって助け、多くの人の人生のやり直しに成功してきた。クライアントからの評価も高く、同期の中では一番出世すると噂も聞こえてくる。実際そうなのだが。。。正直、自分の能力が過大評価されている気がしなくもなく、若干むず痒い。ただ幸せを求めて助けを必要おつる人がいるならば喜んで助けたい、その結果が今の自分の実績に繋がっているんだ。
そんな僕だって、最初から仕事が出来てわけではない。むしろ会社に入った頃は、右も左もわからずに、よく上司から怒られたもんだ。時には行きすぎた叱責で会社をやめようと思ったこともなん度もある。人材派遣会社なのに、自分の仕事に自身を持てないなんてどうなのかな?なんて思いながらウジウジしていた時期もあった。そんな僕も今日辞令をもらい、課長に昇進することが決まった。今まで優秀な若手に支えられながら大きなプロジェクトもこなしてきたが、立場と役割を与えられ、これからさらに仕事が充実する。そんな予感に2月の寒空に吹く風も心地よく感じていた。
「昇進おめでとうございます!せーんぱい」
後ろから声をかけてきたのは3つ下の後輩の那美だ。
「ありがとう、那美。でもこれからが忙しくなるので嬉しいけど気が引き締まるよ。」
後輩と言いつつもとても仕事のできる後輩で、偶然新人の頃から僕のチームに配属になり、今回の昇進は彼女の力によるものと言っても言い過ぎではないような気がする。
「先輩、昇進祝いでご飯行きましょうよ!先輩の奢りで!」
まったくもう。ちゃっかりしてるよ。
「仕方ないなぁ。じゃあちょっとお昼は豪勢に行こうか!」
「さすが先輩!大好き!」
「おいおい、変なこと言うなよ。色々今の時代面倒なんだからさ。じゃあ行こうか」
「はーい」
コートの襟を正して、たまに上司との会食で利用するステーキハウスに予約の電話を入れる。
「え?先輩あんな高いお店に連れてってくれるの?!やった〜」
「ます、僕も自分へのご褒美かな。那美は運がいいな。特別だよ」
僕も明るい性格で顔の整った美緒は少なからずの好意を抱いてる。ちょっとした自分へのご褒美か。。。
僕はこの時に那美に会ったこと、ステーキハウスに行こうとしたこと、そしてその全てが運命に従った結果起こった事だと言うことを、
飲み込まざるを得なかった。
丸の内の歩行者天国に突如悲鳴が響き渡る。ランチ休憩中人通りが多い時間帯に、大型トラックが暴走して突っ込んできた。僕は咄嗟に那美の手を強く引き、僕の方に引っ張った。しかし残念ながら人の身体は大型の鉄の塊の前では無力で、なす術もなくトラックに巻き込まれ身体が焼かれるような感覚を感じた。
(熱い、寒い、痛い、冷たい。あれ?なんだこれ。何があったんだ?痛いのか熱いのか寒いのかわからない。身体が動かせない。那美は?どこ行った?)
視界に那美は入っていない。無事だったのか?
(あれ、目が開かない。なんだろうこのふわっとした感覚)
薄れゆく意識の中で、微かに視界の外から声が聞こえた。
「せん、、、ぱい。。。。いた、、、、い。。。。。」
(那美、大丈夫か、那美)
僕は声が出せずに後ろを振り向くこともできずに、那美が事故に巻き込まれたことを悟った。しかしながら、自分自身が動けずに、どうすることもできない中で、声を捻り出した。
「な、那美。。。。一緒にいこうか。」
なぜそのような言葉が出たのかわからない。その瞬間に優しい光に包まれ、僕は現世での生を終えた。